ハンバーガー=ジャンクフードというイメージが根付いている一方で、健康に配慮した、あるいは肉をなるべく食べずに環境に配慮したいという高まるニーズに対応し、植物性由来のパティを使用したハンバーガーを投入するチェーンが米国を中心に増えてきている。日本でもついに、あのモスフードサービスが商品を投入した。
植物由来食品は、食の一大潮流
食品業界に特化したトレンドリサーチの世界的リーディングカンパニー、INNOVA MARKET INSIGHT。同社の日本カントリーマネージャーを務める田中良介氏は、昨年(2019年)4月に開催された「ファベックス2019」の場で「TOP TEN TRENDS 2019」を発表、「植物性由来食品は、本物の肉半分、ヴィーガンミート半分といったハイブリッドにも受け入れられ、まだ伸び続ける」という背景からトレンドの2番目に「THE PLANT(植物由来)KINGDOM」をあげた。
そのトレンド予測を裏付けるかのように、「PLANT」の波は、ジャンクな食べ物の代表と言われるハンバーガーにも訪れている。
世界100カ国以上に店舗を展開するバーガーキングは、19年8月から、米国フードテック企業Impossible Foods(インポッシブルフーズ)が開発した、濃縮大豆プロテイン(たんぱく質)やじゃがいもプロテインを原材料とするパティ使用の『Impossible WHOPPER』を全米で販売開始した(ソースにはマヨネーズが使われており、ヴィーガン向けではない)。
世界最大のハンバーガーチェーン、マクドナルドも、2019年9月、カナダ・オンタリオ州でNew Plant-Based Burger『The P.L.T.(Plant. Lettuce. Tomato.)』のテスト販売をスタートさせた。こちらは同じく米国フードテックのBeyond Meat(ビヨンド・ミート)のパティを使用している。
そして日本でも、20年3月、モスフードサービス(東京都/中村栄輔社長)が、東京および神奈川の9店舗限定で、MOS PLANT-BASED GREEN BURGER『グリーンバーガー』(538円+税)を販売開始した。「グリーン」というネーミングは、環境や健康、モスバーガーのイメージを表しており、ほうれん草のピューレ―が練り込まれた緑色の「グリーンバンズ」を使用しているのもその象徴だ。
いずれもPlantベースのプロテインのパティを使用しているが、Impossible WHOPPERは「heme(ヘム)」という肉特有の風味を出す成分を含んでいたり、グリーンバーガーの場合は大豆由来の植物性たんぱくをベースにこんにゃくやキャベツを加えて食感をプラスしている。
他の植物由来バーガーと比べた、グリーンバーガーの特徴
この3つのバーガーの栄養成分を比べてみると(表参照)、Impossible WHOPPER、The P.L.T.は、グリーンバーガーに比べて、摂取カロリーが高い。それに対し、グリーンバーガーはコレステロール「0」、脂質や食塩相当量も、少なく抑えられており、健康志向を意識していることがうかがえる。
モスフードサービスは、これまでにも健康に配慮したメニューを開発してきた。
04年には、バンズの代わりにレタスではさんだハンバーガー「モスの菜摘(なつみ)」を発売(その後、いったん販売休止されたが、2016年から定番商品となった)。09年からは、山形県産の米粉を100%使用したバンズに、豚肉と玉ねぎを混ぜ込んだハンバーグをはさんだ「低アレルゲン」メニュー(卵・乳・小麦・えび・かに・そば・落花生を原材料に使用しない)の提供を開始。2015年には、大豆由来の植物性たんぱくを使用した「ソイパティ」商品の販売をスタートさせた。
そして今回の「グリーンバーガー」だ。
パティが植物性由来の原材料でできているだけでなく、バンズも動物由来の原材料(肉、魚、卵、乳製品など)不使用※。トマトのソースは、にんじん、ごぼうで食感を加え、さらに数種類のハーブで味に深みを加えている。仏教などで食を禁じられている臭いの強い野菜(五軍=ねぎ、らっきょう、にら、にんにく、玉ねぎ)を使用しないのも特徴のひとつ。
※ グリーンバーガーは、パティ、バンズの調理の際に、他の動物性食材と調理機器を共有しており、コンタミネーション(混入)の可能性があるため、「ヴィーガン」および「ベジタリアン」対応の商品ではない
販売初日に食べてみたが、正直、驚いた。パティの食感は、さすがに本物の肉よりも弱いが、脂っぽさが少ない分、シニア世代でも、食べた後に胃がもたれるような感覚にはならず、健康的なハンバーガーという印象が強い。
グリーンバーガーを投入する理由
同社広報によれば「ハーブ感がとてもいい、野菜がたっぷりでうれしい、肉の食感も感じられ満足感があるといった声が届いており、予想以上の売れ行き」だという。
先行販売の状況を見たうえで「5月ごろに全国販売をめざす」としているが、「販売数によって判断する」というより、店舗でのオペレーション(製造時)の改善点や、テイクアウト時の注意点などを確認するためのもので、「グリーンバーガーは企業としての姿勢を示すもの。ブランド価値の向上を目指するために位置づけられた商品」(広報)という。
グリーンバーガーの可能性についてINNOVAの田中氏は「インポッシブルミート、ビヨンドミートでもそうだが、本物の肉と比べて物足りなく感じるのは仕方がない。グリーンバーガーは見た目の色合いもいいし、五軍を使用しないというのも、十分、話題性がある」としたうえで、「植物性由来だけを訴求するなら、(グリーンバーガーを食べなくても)サラダでいいわけで、『プロテイン×植物性』をしっかり打ち出し、たんぱく質も摂取できる点をアピールしてもいいのでは」と語っている。