環境志向の高まりにより、紙の食器の需要が伸びている。パッケージメーカーの伊藤景パック産業(東京都)では、新規事業として子会社・WASARA(商品シリーズ名も同名)を2008年に設立しているが、同社は昨年ぐらいから黒字化に転換。脱プラスティックの流れも後押しとなっているWASARA事業をさらに強化する戦略だ。
陶器のような堅牢さを紙で実現
紙食器シリーズ「WASARA」の開発は12年前。紙食器のニーズが必ず到来すると確信していた伊藤景パック産業の伊藤景一郎社長は、「発売直後、欧米の消費者よりネットで注文が入ったものの、国内での需要はそう簡単には伸びなかった」という。
紙の食器といえば、薄く強度のない安物のイメージだったが、WASARAは堅牢にして丈夫でな独自の仕様。一度手にするとわかるが、デザイン性も高く、環境志向にマッチした食器である。
WASARAは紙とはいえ、原料が環境に負荷を与えないサトウキビと竹の繊維を使用している。これをパルプにして、最古の方式のパルプモールド製法で作り上げている。陶器のような堅牢さに加え、表面に見る「しぼ」(陶器の質感)の工夫にも特徴があり、デザイン、風合いが良く、食器として日本文化を象徴するようなイメージを持つ。
研究開発には1年半以上かけた。開発から5年目、フランス大使館で1500人規模のパーティーに使用してもらったことがきっかけで、その口コミで大使館関係のパーティーに使われ始めている。フランスの著名なシェフ、アラン・デュカスさんもWASARAの良さにいち早く気づいた。
テレビ「日経スペシャル ガイアの夜明け」で6年前に初めて、WASARAが紹介されて以来、4年前、昨年とWASARAに関連した情報の切り口で3回放映されている。WASARAは徐々に知られるようになり、地道な営業努力もあり、徐々に売上が伸びてきている。
WASARAの「峠の釜めし」が人気
駅弁で有名な「峠の釜めし」の荻野屋(群馬県)もWASARAを導入している。益子焼の器は1つ750gもあり、「複数個買うと重い」という声もあり、WASARAを使った峠の釜めし(27g、器だけの重さ)が人気を集めている。峠の釜めしは年間400万個を販売しているが、昨年は、約2割がWASARAに代わった。現在、陶器とWASARAの両方が販売されている。これから3割近くがWASARAになる可能性もある。
また、外食業界では慢性的な人材不足に苦しんでいる。洗い場のスタッフの費用とWASARAを使用したコストを換算して、人員を増やさない戦略を取っているのが、ビュッフェ形式の「旬八キッチン&テーブル」(東京・虎ノ門ヒルズの近く)。18年10月のオープン以来、使用している。収納スペースや水道代節約とWASARAの費用対効果、デザイン性と料理の盛り付けでもへたらない頑丈さが導入の決め手になっている。
成田国際空港を利用する航空会社の機内食の食器にWASARAが導入されているケースもある。東京オリンピックなど、訪日外国人観光客が増えるインバウン需要にWASARA需要は伸びると見込んでいる。日本料理を立食パーティー形式で利用するケースが増えてくるが、箸とWASARAを使った食べ方をするケースも急増する。
WASARAは21種類の商品が販売されている。よく売れているのは「角皿(中)」(6枚入り550円<ネット販売の価格、税込、以下同>)、「丸皿(中)」(6枚入り、550円)、「ボウル」(6枚入り、704円)、「猪口」(12個入り、726円)など。
日本文化の和食を楽しむ訪日外国人観光客はWASARAの紙食器に驚きと興味を示すのではないか、と早くも注目を集めている。
編集部注
伊藤景パック産業は年商143億円、創業110年の老舗。ファーストフード、CVS、