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進化するIoTを小売店舗運営に活かす方法!

2019年5月8日から10日の3日間、東京ビッグサイトにて、第28回「Japan IT Week春(後期)2019」が開催された。そうしたなか、セミナーおよび展示内容を通じ、流通小売業にとって気になるキーワードに関する動向をレポートする。第5回は、小売店舗に活かすIoTについてまとめた。

手に取った商品に合わせ、サイネージに広告を表示

 IoT(モノのインターネット)というと、スマートウォッチ、スマートグラス、AIスピーカーなどのように、ちょっと時代の先を行っているハードウェアを思い浮かべてしまいがちだ。しかし、現実には現場に近いレベルのところでも確実にIoT化は進展している。

 Japan IT Week春でも、そうした動きを感じさせる出展があった。AIに接続された専用ディスプレイ「AI shelf」(ミューオン/東京都/坪内俊樹社長)と、在庫管理や発注業務を自動化する「Smart mat(スマートマット)」(スマートショッピング/東京都/志賀隆之、林英俊取締役)だ。

「AI shelf」では、AIカメラがどの商品を手に取ったかを識別し、商品に合せてタイムリーにサイネージ上に動画広告を表示する

 AI shelfはわかりやすく言えば、メーカーが販促キャンペーンなどで使う専用の什器にAIカメラと手のひらサイズくらいのデジタルサイネージを取り付けたものだ。商品を識別できるように学習させたAIカメラがどの商品を手に取ったかを識別し、商品に合せてタイムリーにサイネージ上に動画広告を表示する。商品の動向(手に取られた商品は何か、手に取られたがもとに戻されたものはどれかなど)もデータとしてクラウド上に収集し、マーケティング分析に活用することができる。

 当日、試作用として展示されていたのは、複数種類のプチプライスコスメを陳列したものと、数種類の500mlペットボトルの飲料を並べたものの2パターン。前者の場合、どの化粧品を手に取るかにより、関連して使用する可能性の高い化粧品の動画を、後者ではお茶なのか水なのか炭酸なのかにより、相性のよい食べ物を表示させるようになっていた。

 什器のデザインは自由に作成することが可能。たとえば情報感度の高い若い女性を対象にした商品であれば、インスタ映えするデザインの什器にするといったこともできる。

 動画コンテンツは別になるが、ハードだけなら10万円くらいから導入が可能だという。

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ネットに接続できる“秤”で、在庫量を可視化、自動発注も

ネットに接続できる“秤”で、在庫量を可視化、自動的に発注も

Smart matは、インターネットに接続できる秤

 Smart matは、インターネットに接続できる秤だ。見た目はしっかりとした厚みのある棚板で、現在のところ、A3サイズ(耐荷重100㎏まで、100g単位で計測)とA4サイズ(耐荷重30㎏まで、10g単位で計測)がある。

 仕組みとしては、Smart mat上に商品を置いておき、定期的に重量や個数(事前に単位当たりの重量を登録しておく必要がある)を計測、在庫量、消費データとして可視化し、在庫管理データとして管理するのはもちろん、在庫量や消費データに応じて自動発注をかけることも可能だ。もともとはアマゾンでの自動発注を可能にする一般ユーザー向けのものとして開発が進められていたが、業務用としてのニーズが高いことがわかり、いまのような打ち出し方になったという。

 オフィス用品全般の通販を行うアスクルの場合、定期的にコピー用紙を納品している企業にSmart matを置かせてもらい、残数が一定量を下回った段階で自動発注する流れを構築している。ユーザーとしては、日々、利用しているコピー用紙のストックを気にせず、タイムリーに自動発注できるというメリットがある。またアスクルとしては競合対策になるというのが大きい。

 耐久性、防滴性に優れ、強化ガラスの使用により、薬品・衝撃にも強い仕様にできあがっており、一般のオフィスはもとより、飲食店・バー、流通・ホテル、病院・介護、工場・物流など、水濡れ、低温・高温、負荷のかかる場所での使用にも十分耐えるものになっている。

 SMでの導入も始まっており、とくにバックヤードでペットボトル入り飲料や調味料など、重量のあるものの在庫管理および棚卸しに利用するケースが目立っているという。

IoTの活かし方は、考え抜いて、ヒトが決めなければならない!

 今回のJapan IT Week春で実施されたセミナーに、ハウステンボス取締役CTO(最高技術責任者)を務める富田直美氏による「AI、ロボット、IoTの活かし方~店舗運営の未来を語る~」をテーマにしたものがあった。

 富田氏はロボットがチェックイン受付を行うことで注目を集めた「変なホテル」で、スタッフの削減とともに、ロボットの使用台数も大きく減らしたことでも知られているが、このセミナーにおいて、AIやロボットの活用に関して自身の経験に基づき興味深い考えを述べている。

「ロボットやAIは人から職を奪うと言われているが、ロボットやAIを活用しようとしている人が「そうしよう(=人から職を奪う)」という意図をもっているからであって、本来、ロボットもAIも、人が使う道具であり、人の能力を引き出すために使うものだ。現在のAIは、特定の層によるデータの囲い込みによって、だれにも使いやすいというものではなくなってしまっているが、本来なら、水道と同じように、プラグをつなげば、だれでもが同じように使うものであるべきだ。

 しかし、そのためには、人はもっともっと考えなければいけない。とくにこれからの時代のテクノロジーは、AIであれ、ロボットであれ、ハードのスペックをただ受動的に使うのではなく、利用する側がどうしたいのか、どうするのかを考えぬくことが必要になる。そうして道具として使えば、もっといろいろなことができる」

 

AI shelf」も「Smart mat」も、まだ、ある一面での使い方が示されているにすぎない。どんな可能性が残されているのかは、ユーザーがどれだけ能動的に使っていくかにかかっている。