猛暑日が続く今夏。ここ数年、話題が絶えなかったかき氷人気は定番化し、今、注目が集まるひんやりスイーツは見目麗しきパフェだ。ひと昔前は子供向けのイメージがあったが、複雑な構成と華やかな見た目で嗜好品化し、大人向けとなったのは約5年前頃から。その変遷と背景、そして多様な業態で作られ、進化を続ける“パフェ”の今を紹介する。
酪農王国・北海道の文化が全国に波及
パフェが注目されるようになったのは、酪農王国・北海道から。
もともと、老若男女がソフトクリームを食べる文化のある北海道では飲んだ後の「シメ」にパフェを提供する飲食店が多かったという。そんな中、地元のメディア製作会社が札幌の美味しいパフェを紹介したいと2014年に「札幌パフェ推進委員会」を立ち上げ、シメにパフェを食べることを「シメパフェ」と名付けて「札幌シメパフェ」ブランドを作った。翌年には公式サイトを立ち上げ、札幌でシメパフェを食べられる店を紹介し、話題になったという。
そんな動きが、2017年3月の人気テレビ番組で放送され、広く知られるように。そして東京でもシメパフェを提供する店が増えた。
中でも銀座4丁目交差点を見下ろすフレンチレストラン「ティエリー・マルクス」(2016年9月開業、2020年5月閉店)では、2018年からバータイム限定で「GINZA4丁目(シメ)パフェ」(後に週末だけカフェタイムも提供)を提供。「レストランが作るパフェ」をコンセプトにし、話題となった。
代表作の一つ「クープ・ドゥ・メロン」は、グラスの底から順にシャンパンのジュレ(ゼリー)/バニラのブラン・マンジェ/マスカルポーネチーズ入り生クリーム/クルミのクランブル(ザクザクしたクッキー)/丸くくり抜いたメロン/バジルのグラニテ(シャーベット)/チュイル(薄い煎餅状の飾り)という構成。
この頃からパフェはただ“甘い”ものではなくなり、酸味、塩味、苦味まで、複雑な要素が加わった。
注目すべきは進化系パフェと夜パフェ
以降、パフェは大人の嗜好品としての要素が増した。インスタグラムをはじめとするSNSでの露出・拡散の影響が大きく、以前からパフェを出す喫茶店やカフェ、フルーツパーラーはもちろんあるが、レストランやパティスリー、パフェとお酒の専門バー、中国料理店といったパフェとは無縁そうな業態のアイドルタイムにまでパフェ旋風が巻き起こっている。
中でも今年注目したいパフェの動きは2つだ。それが①工芸品のような「進化系パフェ」、②ブームよ再び!?「夜アイス・夜パフェ」だ。
①工芸品のようなパフェは、主にパティスリーのイートイン、アシェットデセール専門店(皿盛りデザートの店)、ホテルを中心にカフェでも構成が緻密なパフェを出す例が増えている。
パフェといえば、一番底はコーンフレーク、次にアイスと生クリーム、そして旬のフルーツが乗るような、フルーツが主役のスイーツといったイメージがあるが、彼らが作るパフェにコーンフレークは姿を消し、アイスクリームと生クリームでかさ増しすることもない。ケーキやアシェットデセールをグラスに構築したイメージだ。
パフェの魅力は、複数のパーツを「上から食べるしかない」という作り手の意図した順に食べてもらえること、味の重なりを緻密に計算できること、表現の幅が広い透明グラスを使うことが挙げられる。複数のパーツが溶けて混じり合って生まれる味の変化や調和も計算し、どの位置にどれくらいの量を盛り付けるか、を考えるという。
グラスを分断する盛り付けが流行
神戸・三宮のイノベーティブレストラン「柏木」が展開する、芦屋市のパティスリー「菓子屋 月ノ葉」では、季節のフルーツを中心に、様々なフレーバーを組み合わせるモクテル(ノンアルコールカクテル)をイメージした「パルフェ」を提供。
グラスに複雑な層を重ね、そのグラスの口にパイやサブレで蓋をして、パイの上にはアイスクリームやブリュレ、チョコレートや飴などをのせ、中にはクラッカーの上に紫キャベツのマリネやクリームチーズ、桃、ピンクペッパーをのせるレストランのアミューズのような「カナッペ」を盛ることも。まずはそのカナッペを手でつまんで食べてから、他を食べ進める趣向で、「グラスに盛り付けるコース」をイメージしているという。
こうしたグラスの上と下を分断する盛り付けは、今年のトレンドの一つで、グラスにクッキーやパイ、メレンゲといった保形性のある菓子で蓋をして、グラスの中と外を分け、上のものと下のものを混ぜずに提供する演出が増えている。上のものを食べてから下にパフェが現れるお得感、上にあるスイーツを食べてから蓋になっているパイやクッキーをそのまま食べたりザクザク割って下のパフェに加えたりする食べ方の広がり、蓋をすることで下と上で表現できることが違うといった魅力がある。
また、化学研究用品のシャーレを一回り大きくしたような底の浅いガラスの器を使うパフェも増えている。器の経口が広いため、表現が多様だ。
大阪・西長堀のテイクアウト専門店「デザート・プレイス・シキサイ」では、夏の夜空を彩る花火をイメージしたパフェを提供する。
また東京・上野毛のカフェ「ラトリエ・ア・マ・ファソン」では底の浅い四角いガラスの器を使い、印象派の画家・モネの庭の池を表現したパフェが。さらに同店では液体窒素を下皿に仕込んで煙を出し、「里山の朝もや」を表現した商品も提供するなど演出も凝っている。
このように叙情的な表現も増えており、それらがレストランのデセールではなく、パフェ専門店、スイーツ専門店で提供していることも近年の特徴だ。
夜しか食べられない特別感
そしてもう一つ、注目したい動きが②ブームよ再び!?「夜アイス・夜パフェ」だ。
2020年、大阪・八尾にできた「21時にアイス」は16時30分〜24時の「夜アイス」専門店。使い捨てのカップに、ソフトクリームやソース、フルーツなどで作るソフトクリームパフェを提供する。
この店を発端にして「パフェより手軽でソフトクリームより豪華に」をキャッチコピーにし、大阪と京都に展開する「夜行アイス」、兵庫・板宿の「アイスるんです」、兵庫・姫路の「アイスは別腹」など、続々と夜パフェ・夜アイスの店が登場している。
いずれもソフトクリームを中心とし、ソースやトッピングのフルーツなどで変化させる商品が多く、カップに盛ってスプーンで食べるパフェスタイル。カップの底にはコーンフレークやオートミールなどを忍ばせる店もあり、懐かしい昔のパフェのよう。営業時間は夕方16時頃から深夜までだ。
特に関西の郊外に多く、「21時にアイス」は昨年名古屋に、今年は東京都に出店し、全国に広がっている。またSNS上では「夜パフェ・夜アイス」を食べられる時間をまとめた投稿まで登場。経営母体は居酒屋チェーンや学生起業など様々で、冒頭の札幌を発祥とした「シメパフェ」ブームとの違いは、専門店化していることだ。
流行の背景には、夜にしか空いていない特別感や「背徳スイーツ人気」というムーブメント、外食の機会が減る中、食後や飲んだ後のシメとしてのプチ贅沢、そして店が郊外にあることや深夜まで空いていることに加え、コロナ禍で飲み会よりも少人数で出かける機会が増えたことなどから「ドライブの目的地として行って、車内で食べる」といった使い方が増えていることが挙げられる。
前者の嗜好品としての工芸品のようなパフェはだいたい1食2000〜3000円だが、後者の夜アイス・夜パフェは650円〜1000円。芸術性、表現をもたせたパフェからカジュアルに夜に食べるパフェまで、多様なパフェの動きに今後も注目したい。