最近、食品冷凍自動販売機を見かけるようになったとは思わないだろうか?コロナ禍をきっかけに導入が相次ぎ、現在も設置台数を延ばすのが、2021年1月に登場した食品冷凍自動販売機「ど冷えもん」だ。それまで食品冷凍自動販売機はアイスクリームが主流だったが、「ど冷えもん」の登場で商品にバリエーションが生まれ、外食が難しいコロナ禍の中で、手軽にプロの味を楽しめるとして注目を集めた。また2022年7月には全国の「ど冷えもん」を探すことができるスマートフォン向け検索アプリ「ど冷えもんGO」がリリースされるなど、食品冷凍自動販売機周辺の新サービスも続々登場。食品冷凍自動販売機の今、そして進化する使い方やサービスとは。
以前からの狙いが、コロナ禍を機にヒット
食品冷凍自動販売機で売られているものといえば、以前はアイスクリームぐらいだったが、最近では餃子やラーメン、ピザ、肉、ウナギ、麺、和菓子、洋菓子、さらには弁当にまで広がっている。どの食品冷凍自動販売機にも書かれているのが、ユニークなネーミング「ど冷えもん」の文字だ。
食品冷凍自動販売機「ど冷えもん」は2021年1月に登場。これまでで累計販売台数が3000台を突破(2022年3月データ)し、現在も伸長している。製造販売するサンデン・リテールシステム(東京都/森益哉社長)はコンビニエンスストア(CVS)用冷蔵・冷凍ショーケースや飲料・食品自動販売機を製造・販売するグローバル企業だ。
同社が食品冷凍自動販売機に着手したのは2019年3月。それまで食品冷凍自動販売機はアイスクリーム専用がほとんどだったが、CVSで冷凍食品を自分のために購入する動きが増加していることを受け「これからの時代は個食の食事系冷凍食品の需要が増える」という仮説を得て、チームを立ち上げた。
そうした中で、翌2020年にコロナ禍が発生。営業自粛や休業に追い込まれ、その後も時短営業を強いられる飲食店を目の前にして「飲食店支援」という使命がそこに加わった。そこで飲食店が導入できるよう「だれでも操作できる、簡単な操作性」を重視し、あらゆるサイズの食品が販売できる冷凍自動販売機を開発。当初は2021年4月以降だった発売予定を大きく早めた。
機能性と利便性、ニーズが合い
導入店舗が急増
「ど冷えもん」が普及した理由は以下の6点だ。
- 従来はアイスクリームなどの商品のサイズを冷凍自動販売機に合わせなければならなかったところ、4種類のストッカー(商品を格納するもの)と仕切りを組み合わせることで、11種類の大きさの商品に対応できるようになった
- 従来の食品自販機は室内または屋根付きの場所に設置するタイプが主流であったが、屋外に設置が可能に。これによって場所を選ばなくなった
- 商品の補充や変更をだれでもできるほど簡単にした
- 省エネ設計で、しかも一般的な家庭用電源で使用が可能
- 操作しやすいタッチパネルを採用したことに加え、オプションでカードリーダーも設置でき、非対面、非接触での買い物を実現した。
- クラウドサービスを使って売上データや在庫状況、賞味期限管理ができるオプションの導入により、商品のデータ管理も容易にした。
一方で、コロナ禍第3波のタイミングだった時勢が、普及を大きく後押しした。
非対面、非接触で安心して買い物ができ、生活圏内の多くの店が時短営業や休業する中、手軽にプロの味を楽しめるという買い手側のニーズと人件費をかけずに24時間販売でき、冷凍のため食品ロスが少ないなど、売り手側が感じる魅力も絶大だった。
このように、普及の背景には製品が持つ機能性と利便性に加えて時勢におけるニーズが隠されている。
エンタメ性が加わった「ど冷えもんガチャ」
普及し始めた当初はラーメンや餃子が多かったが、現在その使い方が変化している。
その1つが、何が出てくるのか分からないトイカプセル「ガチャガチャ」のようなエンタメ性だ。
例えば大阪・西中島南方の焼肉店「匠」が営む肉中島レジャービル前の「ど冷えもん」では、「1000円ガチャ」と題し、1000円均一で最大6000円相当のステーキ肉が当たるガチャを実施。これがインスタグラマーのSNSで拡散され、話題になった。
また東京・品川の「PiPPon」では「ど冷えもん」9台に加え、冷凍、冷蔵、常温の自動販売機1台、計10台を並べ、それぞれの自動販売機につき「名店の味」や「大阪の味」、「餃子」、「韓国料理」といったテーマで違う店の味を集めた「自動販売機のセレクトショップ」を運営。土地の有効活用の新しいビジネスとして注目を集めている。
一方、食品冷凍自動販売機用の商品を全国から集め、卸販売するサービスも現れた。冷凍自動販売機商材のセレクトショップを標ぼうするGABARA(大阪府)では、街の名店とタッグを組み、冷凍食品商材を開発。「ど冷えもん」に合う商品規格を揃えた冷凍商品を多数揃え、「ど冷えもん」所有者に卸す。
これによって、飲食店でなくとも、土地の有効利用を考えている不動産オーナーが品質の高い冷凍商品を扱うことができ、お客に喜んでもらえる。また、例えば中華料理店が自店の商品に加え、自店では取り扱いのないスイーツを売りたいと思った場合に、他店のスイーツを仕入れて売ることもができる。逆も然りで自店の冷凍商品を他店に卸し、それがまた新たな売り上げの柱になることも狙っている。
こうした調理師でなくとも、どこでもシェフレベルの料理を食品冷凍自動販売機で提供できる意味を含め「どこでもシェフ」ブランドとして、現在、認知を拡大している。
探せるアプリ、「ど冷えもんGO」をリリース
そして消費者の利便性をさらに高めるサービスも登場した。「ど冷えもんはどこにあるのか」「どんな商品が買えるのか」という多くの問い合わせを解決するために今年7月に誕生したスマートフォン向けアプリ「ど冷えもんGO」だ。
ユーザーは全国の「ど冷えもん」を検索してメニューをチェックしたり、欲しい商品の在庫をチェックしたりできる他、「マイど冷えもん」に登録すると商品の感想をコメント・シェアできるようになっている。
こうした周辺サービスやコロナ禍が続く中で今後、食品冷凍自動販売機は増えるだろう。土地の有効活用に用いられる他、例えばフード系フェスでは、その場で食べる商品はできたてを手売りし、持ち帰り用商品は冷凍自動販売機で対応してオペレーションを円滑にすることも可能だ。また、店内で販売する商品と冷凍自動販売商品をガラリと変えて差別化を図るなど、売り方のバリュエーションが豊富になっている。
前述の焼肉「匠」では「1000円ガチャ」の他、今後は自社レシピの弁当や餃子、カレーといったレンジアップの冷凍食品をOEMで製造し、企業の休憩所などに設置する「ど冷えもん」で販売する計画があるという。このように今後も広がる使い方に注目したい。
「想像を超えた使い方が生まれていて、私たちもオーナーの方から学んでいます」とはサンデン・リテールシステム、広報室長の芳賀日登美氏。
「匠」や「PiPPon」のように、提案や楽しませ方によっては冷凍自動販売機そのものが、集客ツールであり名所になる可能性を秘めている。それは首都圏だけでない。地方こそ、普段は行けないような首都圏や遠方の名店の味が楽しめるとしたら、なんと楽しいだろうか。