コロナ禍も2年が経過し、今年で3度目の夏を迎える。気象庁が発表した暖候期予報によると今年の夏は、暖かい空気に覆われやすいため北・東・西日本は気温が平年より高く2年ぶりの猛暑になりそうだ。そこで今回は家庭の食卓を継続的に観察してきた食MAPデータから、夏場の気温にスポットをあて食卓傾向を探っていく。
夏日は「冷たい和風麺」、コロナ禍で冷凍・総菜メニューも人気
6~9月期における1日の最高気温が30℃以上(ライフスケープマーケティング調べ)の食卓では、冷たい和風麺や冷やし中華・冷麺などの涼味麺のT I値(Table Index:1000食卓当たりの出現回数)が通常の食卓と比べ大きく増加する。乾麺や茹で・生麺を使用する「手づくり」のほか、「冷凍」の増加も大きい。とくに、「冷凍」はコロナ禍前の2019年の6~9月期と比較して21年は213.8%と大きく増加した。コロナ禍による外出自粛やテレワークが拡大し、昼食シーンで手軽に用意のできる冷凍麺が重宝されていることが推測できる。そのほかに最高気温が30℃以上の食卓では、夏場に旬を迎える茹で豆(枝豆)や、冷しゃぶ、酢の物・マリネ、冷奴などさっぱりとした冷製メニューが増加する。19年比較で増加したメニューを見ると、丼やおにぎり、にぎり・手巻き寿司などご飯系メニューが並ぶが、いずれも総菜利用で準備の手軽さなどが背景にありそうだ。手づくりのご飯系メニューについても19年と比較すると、チャーハンや丼などおかずのいらない一品完結型メニューが増加しており、手づくりの中にも簡便需要の高まりを読み取ることができる。また、ご飯(白米)はコロナ禍における弁当需要の縮小などの影響で出現が減少したにもかかわらず、総菜のご飯系メニューが増加した点も興味深い。米を炊くのは面倒だが、手軽に米を食べたいという心理が見えてきそうだ【図表①】。
「冷たい和風麺」は生鮮利用が拡大
夏場に冷たい和風麺の食卓出現が大きく増加するなかで、食べ方の変化を見てみよう。【図表②】は、6~9月期に出現した手づくりの冷たい和風麺における材料使用率(当該メニューが各材料を使用した割合)を示している。これを見ると、きゅうりやトマトなどの夏野菜や、定番の長ねぎやのりなどの薬味、みょうがやしそ・大葉、おろししょうがなどの香味野菜の出現が19年と比べ増加している。冷たい和風麺における生鮮・生鮮加工品全体の使用率を見ても、19年6~9月期の73.9%から21年6~9月期の77.2%と3.3ポイント増加していることがわかっており、コロナ禍での健康意識の高まりなどから、野菜のトッピング需要が拡大していることが推測できそうだ。また、冷たい和風麺への生鮮利用は、基本的に切って加えるだけという簡便さが使用拡大に一役買っていることも考えられる。
そのほかに、白だしやだし醤油・コンブ醤油、だしパックなど手軽に本格的な味が楽しめるだし系調味料が増加している。一方で、定番のめんつゆの使用率は19年の84.9%から21年は83.0%の微減していることもわかっている。冷たい和風麺は手軽なメニューだからこそ、こだわりや少しの手間を加えやすいのかもしれない。
急激な気温上昇時は非加熱メニュー
気温が上昇し本格的な夏を迎えるにあたり、急激な気温の上昇や連続する猛暑などさまざまな気温の変化がある。そこで、食MAPデータから暑さのシーンごとに食卓傾向を見てみよう。
最高気温の前日差が+5℃以上の夕食で出現したメニューTI値と通常の夕食メニューTI値を比較してみると、最高気温の前日差が+5℃以上の食卓では、野菜サラダ・生野菜や刺身、納豆、酢の物・マリネ、冷奴など、冷製メニューの中でも調理時に加熱のいらないメニューの出現が増加している。そのほかに、残り物の味噌汁や残り物のご飯などの出現も増加している。急激な気温の変化は体への負担が大きく、食卓で涼味を感じるだけでなく、非加熱メニューや残り物を利用し調理時の暑さを回避しているのかもしれない。季節の変わり目など、気温の変化が大きい時期は定番の涼味麺だけでなく、調理時の非加熱メニューの訴求も必要となりそうだ【図表③】。
猛暑日が続いたときのメニュー
続いて、猛暑日が続いた食卓はどんなメニューが出現するのだろう。最高気温35℃以上(気象庁調べ:東京)が3日続いた日を連続猛暑日3日目とし、1日目と比べるとご飯や炊き込みご飯、まぜご飯などのご飯メニューや味噌汁、中華・エスニックスープ、ポタージュスープなどの汁物の出現が増加している。汁物は全体で見ても、猛暑日3日目のTI値が406.6で、猛暑日1日目の359.7と比べ46.9ポイント増加することがわかっている。一方で、にぎり・手巻きやのり巻き・いなりなどの寿司系メニューは減少している。そのほかに、冷たい和風麺が猛暑日3日目に減少する一方で、温かい和風麺の出現が増加するなど、猛暑日も3日目になると冷製メニューを控えるなど体への気遣いが影響するのかもしれない。おかず類を見ても、猛暑日3日目になると、野菜炒めや魚の干物、焼き魚など温かいメニューが増加する一方で、酢の物・マリネ、刺身、ぬか漬けなど冷製・非加熱メニューが減少するなど、「冷→温」へのシフトが起きていそうだ【図表④】。もちろん猛暑日は出現が増加する定番の冷製メニュー提案は必須だが、猛暑が続くことによる食卓や生活者の変化も見逃せないポイントだ。
食卓と気温は密接な関係にあり、気温の変化をとらえながらより柔軟な提案が必要となるだろう。
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