メニュー

コロナ後のコスト高騰下で小売業のボーダレス再編が進む理由とは 直近の再編総まとめ!

メインイメージ

大手からローカルまで SMの再編は依然活発

 2020年初頭から世界中で猛威を振るった新型コロナウイルス。日本でも感染者数の激しい増減を繰り返しながら、気づけば約3年をコロナ禍の中で過ごしてきた。足元では感染者数は落ち着いており、政府は新型コロナウイルスについて、感染症法上の位置づけを現状の「2類相当」から、5月8日に季節性インフルエンザなどと同じ「5類」へと移行することを決定。ここにきてようやく、「コロナ収束」が現実味を帯びてきた。

 社会が日常へと戻りつつあるなか、小売業としては消費回復に期待したいところだが、話はそう簡単ではなさそうだ。消費市場にとくに大きな影を落としているのが、コストプッシュインフレの進行。あらゆるモノ・サービスの値段が高騰しているなかで、消費回復のペースは鈍い。小売企業にとっては引き続き厳しい経営環境が続くことになりそうだ。

 さて国内小売市場を俯瞰すると、コロナ禍を経た消費者ニーズの変化・多様化への対応や、コスト高騰下でのさらなる経営効率向上をねらって、各業態で再編の動きは依然活発となっている。

 まず食品スーパー(SM)業界では、18年10月からイオン(千葉県)が進めてきた、エリア事業会社の再編がほぼ完了。あとは24年3月のマックスバリュ西日本(広島県)とフジ(愛媛県)の合併に伴う新会社設立を残すのみで、5年超にわたる一大プロジェクトが終結することになる。

 イオンは他方で、22年7月に中四国を地盤とする有力SMハローズ(岡山県)の株式8.5%を取得している。主たる目的は明らかにされていないが、これまで進めてきたエリア再編の取り組みにどう関連していくのかが注目される。

 また、エイチ・ツー・オー リテイリング(大阪府:以下、H2O)のSM事業の再編も進み、中間持ち株会社の関西フードマーケット(兵庫県)傘下の阪急オアシス(大阪府)とイズミヤ(同)が23年4月に経営統合。阪急オアシスがイズミヤを吸収合併し、イズミヤ・阪急オアシス(同)に商号変更した。

 H2Oといえば、関西スーパーマーケット(兵庫県)をめぐるオーケー(神奈川県)との争奪戦が記憶に新しい。この戦いに結果として敗れたオーケーは、24年前半をめどに大阪府内で新規出店することを明らかにしている。同社が本格的に関西のマーケットを深耕するとなれば、自力出店と並行して新たなM&A(合併・買収)を模索する可能性もあるだろう。

 リージョナル・ローカルチェーンでも合従連衡の動きは活発だ。

 リテールパートナーズ(山口県)は23年3月、傘下の丸久(同)を通じて、宮崎県のSM企業ハツトリーをグループに迎えた。また、オークワ(和歌山県)は22年11月に連結子会社のヒラマツ(同)を吸収合併。ジャパンミート(茨城県)などを抱えるJMホールディングス(同)は23年3月にスーパー・みらべる(東京都)の全株式を取得している。

SM市場の成長株ロピアはスーパーバリューの過半の株式を取得。さらなるM&Aはあるか

 このほか、首都圏から関西、中部、さらには台湾へと事業エリアを拡大しているロピア(神奈川県)も台風の目になりそうだ。22年8月、持株会社ロピア・ホールディングス(同)がスーパーバリュー(埼玉県)の株式の過半を取得して子会社化したうえで、同年11月には追加増資を行い、同社の株式66.6%を保有している。「2031年にグループ売上高2兆円」という壮大な目標を掲げる同社にとってM&Aは有効な手段であるはずで、さらなる“案件”が公になることもありうるだろう。

食品小売と接近するウエルシアとアオキ

 上位集中が進みつつあるドラッグストア(DgS)業界でもさまざまな動きがあった。

 これまでも積極的なM&A戦略で成長を図ってきた最大手のウエルシアホールディングス(東京都)は、22年6月にコクミン(大阪府)と同社関連会社を完全子会社化、同年12月には沖縄地盤のDgS企業ふく薬品を連結子会社化した。

 さらに同社はイオン九州(福岡県)とともに合弁会社・イオンウエルシア九州(福岡県)を設立。フード&ドラッグの新業態「ウエルシアプラス」の出店を進める計画で、今年4月には第1号店を福岡県内に開業している。

ウエルシアHDはイオン九州と合弁会社イオンウエルシア九州を設立。フード&ドラッグの展開を進める

 同じ食品強化という文脈では、クスリのアオキホールディングス(石川県)の動きも無視できない。同社は20年6月に同じ石川県のSM企業ナルックスを買収したのを皮切りに、各事業エリアの地場SMを相次いで傘下に収めていった。この約1年間でも一二三屋(福島県)、ホーマス・キリンヤ(岩手県)と同社関連会社を吸収合併、三崎ストアー(石川県)、サンエー(新潟県)のSM事業を譲受。各SMの店舗を順次「クスリのアオキ」に転換し、生鮮をはじめとする食品強化型店舗を拡大している。熾烈な競争下で中小SMの経営状況は厳しくなるなか、クスリのアオキがさらなる買収を進める可能性は高い。

HCと家電量販の融合進む そごう・西武売却は混迷

 ホームセンター(HC)業界では、カインズ(埼玉県)が22年3月に完全子会社化した東急ハンズが、同年10月にハンズ(東京都)に商号変更。コーナン商事(大阪府)は17年に完全子会社したビーバートザンを23年3月に吸収合併したほか、ホームインプルーブメントひろせ(大分県)を同年6月に完全子会社化することを発表している。

HCと家電量販の“接近”も注目の動きだ

 これら同業間の再編に加え、HC業界は家電量販との関係性が緊密になりつつある。22年4月にはニトリホールディングス(北海道)が家電量販大手のエディオン(大阪府)と資本業務提携を結び、同社の発行済み株式約10%を取得。また、アークランズ(新潟県)は21年にヤマダホールディングス(群馬県)と業務提携を提携、今後3年間で6店舗の大型商業施設の共同開発を計画する。さらにDCMホールディングス(東京都)は家電EC最大手のエクスプライス(同)を22年3月に完全子会社化している。

 近年大型のM&Aは鳴りを潜めていた百貨店業界では、何といってもセブン&アイ・ホールディングス(東京都)傘下のそごう・西武(同)の動向が注目の的だ。同社をめぐっては22年11月、セブン&アイが米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに、そごう・西武の全株式を譲渡すると発表。フォートレス社はこれに関連して、家電量販大手のヨドバシホールディングス(東京都)を“ビジネスパートナー”として2社で連携していくことを明らかにした。

 実質的にヨドバシHDが都心部のそごう・西武に出店するスキームでまとまったわけだが、これに対し地権者や自治体が難色を示すなど調整が難航。3月中の売却をめざしていたが、セブン&アイは同月末に期日を先送りすると発表し、事態は混迷を極めている。

そごう・西武の全株式売却は決定したものの、事態は混迷を極めている

再編のテーマは競争から“共創”へ

 ここまで見てきたように、昨今の小売市場では、業種業態を超えたプレーヤーが入り乱れた合従連衡の動きが目立つようになっている。前述したDgSとSM、HCと家電量販、そして家電量販と百貨店にとどまらず、小売業とITベンチャーの提携・協業、サプライチェーンの川上に遡った垂直統合の動き、さらには共通の経営課題を解決するための同業間による緩やかなアライアンスの発足など、その事例は枚挙にいとまがない。

 いずれにしても、業態間、あるいは競合企業間の壁はますます低くなっており、これまでのような規模拡大を追い求めたM&Aだけでなく、小売企業・消費者にとっての新たな価値を“共創”するための動きが活発化しているといえる。今後も業態という枠組みにとらわれない、より柔軟でより戦略的な再編が続いていくかもしれない。

次項以降は有料会員「DCSオンライン+」限定記事となります。ご登録はこちらから!