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知っておきたい線状降水帯の基礎知識と、流通業界における対策

6月初め、各地に記録的な大雨をもたらした台風2号接近及び梅雨前線停滞の際、四国、近畿、東海地方など多くのエリアで線状降水帯発生情報が発表されました。今回は、線状降水帯に関する情報の基礎知識と、その情報が発表された際のチェックポイントについてまとめます。

Yosuke Tanaka/iStock

「線状降水帯」の基礎知識

 線状降水帯とは「次々と発生した積乱雲により、線状の降水域が数時間にわたってほぼ同じ場所に停滞する」現象を示します。通常、雲(雨雲)は、上空の風に乗って風上側からやって来て、その場で雨を降らせた後、風下側に流れていきます。
※出典:https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jma_suigai/jma_suigai.html

 線状降水帯は風向きや水蒸気の量、地形などの要因が重なることにより同じような場所で立て続けに発生発達した雨雲(積乱雲)が、列状に風下側に流れていく現象です。それが数時間にわたって途切れなく続くため、風下側の地域にとっては発達した雨雲がしばらく停滞した状態となります。大雨に発展する可能性が極めて高く、災害の危険性も高まります。

 気象庁では、令和3年度から「顕著な大雨に関する気象情報」の運用を始めています。昨年度(令和4年度)には、線状降水帯による大雨の可能性の半日程度前からの呼びかけを開始し、今年度(令和5年度)から、「顕著な大雨に関する気象情報」をこれまでより最大30分程度前倒しして発表する運用を開始しています。少し詳しい解説をつけて、以下に時系列でまとめます。

「線状降水帯」に関する情報の時系列

令和3年6月17日:「顕著な大雨に関する気象情報」の運用開始
従前から、「記録的短時間大雨情報」など、記録的な大雨の観測に関する情報は発表されていました。それ(いわゆる大気の不安定な状態による局地的ゲリラ的な短時間の豪雨)と区別し、「線状降水帯」発生等にともなう大雨を観測し、災害の危険性が高まっていることを伝えるものとして、注意報・警報とは別個の情報が新たに発表されるようになりました。
令和4年6月1日:通常の予測手法に加え、スーパーコンピューターを活用した世界最高レベルの技術による線状降水帯予測開始
気象庁が日々計算を行っているスーパーコンピューターも非常に高性能のものですが、それに加えて世界最高水準の処理技術を持つスーパーコンピューター「富岳」を用いた予測計算の活用が始まりました。線状降水帯発生状況等に関する予測の精度がさらに向上することが期待されます。
令和5年5月25日:これまで発表基準を実況で満たしたときに発表していた「顕著な大雨に関する気象情報」を、予測技術を活用し、最大で30分程度前倒しして発表する運用開始
これまでは気象庁が自ら定義する”顕著な大雨”の基準を満たす降水が観測されてはじめて「顕著な大雨に関する気象情報」を発表していましたが、今後は、高精度の予測技術によって基準を満たす降水が観測されると予測される場合に(従前に比べて最大30分前倒しで)発表されるようになりました。

 

 ここからは線状降水帯発生が予想されている時にチェックすべき項目を見ていきましょう。まず、自社あるいは店舗周辺が、線状降水帯のかかる領域に入るかどうかを確認します。もし該当する場合は、強い雨が比較的狭いエリアの中で数時間以上にわたって降り続き、記録的な雨量となるおそれがあります。主に雨に関する、以下の2つの方向性の災害発生を想定し、事前準備を行います。

災害の方向性 想定される被害 参照すべき気象庁情報
土砂災害 大量に雨水を含んだことによるがけ、斜面、法面(人工的な斜面)などの崩壊、土石流 大雨警報
土砂災害警戒情報
土砂キキクル
浸水害 河川・湖沼氾濫、堤防決壊、排水処理能力を越えた雨水流入による冠水 大雨警報
洪水警報
指定河川洪水予報
浸水キキクル
洪水キキクル

 これらを確認したうえで、以下の項目を確認していきましょう。

・本部-現場間の密なコミュニケーションによる逐次状況把握
・大雨の影響を受けそうな公共交通機関路線沿線に住む従業員に対しての自宅待機指示
・公共交通機関の寸断を予期した、従業員の避難先・宿泊先の確保
・物流トラックに対して、安全第一での業務遂行指示、善後策の確認
・社屋、店舗周辺でゴミや落ち葉などが詰まっている側溝を清掃
・建物内への浸水を防ぐための土のう積み
・店舗において、床に陳列している商品の移動
・携帯電話などの充電
・停電・断水を想定した準備(データバックアップ、トイレ用水の確保)
・災害発生時に需要が急拡大する商品(防災用品)等の、特設売場などでの展開

 「顕著な大雨に関する情報」が発表されたら、それは甚大な災害がすでに発生していてもおかしくない状態です。お客さま、従業員の安全確保を最優先としたうえで、なるべく店舗への被害が大きくならないように、また被災した地域住民の方々に寄り添うことを考えます。周辺の雨雲の状況によっては、店内にいらっしゃるお客様の帰宅を必ずしも促すのではなく、強雨がおさまるまで店内での待機を案内するのも一案です。

 線状降水帯の発生が予測されてもあわててパニックにならないよう、建物周辺の海抜高度(主辺地企図の海抜高度差)や冠水が起こりやすいアンダーパスの場所などを普段から確認しておきましょう。大きな川のすぐ近くにある事務所・店舗では、当該地域に線状降水帯が発生していなくても、上流域での集中豪雨により河川水位が上昇し、堤防を越水することがまれに起こりますので、建物周辺だけでなく上流域での降雨状況にも注意が必要です。