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AI、IoT駆使してリアル店舗のマーケティング領域を拡大
流通業はじめ飲食、製造など導入相次ぐ
AI・IoTの時代は、「生きたデータ」が主役となる時代だ。ITサービス分野では、それらテクノロジーをマーケティングに活用するソリューションが、続々と登場している。流通業でもAI・IoTを活用した先進的なマーケティングが注目されている。京都市に本社を置くアドインテ(十河真治社長)も、そうしたソリューションを提供する1社。しかし同社が注目するのは「リアル」つまり店舗活性化をターゲットにした、マーケティングテクノロジーであり、そこにAI・IoTを投入している。ECに押されがちなリアル店舗が主体の流通業、飲食業、サービス業に加えて製造業でも同社のソリューションを活用し始めている。
オンラインのマーケティングは限界
アドインテは、独自に開発した「AIBeacon」を中心とした店舗内マーケティングを手掛けるベンチャー。設立は2009年4月。「AIBeacon」は、スマホの電波をセンシングするビーコンを、売り場などに設置し、そこで買い物客の動線などのデータを収集。そのデータを独自のDMP(データマネジメントプラットフォーム)およびデータマイニング技術を活用して分析することでO2Oマーケティングを実現するソリューション。つまりマイクロロケーションデータを活用したマーケティングや広告のプラットフォームを提供するのがメインのビジネスだ。
稲森学・取締役副社長は、「ファッション関連のマーケットの8割はオフライン。オンラインは2割程度に過ぎない」と話し、リアル店舗を中心としたマーケティングこそ重要だと強調する。しかも「オンラインのマーケティングはやりつくした感がある」という点でもオフラインの伸び代はまだ大きいと見ている。だからこそ、EC大手がリアル店舗のビジネスに乗り出してくるというわけだ。しかもリアル店舗を起点として、回遊データや、リアルの閲覧履歴など埋蔵されているデータ量は膨大だと考えている。「そのリアルの情報を、デジタルに変換できるかどうかが重要になってくる」と稲森副社長。
アドインテがソリューション提供する「AIBeacon」は、対応アプリの有無にかかわらずセンシングが可能でその来店者の行動をデータ化するソリューション。」店内にネットワークカメラを設置して、来店者の行動を観察する手法が普及しており、万引きなどセキュリティ監視用としても活用されているが購買に結びつくデータを把握するには手間がかかり過ぎるし、設置費用も膨大にかかる。
また、スマホにオリジナルアプリをダウンロードしてもらい、そのスマホを持った顧客が来店したり店舗の近くにいたりする場合にクーポンやセールの情報を配信するシステムも一般的。しかしこの場合、専用のアプリをダウンロードしてもらう必要がある。来店頻度を高めるための施策としては有効だが、未知の買い物客を来店誘導することは難しい。さらにアプリを削除して離反する可能性もゼロではない。その点から見ても、アドインテが提供する「AIBeacon」は、アプリがなくてもデータ蓄積ができる利点は大きい。
「AIBeacon」を活用したデータ分析サービスも提供
「AIBeacon」はアプリをダウンロードしてしていないスマホをセンシングし、リアルな動線データを瞬時に獲得できる。iPhoneにもAndoroid端末にも対応し、センシングしたことをサーバーに送信する。つまりそのセンサーユニットで検知できるエリアに「何人の買い物客がいるのか」「店舗内のどの場所に買物客が集中しているか」といったデータが手に入る。
さらに「AIBeacon」専用のソフトウェア開発キットを使って専用アプリを開発・提供していれば来店した買物客のうちアプリをインストールしている顧客が何人で、インストールしていない買物客が何人かということもわかる。しかもアプリを起動していなくても、接触情報をもとにネットワークを通じて広告を配信することも可能だ。もちろん開発したアプリをダウンロードしていれば、サーバー・ローカルプッシュ通知や接触時のポイント配布、クーポンや広告配信による購買誘導につなげることもできる。
顧客の動線をチェックするのに、GPSの位置情報データを活用する方法も考えられる。しかし、「ビルの中ではGPS電波を受信しにくい場所もあり、階数別のデータや売り場ごとの把握できない」(稲森副社長)ため、フロアごとに設置できる「AIBeacon」の端末が有利になる。1台のビーコンで約180m四方のエリアの電波を検知できる。「大型店舗でもワンフロアで少ない台数で、ヒートマップデータを収集できる」(稲森副社長)という。しかも端末の価格については「あくまでも基本料金として1台2000円(月額)に設定している」のだとか。もちろんアドインテでは、ハードとソフトを提供する「AIBeacon」のソリューションで、九州大学などと産学連携し独自のアルゴリズムに基づくデータ分析サービスも提供する。端末が安価なのはそれをトリガーにさまざまなデータ活用が可能になるからだ。
大手企業の場合、自社のデータサイエンティストで構成するマーケティング分析チームを擁している場合が多いが、中堅中小の流通業や製造業にとってはハードルが高い。
多くの流通業や飲食チェーンなどが「AIBeacon」導入を進めているが、飲料メーカーのように自社で運営する店舗で「AIBeacon」で集客状況を把握し滞在時間などをマーケティングに活用するとともに、自社製品の販売先となる飲食店に「AIBeacon」を販売する代理店になっているケースもあるという。
AWSからAzureの活用も開始
スマホの接触データを検知しデータを把握、さらに専用アプリをインストールした端末のデータ収集など、リアル店舗で発生するデータは日々膨大な量になる。そのデータすべてを蓄積し迅速に活用するためのプラットフォームは、当然ながら拡張性や可用性に優れたクラウドベースとしている。これまでAWSをベースにしてきたが、今後はMicrosoftのAzureも活用していく方針だ。その理由について稲森副社長は、「AWSはどちらといえばB2Cで多用されている。B2Bでの運用はノウハウや機能が多いAzureが有利だと考えている」と語る。また、流通業のユーザーが急増していることからも、ECだけでなくリアル店舗にも進出しデータ収集と活用を始めたAmazonへの対抗意識からAzureを歓迎する向きも多いのだという。計画では2018年10月までにAzureをベースとしたプラットフォームの運用実証を行い、10月末には実用化に踏み切るとしている。
プラットフォームの進化も進めるアドインテ。今後の事業拡大について、AI・IoTをベースにしたデータ分析技術の精度向上や、「集めた膨大なデータを活用したマーケティング事業やデータ連携などの取り込みも更に積極化していく方針」と稲森副社長は話している。そうしたアドインテの方向性を流通業界や広告業界も敏感に察知しているようだ。
8月には三越伊勢丹ホールディングス傘下の三越伊勢丹イノベーションズに加えPR事業のベクトル、グローバルWi-Fi事業を展開するビジョン、ユニー・ファミリーマートHDグループのUFI FUTECH、博報堂DYホールディングスを対象に第三者割当増資を実施し、資本業務提携を交わした。資本増強により事業拡大の体制を整備し、「AIBeacon」の機能強化やマーケティングプラットフォーム「AIGeo」の開発をスピードアップする予定だ。
「オフラインには多くの有用なデータが眠っている。それらをさまざまな切り口からマイニングし、マーケティング強化につなげていくことが重要になる。オンラインに必死で対抗しなくてもデータになってなかったオフラインのデータをデジタルのデータに変換できれば勝算はある」と稲森副社長は断言する。