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菊水酒造の家飲み需要を喚起する販促とは?

菊水酒造では新型コロナウイルスの感染拡大を受け、家飲み需要が高まるなか、「ふなぐち菊水一番しぼり」「菊水の辛口」のアルミ缶シリーズを軸に販促を展開。また、同社が長年力を入れてきた食とのマリアージュとして、ロングセラーブランド・にごり酒「五郎八(ごろはち)」とチゲ鍋の提案を行うなど、日本酒市場の再活性化をめざしている。

アルミ缶ボトルを採用した「菊水の辛口」500mlを発売

 日常使いの本醸造からこだわりの純米大吟醸まで、新潟県産の米を使用した高品質な地酒を届けている菊水酒造。同社を代表する商品が日本で初めて生原酒を缶容器で商品化した日本酒のロングセラー商品「ふなぐち菊水一番しぼり」だ。同品は厳選した新潟県産米を100%使用し、フレッシュな果実のような香りと、コクのあるしっかりとした旨みが特徴となっている。

 発売以来、食卓での晩酌から、旅行や山登りといったアウトドアまで、どんな場所でも気軽に楽しめる生原酒としてファンを獲得、レギュラー200ml缶の総出荷量は3億本を突破。日本酒市場の中でも堅調に推移しており、とくに40~60代のロイヤルユーザーに愛飲されている。

 「ふなぐち菊水一番しぼり」は、日本酒の容器・パッケージ開発の点でも大きな特徴を持つ。

 日本酒の容器はガラス瓶が主流だが、瓶自体の重さや飲用後のごみ問題から近年は敬遠される傾向にある。菊水酒造では、業界に先駆けてアルミ缶やスタンドパウチといった容器を次々と採用。とくにアルミ缶は、日本酒の大敵である紫外線をシャットアウトし酒の劣化を防ぐことで、生酒本来のおいしさと風味をキープすることができるため、ユーザーにとってもメリットが大きい。

 19年3月に発売された「ふなぐち菊水一番しぼり 500ml」は、リキャップが可能な500mlのアルミ缶を採用。500ml缶というラインアップ拡充により商品選択の幅を広げ、単価UPやユーザーの囲い込みにつながっている。

 500ml缶の登場により、「ふなぐち菊水一番しぼり」は、好調に推移している。【図表1】の500ml缶の売上の推移をみると、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた3月には210%、それ以降も2ケタ増で推移しており、20年3月から7月平均値は前年比152%という結果になった。

 これを受けて同社では新たに500mlアルミ缶タイプの商品を開発。同社が持つ数多くのブランドの中から選ばれたのが1978年発売の「菊水の辛口」だ。世の中の辛口ブームに先駆けて誕生した「菊水の辛口」は、冴えた辛さの中にしっかりと旨みがのった、食事に合わせやすい日本酒だ。新潟の良質な米を100%使用し、冬は燗で、夏は冷やでと、季節に合わせて幅広く楽しめる。

 「菊水の辛口」の12カ月出荷前年比は98%と微減傾向にあったものの、コロナ禍の影響を受けた3月以降は反転し前年比105 % で推移している。【図表2 】この好調を受けて、同社は10月1日にアルミ缶の「菊水の辛口500ml」を投入。「ふなぐち菊水一番しぼり」とともに、食品スーパー(SM)を中心とした量販店の主力商品として、店頭での販促を強化していく。

日本酒をもっと面白くするシーン提案 缶つまとのコラボも

 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は生活者のライフスタイルを一変させ、日本酒市場にも大きな影響を与えている。日本酒は長年ダウントレンドにあったが、コロナ禍により飲食業が軒並み休業を余儀なくされたことで、業務用の売上が壊滅的な打撃を受けた。その分、家庭用で数字が取れているメーカーもあるが、とくに地方酒については外食業や観光による割合が高いため、厳しい状況が続いている。

 そんななか、菊水酒造は家庭用の比率が元々、高かったことに加えて、「ふなぐち菊水一番しぼり」という看板商品をしっかりと定番棚で展開してきたことが奏功し、堅調に推移しているという。

 また、ユーザーに安全で品質の高い商品を届けるため、HACCP準拠による適正な品質管理を実践。原材料についても生産地別、生産者別に、貯蔵・管理し、カドミウム定量検査や残留農薬検査といった安全・安心への取り組みにも力を入れている。

 今期はコロナ禍による内食需要の高まりを受け、家庭で酒を愉しむ機会が増えることを鑑み、1人でも、家族でも楽しめるような家飲みのシーン提案を充実させていく。

 6月には食品卸の国分「缶つま」とコラボレーションし、オンラインイベント「ふなぐちに合う缶つま選手権」を実施。WEBサイトで投票を行い、一般から有識者まで2000人以上の投票があった。1位に「広島県産 かき燻製油漬け」、2位に「北海道・噴火湾産 ほたて燻製油漬け」、3位に「宮崎県産 霧島黒豚角煮」が入選。菊水酒造では、この結果発表を基に店頭でも、「缶つま」と「ふなぐち菊水一番しぼり」のクロスMDを展開していく。

「ふなぐち菊水一番しぼり」と「缶つま」とのクロスMDの様子。新商品「菊水の辛口500ml缶」では販促用のPOPも準備している

食とのマリアージュ 冬は「にごり酒×チゲ鍋」

 食とのマリアージュは同社が長年力を入れてきた戦略のひとつだ。味香り戦略研究所の協力のもと、味覚センサーを使用し料理と菊水酒造の味の特徴を「さっぱり」「こってり」「あっさり」「しっかり」の4味覚に分けて科学的に分析・数値化。ロジカルで普遍的な食と日本酒の相性を研究している。

 菊水酒造のホームページでは、味覚センサーによって導きだされた、同社の日本酒と料理の相性を多数紹介している。店頭での成功事例も多く、たとえば新潟県内のSMではクリスマス向けの提案として「ふなぐちスパークリング」の売上が前年の2倍まで伸びたという実績も出ている。

 今冬は、店頭販促として、厳選した新潟県産米を 100%使用したにごり酒のロングセラーブランドにごり酒「五郎八(ごろはち)」とチゲ鍋の提案を行う。同品はにごり酒ならではの乳白色が特徴で、米の粒々感と濃厚でコクのある味わいが口いっぱいに広がる。にごり酒「五郎八(ごろはち)」 は季節限定品ということもあり、秋口になると全国から発売日に関する問い合わせが寄せられるロイヤルユーザーの多いブランドでもある。清酒に比べて濃厚な飲み口のため、濃いめの味付けの料理に合わせやすく、辛味のある「チゲ鍋」でもお互いの旨みを引き立てあう。

 そのほかにも菊水酒造ではI n s t agramやFacebook、TwitterなどのSNSを活用した情報発信にも力をいれる。とくにTwitterでは毎月27日を「ふなぐちの日」とし、オンライン飲み会を実施。また酒蔵の見学やセミナーなどもオンライン上で行い、ユーザーとのコミュニケーションを大切にしている。

 流通向けの施策としては以前行った消費者キャンペーンで入手した約15000人のユーザー情報を活用し、メールマガジンを配信。新商品や商品の取扱店舗、流通の販促情報などを案内することができ、店への送客にも生かすことができる。

 同社では今後も飲み方提案や食とのマリアージュ、ユーザーとのコミュニケーションをきめ細やかに行うことで、日本酒市場を盛り上げていきたいとしている。