コロナ禍で生活者を取り巻く環境は大きく変化し、スーパーマーケットの店づくりから、宣伝やプロモーションのあり方も大きく変容した。しかし、多忙なビジネスパーソンが、日々アップデートされる成功事例を隈なくチェックするのは容易ではない。今回、成功事例の一つとして、IT×「アイドル、芸能人、声優」を掛け合わせたユニークなコンテンツ提供により「若年層の集客」に貢献し続ける株式会社MMSマーケティング(東京都千代田区/岩渕弘之社長)のシニアディレクター岩永幸徳氏をゲストに迎え「Z世代に向けた新たなマーケティング施策~広告、SNS、売場、実購買と共感へ~」をテーマに7月4日(月)講演会を実施。その内容をレポートする。
全方位をカバーする
包括的なプロモーションを
2017年に創業したMMSマーケティングは、無線LANや鉄道などの交通インフラ構築、位置情報、画像配信事業を展開しているビーマップを筆頭に、広告事業を担うジェイアール東日本企画、秋元康・伸介兄弟が手がけアイドルプロデュース業を展開するY&N Brothersによって設立されたデジタルマーケティング会社。現在は、ニッポン放送、読売新聞社が事業参画したことで、「通信インフラ事業」「広告事業」「コンテンツ事業」「メディア事業」の4本柱を確立し、他社には真似できないユニークなコンテンツを提供している。
同社のビジネスモデルは、メディアと店舗・ブランドをデジタルで繋ぐ新しい集客法「Media to Mobile to Store」だ(図1参照)。駅広告や中吊り広告、テレビやラジオなどのメディア情報を、モバイルを通して店舗の棚に並ぶブランドとの接点を生み出している。全方位をカバーする包括的なプロモーションを広告宣伝から店頭販促まで実施できる点がMMSマーケティングの強みだ。
なぜ著名人を起用しながら
低コスト・短納期が実現可能なのか
「広告プロモーションや販売促進を行う上で、多くの企業が抱える課題は以下の3点だ」と岩永氏は指摘する。
- マスメディアの活用は費用がかさむ
- 広告宣伝と販売促進が分断され非効率
- 次世代の新規顧客が獲得できていない
これらの課題を一手に解決するべく同社が提供するコンテンツは著名人を起用した強いコンテンツ。競合には真似できないであろう“低コスト”で提供している。
前述したようにMMSマーケティングは「4つの軸」からなる組織の建て付けにより、資本パートナー関係会社との取引を主としている。そのため既存の広告代理店やキャスティング会社間で発生するマージンが発生せず低コストでのコンテンツ提供を可能とし、また、直接タレント事務所とやりとりしスピーディに要望を伝えられるため短期間で実働できる。またタレントによるTwitter・SNSでの発信や特典で融通が利き、結果としてファンが喜ぶイベントとなり、ブランドの価値向上に貢献できるのだ。
SKE48を起用。
1ツイートで34万人にリーチ
具体的な事例を挙げよう。埼玉県に本部を持ち、千葉県、群馬県、東京都などに126店舗を展開するスーパーマーケット「ベルク」で行ったプロモーションは、若年層の取り込みに成功した事例だ。ベルクといえば、コロナ禍においても、客数が増え続ける稀有なスーパーマーケットとして注目を集めており、ベルクの販促の大半に関わっているのがMMSマーケティングだ。
例えば、21年、クリスマスのスパークリングワインのプロモーションではアニメ『呪術廻戦』で人気の声優・内田雄馬さんをキャスティング。客が公式Twitterをリツイートすると、抽選で内田さんのサイン色紙が当たるというプロモーションを行なった。。内田さんの声をMMSマーケティング内で収録した音源を、ベルクの店内放送で流したところ若年層を中心に大きな反響があった。今や声優はZ世代が憧れる職業としても注目される。内田さんの起用により、Z世代にダイレクトにリーチした形だ。
キャンペーンをきっかけに初めてベルクに来店したという客や、「雄馬くんにやさしくオススメされたので思わず全買いさせて頂きました」など、マストバイキャンペーンでなくとも商品を全て購入する客の姿があった。
また、ベルクと食品メーカー・マルサンアイと共同企画では、「SKE48がバレンタインなのにおみそ汁を振る舞います」というユニークなプロモーションを展開。マルサンアイは愛知県岡崎市に本社を構える味噌、豆乳の製造メーカーだ。関東の認知・シェア拡大が課題であり、同じく愛知県を拠点とするSKE48を起用した。
結果、キャンペーン応募者の約8割が男性という成果をあげ、新たな顧客層の拡大につながるだけでなく、キャンペーン応募者のバスケット単価が約2倍になったことで、マルサンアイのみならずベルクからも高評価を得ることとなった。
キャンペーン期間中、SKE48のメンバーが積極的にTwitter発信。SNSのフォロワーが19万人を誇るSKE48メンバーの須田亜香里さんを筆頭にツイートすることにより、「1ツイートにつき34万人」へのリーチにつながった。
キャンペーン期間は1ヶ月と比較的長く、通常であれば“中だるみ”が課題となるが、「もうすぐキャンペーンが終わっちゃうけど応募できましたか?」などメンバーが再告知のツイートをすることで、応募の後押しとなった。また、キャンペーン終了後も、「ハッシュタグ+企業名」で長文ツイートをすることで「今後もベルクに行ってマルサンアイの商品を買いたい」などとファンから感謝のコメントが寄せられ企業側にも好感度の高いキャンペーンとなった。なお、須田さんの投稿直後、7000を超える「いいね!」と150件を超えるコメントが寄せられ、影響力の高さがうかがえた。
ストーリーのある販促を。
「埼玉県越谷市の若年層が熱狂」のワケ
「一旦、若年世代の目にとまると情報は一気に拡散される」と岩永さんが確信したのは、22年1月に行われたベルクと明治との共同企画「ベルク×明治withラストアイドル プロテインキャンペーン」だった。明治のプロテインブランド「ザバス」もまた、若年層にいかにしてリーチすべきかが課題だった。タンパク質を補うための栄養補助食品「ザバス」と親和性が高いのではないかとの見立てで、キャスティングされたのはアイドルグループ「ラストアイドル」。ラストアイドルのメンバーは、舞台「球詠」の出演を控えており、本舞台は、埼玉県越谷市から全国高校野球大会への出場を目指す美少女たちの青春を描いたものだった。埼玉県に本部を持つベルクとの相性も良い。
プロモーションではいくつかの仕掛けをもうけた。例えば、チラシ片面の実に2/3のスペースを使ってキャンペーンを掲載。すると、「サービスカウンターでチラシをもらってきました」。「ベルクのチラシを見てニヤニヤしている」など、Z世代から喜びの声が上がった。またメンバー6名の等身大パネルをベルク全店舗に設置。誰のパネルがどこの店舗に設置されるかは非公表としたが、客がパネルを目的に数店舗をはしごし、買い回りをするように。さらに「誰のパネルがどの店舗に設置されていた」といった情報はSNSを通してファン同士が共有することとなり、キャンペーン開始からわずか2週間でパネル位置がGoogleマップ化されたのは「驚きだった」と岩永さん。また、越谷市の3店舗限定でメンバー3名が店舗に派遣され直筆のサインをするなど、SNSで情報発信して来店誘因を促した。
また、本企画は単にプロモーションを行うのではなく、ラストアイドルとタッグを組むことで「埼玉県民の健康を守る」という社会的意義のある取り組みでもあった。メンバーが管理栄養士からプロテイン(タンパク質)について学び、「プロテインは筋肉だけではなく骨や髪の栄養になるよ」「一緒にはじめよう。プロテイン習慣」などと栄養面についてもSNS発信することで、3週間で2000件のツイート、290万人にリーチ、Z世代へのプロテインの認知拡大に貢献した。キャンペーン終了後は、ファンからの「ベルクさん、明治さんありがとうございます」といった感謝のツイートがあふれたという。
モノの時代は終わった。
今後は体験・繋がりをいかに提供するか
岩永さんは数々の成功事例を経るにつれ、「顧客が企業から受け取るものが変化しているのではないか」と考えるようになったという。時代は、「モノ」から、「体験」「繋がり」に移行しているからだ。
例えば、スーパーマーケットで惣菜を売りたい場合、惣菜の味や品質での差別化は難しい。味に加え、顧客がわくわくする「感情価値」やプロセスを楽しむ「参加価値」を追加することで競合店との差別化となり、集客強化につながる。同社は、今後も粋でタイムリーなプロモーションを行い、販促の効率化と売上の最大化を狙っていく考えを示した。