メニュー

外食の「逆襲」で激化する、米スーパーマーケットの価格競争

パンデミック後の米狂乱物価は落ち着きを取り戻しつつあるが、多くの中間層や低所得層では消費が息切れしている。こうした中、多くの家庭で外食から内食へのシフトが起きたことへの対策として、米ファストフードチェーン大手のマクドナルド(McDonald’s)などが客を呼び戻そうと、夏季限定の低価格メニュー提供を始めたことが話題だ。一方、外食離れした客が流入するスーパーマーケットチェーンにとっては食品売上を伸ばすチャンスだが、実際には小売間の価格競争が激化しており、収益面の圧力となりそうだ。

SDI Productions/iStock

マクドナルドCEO「値上げで客が内食へ」

 マクドナルドは6月25日に1カ月間の予定で提供を開始した5ドル(約750円)のバリューセットメニューのキャンペーン期間を8月まで延長すると、7月25日に発表した。競合バーガーキング(Burger King)も5ドルメニューを開始し、ウェンディーズ(Wendy’s)も5ドルメニューに加えて3ドル(約450円)の朝食セットを投入するなど、価格競争が続いている。

米マクドナルドが夏季限定で提供する5ドルのバリューセットメニュー。(McDonald’s公式より)

 マクドナルドのクリス・ケンプチンスキー(Chris Kempczinski)最高経営責任者(CEO)は7月29日のアナリスト向けカンファレンスで、「当社の米国内の既存店における4~6月期売上高は前年同期比で0.7%落ち込んだ。インフレで値上げを重ねたことが客離れを招いた」と分析。その上で、「当社など外食におけるインフレは、生鮮スーパーマーケットのインフレよりはるかにペースが速く、一部の消費者はより頻繁に内食をするようになった」と指摘した。

 事実、米国農務省(USDA)経済調査局の季節調整前のまとめによれば、内食(food-at-home)の物価上昇率は2024年6月に前年同月比で1.1%増に収まっていたのに対し、外食(food-away-from-home)は同期間に4.1%も上昇した。

 同調査局によれば、内食と外食のインフレ率は1970年代から2000年代にかけてほぼ同じペースで上昇していたが、2010年代から外食だけ値上がりが顕著に加速した。つまり、パンデミック前からすでに高くなっていた外食の価格が、パンデミック後の人件費や材料費の高騰で、ついに手の届きにくいレベルまで上昇したのだ。

インフレ調整後の米外食産業の売上推移。インフレが急伸した2022年から、ほぼ横ばい状態が続いている(出典:全米レストラン協会)

 そのため、上に示した全米レストラン協会による、2022年1月から2024年6月のインフレ調整後の外食売上推移に見られるように、売上が横ばいから抜け出せなくなっている(名目上の売上は増加が続いている)。

 マクドナルドのイアン・ボーデン最高財務責任者(CFO)は、「消費者がマクドナルドから競合に流れているのではなく、当社の二大顧客グループである低所得層とファミリー層が節約のため外食を控えるようになったことが主因だ」との見方を示した。

 では、これらの消費者の「流入先」となっている小売大手では、売上や利益が伸びるのだろうか。

スーパーマーケット間の価格競争が激化

 米国人の外食が減少傾向にあることは、スーパーマーケットチェーンにとりチャンスになり得る。世界最大の小売チェーンであるウォルマート(Walmart)の米国総括CEOであるジョン・ファーナー氏は6月に、「当社の店舗を訪れる顧客は、生鮮品や肉類、乳製品などより多くの内食向け食材を求め始めた」と語った。

 しかし、マクドナルドなどの値下げ競争で一部の客がファストフードチェーンに戻っていること、さらにスーパーマーケットにおいて消費者が少しでも安くお買い得な商品を求めることから、小売チェーンの売上・利益の大幅な増加につなげることは難しそうだ。

米国の生鮮食料チェーン売上の推移(YChartsより)

 インフレ調整後の米外食産業の売上推移が横ばい傾向を続ける中、生鮮食料チェーン売上は上図のように微増の傾向を示している。

 だが同時に、スーパーマーケット間の価格競争は激化している。市場調査企業の米テルシー・グループ(Telsey Group)は6月に、ウォルマート、ターゲット(Target)、アマゾン・フレッシュ(Amazon Fresh)、クローガー(Kroger)、アルバートソンズ・セーフウェイ(Albertsons/Safeway)、ホールフーズ(Whole Foods)、スプラウツ(Sprouts)の7社が西部コロラド州デンバーにおいてどのような値付けをしているか、前年同月比で比較した。

 その結果、2023年6月にウォルマートよりも生鮮食品価格が14~15%高く設定されていたターゲットやクローガーについて、2024年6月にはプレミア率が6~7%に落ちていることが判明した。また、高級イメージで知られるアマゾン・フレッシュはウォルマートと比較して26%ものプレミアがついていたものが、7.5%まで大幅に引き下げられていたのである。

 これは、多くの消費者が外食から内食にシフトしているにもかかわらず、来店客の節約志向が強まっているために、スーパーマーケット側がアグレッシブな値下げ競争に突入していることを示唆している。

 そのため、業界全体として売上の大幅な伸びは見込みにくく、さらに収益増も望みにくい環境に置かれていると言えよう。期間限定の食品価格値下げは、顧客がライバル店に流れるのを防ぐには役立つ可能性があるが、起爆剤的な「ゲームチェンジャー」にはなりにくいと思われる。

 そうした中、消費者の家計のニーズに細かく寄り添い、来店頻度と買い物額を増やしてもらえるチェーンが収益面で「勝ち組」となるのではないだろうか。