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ビオセボンと無印良品 「非にして似たる」ファン獲得の戦略とは

コロナ以降多くのチェーンストアが客数を落としていますが、中には伸び続けているところもあります。その一例が、無印良品とビオセボンです。両者が客数を伸ばしているのはなぜか、この先どういった成長戦略を描いているのかといったことを比べてみると、なんだか似ていることに気づきます。「似て非なるもの」という言葉がありますが、両者の場合「非にして似たるもの」と言った方がいいかもしれません。異なる両者の相似たところに注目します。

どちらも客数好調、出店戦略では小商圏モデルを志向する

一言に集約できる明確なコンセプト

 無印良品は、7月の客数が直営既存店(オンラインストア含む)で11.1%増でした。客単価の下落が響いて売上高は1.2%減でしたが、客数の大幅アップが継続しています。その原動力は食品です。7月も衣服雑貨や生活雑貨が前年を割る中、食品の売上高は22.9%増でした。

 ビオセボンも既存店の客数を増やしています。昨年春のコロナ禍で大きく伸ばしましたが、今年はさらに2ケタ伸長といいます。さすがに客単価はストック需要の反動でやや低下しているそうですが、客数アップが売上増につながっています。

 どちらの業態も、利用客はコンセプトの明確なそれぞれの商品を求めて来店します。「近いから」という理由で選ばれることが多いスーパーマーケットやコンビニエンスストアとは違うところで、専門店ならではの来店動機があります。無印良品のコンセプトは「感じ良いくらし」に集約されます。それは食品においても変わりません。オーガニックスーパーのビオセボンも、「オーガニックを日常に」というメッセージに商品政策(MD)が凝縮されています。どちらも購入客のライフスタイルまで想像させてしまう明確なキャッチフレーズです。

ファンを掘り起こす熱意

 コンセプトが明確な専門店に来店するのは、多かれ少なかれそのコンセプトに共感するファンです。裏を返せば、ファンでなければ来店しないわけであり、客数を増やすことはファンを増やすこととイコールではないでしょうか。コロナ禍にあって、さらには環境問題によってライフスタイルを見直す気運が高まっている昨今にあって、「感じ良いくらし」も「オーガニックを日常に」も、共感を広げていきそうなコンセプトです。時代に即したコンセプトという点も、両業態の「非にして似たる」ところです。

販売方法も含めて「感じ良いくらし」を追求(港南台バーズ店)

 ファンは自ずと増えそうな両業態ですが、経営トップは、ファン獲得を戦略的に加速させようと意欲的です。無印良品を運営する良品計画(東京都/堂前宣夫社長)は7月の中期計画の記者会見で、堂前社長(会見時は専務)が「当社のコンセプトに共感していただいている一部のお客さまに受け入れてもらえればいいということではない。より多くの人に支持いただけるよう努めていく」と語っていました。そのためには戦略的に荒利率を下げてでも値頃感を追求し、一方で生活圏に近いところへ出店するなど、これまでの経費構造を変えていくと言いました。
 ビオセボン・ジャポン(東京都)の岡田尚也社長は、7月の新店オープンの囲み取材の際に「ビオセボンは基本的に小商圏のビジネス。これを成立させるには、オーガニックに関心はあるけれど、まだ実際には取り入れていないという生活者をいかに掘り起こしていくかが重要」と語りました。専門店が打ち出すコンセプトは、独自性が明確で強力なほど顧客を選んでしまう側面があります。だからこそ「コアなファン」になるわけですが、それでよしとせずに共感の輪を広げていこうとする姿勢が両者にはあります。

値頃感でファンを増やす

 ファンを増やすために何をするかとなると、確実な方法の一つは、商品価格をもっと購入しやすいものにすることです。良品計画はここ数年、価格を引き下げる施策を続けてきました。MD戦略として「生活の基本領域」という枠組みを設定し、日常使いのブランドとして認知が広がるよう取り組んでいます。ビオセボン・ジャポンは低価格を追求しているわけではありませんが、値頃感は重視しています。普段使いできる価格でないと「オーガニックを日常に」とはならないからです。

顧客の目につくところでMD戦略をアピール(ジョイナス店)

 カテゴリーの領域もチェーン規模も異なる無印良品とビオセボンですが、商品コンセプトの明確さや、より手に取りやすい価格にしていくことでファンを増やそうとする意志、そしてファンが増えることで可能になる小商圏ビジネスを志向した出店戦略などは似ています。この相似は、食品にフォーカスすることから生まれてくるように思います。食品は来店頻度を高めますが、商圏の広がりには制約も生みます。どちらの業態も、そうした条件の中でコンセプトの明確な取り扱い商品へのファンづくりを進めています。