コロナ禍で高まるフードデリバリーへのニーズを背景に、ドイツでは、フードデリバリーとネットスーパーを組み合わせて展開する企業が相次いで登場している。フードデリバリー企業の参入は、同国におけるネットスーパーの展開にどのような影響を与えるのか。ドイツのフードデリバリー各社の動きをまとめた。
取材協力=高島勝秀(三井物産戦略研究所)
外資企業が相次いでフードデリバリーに参入
ドイツではこれまで、飲食料品を扱う食品スーパーをはじめ、小型のディスカウント店も多数出店しており、消費者の利便性が高かったことから、ネットスーパーは普及してこなかった。EC最大手のアマゾンは、米国では2007年にネットスーパーを開始しているが、ドイツではベルリン、ミュンヘンなどの4都市での展開にとどまっている。
そうした状況下、コロナ禍での消費者ニーズの高まりを背景に、足元ではフードデリバリー各社がネットスーパー事業の展開に乗り出す動きが見られている。ドイツにおけるフードデリバリーは、オランダのジャストイート・テイクアウェイ(Just Eat Takeaway)が2019年1月にドイツに本社を置くデリバリーヒーロー(Delivery Hero)の国内事業を買収し、ほぼ同社による独占状態となっていた。
そこに2020年になると、地場のフードデリバリー企業であるゴリラス(Gorillas)とフリンク(Flink)が創業。さらに同年8月にはフィンランドのウォルト(Wolt)、21年4月には米ウーバーイーツ(Uber Eats)、同5月にはデリバリーヒーロー傘下のフードパンダ(Foodpanda)と、すでにフードデリバリーで実績を持つプレイヤーが相次いでドイツ市場に参入した(図表)。15年創業のトルコ企業、ゲティール(Getir)も21年に入って英国、オランダに進出したのに続き、ドイツに参入することを発表している。
フードデリバリー主導でネットスーパー市場が形成か
これら新規参入企業はいずれも、ドイツでの事業開始時からネットスーパーを組み合わせたフードデリバリー事業を展開しており、ジャストイート・テイクアウェイも21年5月から同様の事業を開始した。ジャストイート・テイクアウェイを含む国外4社は、契約を結んだリアル店舗からの宅配にとどまっているが、国内3社は小型の自社倉庫を複数設置して商品在庫を抱えることで、受注後約10分で配送する「クイック・デリバリー」を訴求ポイントとしている。ゴリラスとフリンクはすでにドイツ国外にも進出を果たしており、ゴリラスは英国やベルギーなど欧州6カ国、後者はオランダ、フランスで、それぞれフードデリバリーとネットスーパーを組み合わせた事業を展開している。
海外流通に詳しい三井物産戦略研究所の高島勝秀氏は、ドイツでのこうした動きについて「これら企業のすべてにとって課題となるのは、『商品調達』と『在庫管理』の問題だ」と指摘する。
「これを克服するための選択肢の一つに、実店舗リテーラーとの提携が考えられる。すでにフリンクは21年6月に、ドイツ大手リテーラーであるレーヴェ(Rewe)と提携関係を構築しており、これが同社のネットスーパー事業の成長を加速させる大きな要素となるだろう」(高島氏)。
高島氏は続ける。「ドイツにおけるフードデリバリー企業主導によるネットスーパー市場の形成は、先行する米国や英国、中国などとは一線を画すユニークな動きであり、今後、ほかの欧州諸国でも同様の展開となることも考えられる」
日本でも、足元では多くの外資系のフードデリバリーが参入している。これら企業の参入がネットスーパー市場にどのような影響を与えるのか。要注目だ。