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ついにヨーロッパ本格進出!21年7月、丸亀製麺がロンドン・リバプールストリートに出店 コロナ禍でめぐってきたチャンスとは

トリドールホールディングス(東京都/粟田貴也社長、以下:トリドールHD)は、21年7月に同社が展開する讃岐うどんチェーン「丸亀製麺」をイギリス・ロンドンに出店することを発表した。世界的にコロナ禍が続く中、なぜ今ヨーロッパへの本格進出を決断したのか、出店に当たっての新たな取り組みや今後の展望などについて、同社執行役員 海外事業本部本部長 杉山孝史氏、海外事業本部 FC開拓部部長 菅聡氏に話を聞いた。

なぜ今ロンドン出店なのか?

 トリドールHDの主力事業である「丸亀製麺」は、打ちたて・茹でたてのうどんをセルフサービス方式で提供する讃岐うどんチェーンだ。同チェーンは2011年、初の海外進出となったハワイ・ホノルルでの大成功を皮切りに、アジアやアメリカ、ロシアなど、現在まで世界11の国と地域で約240店舗を展開、積極的に海外出店を行ってきた。そんな中で、ヨーロッパへの本格進出の足掛かりとなるイギリスへの出店は、何年も前から構想しつつ実現していなかった、いわば”悲願”のひとつだった。

 進出が難しかった背景のひとつには、高額な賃料がある。ロンドンでは、集客の見込める好立地は、保証金や権利金などの初期賃貸費用が日本円で億単位になることも珍しくない。海外でも日本同様、低価格でうどんを楽しんでもらうことを前提としている丸亀製麺としては出店を躊躇する額だ。

 しかし、出店のチャンスが意外にもコロナ禍で巡ってきた。ロックダウンなどの影響でテナントに空きが続出、大幅に賃料が下がったところにすかさず参入した。現在イギリスでは段階的なロックダウンの緩和が進められており、6月には全面解除が予定されていることを踏まえて、7月オープンに踏み切った形だ。

手頃な価格で若者をターゲット

 ロンドン1号店がオープンするのは、一日約7000万人が利用するターミナル駅、リバプールストリート駅のすぐ側だ。周辺にはオフィスや大学が多く、普段は買物客なども加えて毎日大勢の人々が行き来する人気エリアで、とくに情報感度の高い若者受けする飲食店が多い場所だという。

 このような地域特性を踏まえ、「1ヶ月に何度も来てもらえる普段使いの店にしたい。気軽に食べられる価格帯を意識した結果、現地の感覚では“破格”といわれる値段になった」と杉山氏は話す。現地には日本食専門店も存在するものの、うどん一杯で1500円前後に上るなど手が出しにくいメニューが多い。そんな中、丸亀製麺は定番メニューの「かけうどん」「釜揚げうどん」などを3.45ポンド(約520円)から提供する。

海外でも、日本の定番メニューを同様に低価格で提供する

 オープンキッチンの臨場感あふれる空間の中で、打ちたて、ゆでたてのうどんを低価格で提供し、まずは新しいものに敏感で発信力のある若者の間でヒットさせることを目指す。現状うどんは、ラーメンや寿司、カレーなど他の日本食と比べて認知度が低い。まずは若者にうどんという未知のメニューに興味を示してもらい、さらに体験・発信してもらうことで、更なる客層の拡大をめざす。

国内外初ビーガン向けメニューを導入

 

海外限定メニューの「豚骨うどん」

 現地で受け入れてもらうための工夫として、これまでも丸亀製麺では出店地域に合わせたローカルメニューの開発を行ってきた。今回、ロンドン1号店でも「豚骨うどん」「チキンカツカレー丼」などの現地のトレンドを取り入れたローカルメニューを提供するが、とくに注目すべきは“ビーガン向け”メニューの導入だ。ビーガン向けメニューは国内外含めて丸亀製麺では初の取り組み。導入の背景には、現地のマネジメントチームの意見があったという。

 トリドールHDは海外出店の際、「その地域の人でなければわからない感触や、市場の理解が重要」(杉山氏)と考えている。近年、丸亀製麺の海外出店は現地の事情に精通するパートナー企業と協業するジョイントベンチャーの形を取り入れており、ロンドン店でも外食専門の投資ファンド「キャプデシア(Capdesia)」と協業し、現地メンバーがマネジメントを行う。ビーガン向けメニューの導入も、現地ならではの感覚から提案されたものだ。

 ロンドン1号店では、実にメニューの約30%をビーガン向けとし、通常魚介を使用するうどんのだしを植物性のだしに変更したり、天ぷらの衣をビーガン仕様に変更したりするなどした。ロンドンの人口に占めるビーガンの割合は約7%とされている中、メニューの30%をビーガン向けにするのはやや過剰な印象も受けるが、「現地チームによると、30%は最低限のライン」だと杉山氏は言う。

 その理由は、友達同士や家族など複数人で外食をしようとなった時、その中に1人でもビーガンがいると、ビーガン向けメニューが充実していない店はそもそも選択肢にも入れてもらえないためだ。ビーガン向けメニューがあり、その中から自由に選べる幅広いラインアップを備えていることが、ロンドンの飲食店ではもはや常識なのだという。

コロナ禍で活躍した360度カメラ

トリドールホールディングス海外事業本部 FC開拓部部長 菅聡氏(左)、同社執行役員 海外事業本部本部長 杉山孝史氏(右)

 コロナ禍が完全に沈静化したとは言えない状況でオープンを迎えるロンドン1号店では、スタッフ教育の面でも工夫を凝らした。丸亀製麺では、海外でも日本と同じように、「お客の目の前でうどんを茹でて、できたてを提供する」という体験価値を重視している。丸亀製麺ならではの独特のライブ感を提供するためには、スタッフ側がそれを十分体験していなければならないが、ロンドン1号店ではコロナ禍でのオープンとなるため渡航が難しく、通常海外出店の際に行っている現地のスタッフによる国内店舗の視察が叶わなかった。

 これを解決するため、お客やスタッフの目線の高さに取り付けた360度カメラで国内の丸亀製麺の店舗を撮影してロンドンへ送り、現地ではVRヘッドセットを用いて擬似体験をしてもらう、という方法をとったという。現地スタッフの反応は、「臨場感を感じられる」「キッチンとお客が想像以上に近いことが分かり驚いた」など肯定的なものが多く、今後他の地域への出店でも活用していく考えだ。

 菅氏は、「ロンドン出店が、ヨーロッパで広くうどんと丸亀製麺が定着する足掛かりになれば。ハンバーガーやフィッシュ&チップスにも引けを取らない普段のメニューの一つとして、親しまれる店づくりを心がけたい」と意気込みを語った。