メニュー

コロナ下で三者三様の様相を呈した2020年のシンガポール・タイ・マレーシアの小売市場

ダイヤモンド・リテイルメディアは、東南アジアの小売市場の現状分析と戦略立案をサポートする「ダイヤモンド・リテイルレビュー」(PDFファイル形式)を刊行しています。各国の消費者情報を深掘りするとともに、小売マーケットの最新情報をお伝えする「ショッパー&リテイル」として刷新し、2021年4月にシンガポール、タイ、マレーシア、最新版を発刊いたしました。今回は最新版の内容を一部ご紹介いたします。

シンガポール
COVID-19感染とシンガポール経済

  シンガポール政府は2020年4月7日に必須サービスや製造活動を除く大半の職場を閉鎖する部分的ロックダウン「サーキットブレーカー」を発令した。「サーキットブレーカー」は6月1日まで延長され、それまで営業継続が認められていた職種を削減し、街を移動する労働者の割合を15%までとした。また、ドミトリー在住の全ての外国人労働者の外出を禁止した。
 7日間平均の新規感染者数が500人を下回り始めた6月2日、部分的にロックダウンの解除を開始した。最初の「緩和フェーズ1」では労働力の3分の1が復帰し、食品以外の小売店の開業や飲食店の店内でのサービスは、6月19日に始まった「緩和フェーズ2」から可能になった。
 2020年12月28日に経済活動再開を最終段階に移行すべく、「緩和フェーズ3」が発令された。2020年末時点で7日間平均の新規感染者数は30人前後まで減少しており、2021年3月に入ってからは10人台とさらに低い水準を維持している。
 シンガポールのGDP成長率は2019年に大きく低下し、2008年の世界経済危機以来の低い成長率に落ち込んでいた。その状況下でコロナ禍にみまわれた2020年のGDPは、通年でマイナス6.2%となったとアジア開発銀行は発表している。ちなみに、2021年のGDP成長率はプラス4.5%とアジア開発銀行は予測している。

2020年のシンガポール小売売上

 「サーキットブレーカー」が開始された4月にシンガポールの小売売上は、前年同月比マイナス32.2%となり、5月にはさらにマイナス44.7%と大きく低下した。「サーキットブレーカー」が終了し、「緩和フェーズ1」「緩和フェーズ2」が始まった6月に小売売上はマイナス23.9%、そして翌7月にはマイナス7.9%と回復基調になった。2020年12月はマイナス4.5%である。


 小売売上の大幅な減少は小売市場の59%を占める「専門店チャネル」と、長年シンガポールの小売市場の成長を牽引してきたものの近年は成長が鈍化していた「百貨店」で生じた。一方、「スーパーマーケット」は未曾有の売上増加となった。大きく売上を減少させた「専門店チャネル」の中では、「アパレル」「化粧品/トイレタリー/医薬品」「食料品アルコール」「時計/宝飾」「眼鏡・本」は「緩和フェーズ1・2」が開始された後も、売上の減少傾向が続いている。
 シンガポールのEコマース化率(小売市場に占めるEコマースの比率)は、2020年1月にすでに6.5%と高いレベルに達していた。Eコマース化率は「サーキットブレーカー」が開始された4月に20.1%、翌5月には26.3%へ上昇した。6月以降にEコマース化率は急速に下降しているが、12月には12.6%と1月から6.1ポイントの上昇となっている。
 「専門店チャネル」の中では、「コンピューター/通信機器」と「家具/家財」は5月に大きくEコマース化率を、それぞれ94.3%、93.6%とした。未曾有の売上の増加をみた「スーパーマーケット」だが、Eコマース化率はさほど増加しておらず、6月以降は10%~12%台で推移している。

タイ
コロナウィルス感染者数の推移とGDP成長率

 タイでCOVID-19の感染者抑制のための「非常事態における統治に関する勅令」(非常事態令)が発令されたのが2020年3月26日で、4月3日には夜間外出禁止令が発令された。第一波の到来といわれる2020年3月末時点の7日間平均の感染者数は100人を超えていたが、感染者数は急速に減少する傾向を見せ、「非常事態令」は継続しつつもフェーズ1の緩和策が5月3日、フェーズ2の緩和策が5月17日に実施された。
 非常事態令と夜間外出禁止令は数回にわたり延長されたが、5月から11月までの間は感染数の抑え込みは功を奏していたが、12月中頃から7日間平均の感染者数は200人を超えるようになった。いわゆる第二波の到来をむかえ、2021年2月初旬には7日間平均の感染者数が900人を超える状態となった。
タイの2019年通年のGDP成長率は2.4%(注)とASEAN6の中ではシンガポールと並び、低い成長率のレベルにあった。世界銀行は、コロナ下の2020年通年のタイのGDP成長率をマイナス6.5%と発表している(速報値)。ASEAN6の中ではフィリピンに次ぐ2番目に低い成長率となった。なお、世界銀行は2021年のGDP成長率を4.0%と予測している。
(注:タイ政府は世界的金融機関が発表している数値と異なった数値(3.1%)を発表している。「ショッパー&リテイル・タイ2021」ではタイ政府の発表した成長率を使用している)

2020年のタイの小売売上インデックス

 タイの小売市場は2019年通年では、GDPの成長率と同じ前年比3.1%の伸びを見せたが、2020年に入り、1月は前年同月比マイナス2.1%、2月はマイナス0.9%という前年を下回るレベルで推移していた。コロナウィルス感染防止のための「非常事態令」が発令された3月に、小売市場の売上は前年同月比マイナス12.1%となり、4月にはさらにマイナス29.4%、5月はマイナス28.2%と大きく減少した。6月には減少幅はマイナス17.4%と改善の傾向を見せ始め、月毎に減少幅は小さくなり、12月には前年同月比マイナス0.2%とほぼ前年と同レベルまでに回復している。
 「百貨店/スーパーマーケット/雑貨店」は2020年4月には前年同月比マイナス21.7%と大きく売上を減少させたが、緩和策フェーズ1・フェーズ2が始まった翌5月にはマイナス9.3%と回復し、その後も緩やかに減少率を小さくしてきている。「通販/インターネット」は、4月に前年同月比117.6%と大きな増加率となり、5月にはさらに149.1%に上昇した。6月以降も100%に近い増加率を維持し、12月には79.5%の増加となっている。「医療品/トイレタリー」は3月と4月にパニック購買の恩恵を受けそれぞれ10.0%、21.6%と前年を上回ったが、翌5月以降は前年を下回る売上となっている。タイの専門店チャネルの15.5%を占める「金物類/塗料/ガラス(詳細はパート6に表記)」と、同じく住宅関連の「家電品/家具/照明器具その他の家財」は2020年を通じて前年を下回る売上となった。一方、「AV機器」は6月から8月に前年を上回る売上をみせた。特に8月は23.9%という高い増加率である。
 「アパレル/履物/皮革」「書籍/新聞/文房具」「その他の文化/レクリエーション」は1年を通じて売上を減少させた。特に、「アパレル/履物/皮革」は3月にマイナス48.1%、4月マイナス68.9%、5月マイナス43.8%と高い減少率となった。「書籍/新聞/文房具」は12月にはかろうじて前年同月比8.6%の増加率となったが、「その他の文化/レクリエーション」は、3月以降マイナス40%~50%の間で売上を大きく減少させた。

マレーシア
COVID-19感染とマレーシア経済

 2015年の政権交代に伴い導入されたGST(物品サービス税)は2018年に廃止され、政権交代前に採用されていたSST(売上税・サービス税)が再導入されるという目まぐるしい環境の中でも、世帯支出の伸びに支えられたマレーシアの小売市場は増加を続けていた。2014年から2019年の間に、混合商品を扱う一般小売チャネルは年平均12.1%の伸び、専門店チャネルは9.9%の伸びを見せていた。
 2020年1月25日にマレーシア保健省はマレーシアで初めてのCOVID-19感染者が発見されたと発表。シンガポール経由で入国した3名の中国人旅行者であった。そして2月6日にマレーシア国内初の感染者が発見される。感染の拡大をうけて、2020年3月18日にマレーシア全土に「活動制限令 MCO (Movement Control Order)」が発令され、社会活動と経済活動は大きく制限されることになり、「活動制限令」は2度にわたり延長され5月12日まで続いた。
 2020年5月13日に「条件付き活動制限令CMCO (Conditional Movement Control Order)」が発表され、徐々に制限が緩和され始め、6月10日の「回復のための活動制限令RMCO (Recovery Movement Control Order)」により、「規制SOP(Standard of Operation)」に従うことを条件に、ほぼ全ての社会・経済活動が許可された。 マレーシアの感染者数は9月前半までは比較的抑制されていたが、9月半ば以降、大きく増加する傾向をみせた。このため、10月半ば以降、特定地域を対象とし「活動制限令」が再度発令されることとなった。地域ごとに制限の内容を変える方法がとられたが、発令後も感染者数の増加は止まらず、2020年12月末には、1日の感染者数が2,000人に近づき、2021年1月末には4,000人を超える事態となった。2021年3月18日時点でWHOが発表しているマレーシアのCOVID-19累積感染者数は32万7,253人となっており、「活動制限令」は2021年3月31日まで延長されている。
 マレーシアの2019年通年のGDP成長率は4.3%(注)とASEAN6の中でも比較的好調な経済成長率を維持していたものの、2020年のGDP成長率は他のASEAN6と同様に過去20年で最低の落ち込みとなった。世界銀行は速報値で2020年のマレーシアのGDP成長率をマイナス5.8%と発表している。10月半ば以降に再度発令された「活動制限令」により、ASEAN6の中では唯一、2020年第4四半期の成長率が前期を下回る結果となった。
(注:世界銀行が発表している数値。ショッパー&リテイル・マレーシア2021ではマレーシア政府の発表している数値を使用)

2020年のマレーシアの小売売上

 好調な小売市場の成長を反映し、2020年1月と2月の小売売上指数はそれぞれ前年同月比プラス6.7%、6.3%と推移していた。しかし、「活動制限令」が発令された3月に小売売上指数はマイナス6.6%となり、4月には大きくマイナス32.4%となった。翌5月はマイナス16.1%となったが、ほぼ全ての経済活動が許可された「回復のための活動制限令」が発令された6月の小売売上指数はマイナス9.2%と回復基調を見せたものの、翌月以降12月まで、マレーシアの小売売上指数は、低い減少率で推移した。
売上の減少は、マレーシアの小売市場68.9%を占める「専門店チャネル」で発生した。混合商品を扱う「一般小売チャネル」と「食料品/飲料/タバコ」を扱う専門店で小売売上は減少していない。「一般小売チャネル」の小売売上は4月にマイナス9.3%となったものの、翌月から回復基調となり、5月はマイナス3.2%と減少率を縮小し、7月以降は前年を上回る状態が続いた。「食料品/飲料/タバコ」専門店は12月まで一貫して売上を増加させている。また、「無店舗小売業」も2020年を通じて高い伸び率を維持した。
 小売売上指数の減少は専門店チャネルで大きいが、大きな減少率は総じて8月までで、9月以降の減少幅は小さくなっている。4月には「情報/通信」 がマイナス31.0%、「他の住宅設備関連」が マイナス48.3%、「レクリエーション/教養」 がマイナス53.2%と最も売上を減少させた。

ダイヤモンド・リテイルレビュー「ショッパー&リテイル 2021」

 2021年4月、マレーシア、シンガポール、タイの3カ国の更新版「ショッパー&リテイル2021」を刊行しました。「ショッパー&リテイル」は各国の消費者情報を深掘りするとともに、小売マーケットの最新情報をお伝えします。2020年の小売市場の分析を主要テーマとして、3カ国の消費環境の大きな流れととともに、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を大きく受けた小売市場の最新情報を提供いたします。

ダイヤモンド・リテイルレビュー「 ショッパー&リテイル シンガポール2021」ダイヤモンド・リテイルレビュー「 ショッパー&リテイル タイ2021」ダイヤモンド・リテイルレビュー「 ショッパー&リテイル マレーシア2021」