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焦点:デジタル化に賭けるイタリア零細企業、コロナで死活問題に

イタリア アブルッツォ州バストのエコフィルトリ本社オフィス
3月21日、イタリア中部にある自動車フィルター部品メーカー、エコフィルトリは従業員が10人に満たない零細企業だ。昨年、国の支援を得てフィンテック企業から10万ユーロ(約1295万円)の融資を受けた。コロナ禍中で生き残るため、同様の融資を利用したイタリアの零細企業は数千社に上る。写真はアブルッツォ州バストのエコフィルトリ本社オフィス、16日撮影。提供写真(2021年 ロイター/Simone Scafetta)

[ミラノ 21日 ロイター] – イタリア中部にある自動車フィルター部品メーカー、エコフィルトリは従業員が10人に満たない零細企業だ。昨年、国の支援を得てフィンテック企業から10万ユーロ(約1295万円)の融資を受けた。コロナ禍中で生き残るため、同様の融資を利用したイタリアの零細企業は数千社に上る。

ただエコフィルトリの場合、借りた資金は滞納している家賃や請求書の支払いに回すのではなく、技術刷新に投資した。電気自動車への移行という長期的な課題は以前から抱えていたが、新型コロナウイルスの感染長期化で自動車の走行自体が減り、これまでとは違う新分野の開拓が急務になった。

エコフィルトリの共同創業者シモーネ・スカフェッタ氏はビデオコールでロイターに対し、「施設を拡充し、ハイテク設備を買い、R&D(研究開発)部門までつくった。この部門で3つのプロジェクトに取り組んでおり、今後は特許を取れればいいと考えている。さらにITに対応した製品とサービスを提供していきたい」と語った。

構造改革、コロナ禍が後押し

デジタル経済・社会指数(DESI)によると、2019年時点のイタリアのデジタル競争力は欧州連合(EU)加盟諸国中、下から4番目。企業に大規模な技術革新を迫るコロナ禍は、イタリアの低い生産性と成長率をてこ入れする千載一遇のチャンスをもたらしている。

イタリアの公的債務は世界で3番目に多く、これを支えるには成長率を高めることが不可欠だ。コロナ禍により公的債務の対国内総生産(GDP)比率は1.6倍に膨れ上がっている。

ミラノ工科大学の調査によると、イタリアの中小企業(SME)は電子商取引や電子インボイスへの適応、ビッグデータの利用といった幅広い指標で見て、スペインに40%の差を付けられている。この差が埋まればGDP成長率は年平均1.9%ポイント上昇する可能性があるという。

ただポリテクニコでSME・デジタル革新調査部門を率いるジョルジア・サリ氏は、企業がコロナ禍への受動的な反応から戦略的な技術革新へと移行し、それに伴って企業を取り巻く環境も進展しなければ、こうしたことは実現しないと指摘した。

イタリアの推計によると、同国のデジタル投資額はここ数年、他のEU諸国に比べてGDP対比約2%ポイント分、後れを取っている。

しかし、コロナ禍は転じて歓迎すべき変化ももたらしている。デル・テクノロジーズの委託で実施された中小企業調査では、86%が昨年にデジタル改革計画を加速したと答えた。これはEU平均の75%より多い。

ITサービスを提供するVARグループのフランチェスカ・モリアーニ最高経営責任者(CEO)は「パンデミックにより、イタリア企業は自国の大きなデジタルギャップを直視せざるを得なくなった」と話した。

ユーロ圏は全体でもデジタル経済規模が米国の3分の2にとどまっている。VARグループの調査によると、イタリアのSMEの92%は、コロナ禍で売上高が打撃を被ったにもかかわらず、今後2年間にデジタル投資を行う予定だと答えた。

デジタル化阻んだ産業体質

イタリアがデジタル対応で大きく出遅れたのには、数多くの背景がある。

ブロードバンドへのアクセスがEU平均より低い上、企業数全体に占める大企業の割合はほんのわずかだ。大企業は通常、技術投資プログラムを支える役割を担う。

また多くの企業は家族所有もしくは家族経営であるため、デジタル改革を率いるのに適切なスキルを備えた管理職を欠く傾向がある。

欧州中央銀行(ECB)の調査によると、イタリアのように企業が主として銀行融資に頼る国では、資金調達面でも制約がある。伝統的な銀行は、複雑な技術に基づくプロジェクトのリスク査定に手間取ることが多いからだ。

さらには同国の人口高齢化や、情報通信技術(ICT)関連の学部卒業生の割合が非常に低いという問題もある。欧州統計局のデータによると、ICT関連学部の新卒者は年間約5000人と、イタリアより人口の少ないスペインの約1万8000人を大きく下回っている。

イタリア政府は、企業による最先端技術への適応と超高速ネット接続を支えるためにEU復興基金から460億ユーロをデジタル投資に振り向けることを決めた。復興基金はまだ各国に支払われていない。

政府はまた、デジタル投資を計画する企業への税制優遇措置を導入するとともに、英通信大手ボーダフォンのビットリオ・コラオ元CEOを国のIT戦略の司令塔として起用した。

エコフィルトリに融資したフィンテック企業、クレディミは、SMEからの融資需要でデジタル技術革新が重要な原動力となっていると説明する。

BIPコンサルティングのファビオ・トロイアーニCEOは「わずかな例外はあるが、パンデミックは準備のできていなかったイタリアの中小企業を不意打ちした。企業は今、デジタル技術の進展に必死で追いつこうとしている」と語った。デジタル対応は「一部の企業にとっては死活問題になった」という。

ますます出遅れるリスク

多くのイタリア零細企業は課題に立ち向かおうと奮闘している。

ミラノ工科大とロビー団体ネットコム・ドットのデータによると、電子商取引を利用するSMEの割合は昨年50%増えて全体の3分の1になった。昨年春に実施された全土のロックダウン(封鎖措置)中に初めて電子商取引を利用した人の数は、200万人増えた。

ミラノ工科大のデータではまた、SME向けのクラウドサービスは42%増えた。背景にはリモートワークの人数が11.5倍の660万人に達したことがある。

今のところ、イタリア政府のデジタル投資促進プログラムを利用しているのは主に大企業だ。エコフィルトリのような零細企業にも参加を促すことが今後の課題となる。同社のように従業員10人足らずの企業は全土で400万社以上あり、全体の95%を占める。

米グーグルの公共政策上級マネジャー、ディエゴ・チウッリ氏は、世界全体で消費者がオンラインショッピングに移っている中で、イタリアがデジタルギャップを埋められなければ機会損失どころではすまないと指摘。「本当のリスクは、さらに遅れることだ」と言う。

「イタリアのワイン生産者が貿易見本市の再開を待って新しい外国顧客を開拓しようと考えている間に、フランスの生産者がオンラインで上手にワインを販売していたなら、成長の機会を逸するだけでなく、市場シェアを失うことになる」とチウッリ氏は語った。