トランプ関税などの影響で米国経済が先行き不透明であるにもかかわらず、米ホームセンター大手のホーム・デポ(Home Depot)の業績が好調だ。その背景には、従来重視していたBtoC(消費者向け)から利幅の大きいBtoB(建設業者を中心とする企業向け)へ軸足を移す「ビジネスモデル大転換」がある。こうした動きにより、一般消費者向けの小売業の形態がどう変化してゆくのか、読み解いていく。

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リノベーションからDIYに、消費トレンドがシフトか
ホーム・デポが8月19日に発表した2025年第2四半期(5~7月)業績は、売上高が対前年同期比4.9%増の452億7700万ドル(約6兆7009億円)、営業利益は同0.3%増の65億5500万ドル(約9833億円)と、増収減益だった。米国内の既存店売上高は同1.4%増で3四半期連続で伸長したものの、調整後1株当たりの利益は4.68ドルと、市場予想を下回った。
同社は、住宅所有者が大規模なリノベーションへの支出を控える一方で、照明やガーデニングといったより小規模なDIY商材に投資しているとの見方を示した。また、トランプ関税の影響については、CFO(最高財務責任者)のリチャード・マクファイル氏が「当社は取扱商品の半分以上を米国内で調達しており、競争力ある価格を維持できているが、輸入品については関税発効以前に仕入れた在庫が一巡した。25年度後半は一部のカテゴリーで小幅な値上げがあるだろうが、広範囲にわたるものにはならないだろう」と語っている。
翻って、米国市場では米連邦準備制度理事会(FRB)が9月以降に利下げを開始するとの見通しが強まっている。利下げが複数回にわたって実施されれば、住宅関連の需要が一段と伸びると予測され、その結果としてホーム・デポの業績が予想以上に改善する可能性もある。さらに、24年7月に成立した大型減税法案の影響も相まって、需要の一層の増加が見込まれる。こうした中、マクファイル氏は「25年通期については、従来の見通しを維持する。売上高は対前期比約2.8%増、1株当たりの調整後利益率は前年比2%減になる」との見方を示した。
利幅が大きいプロ向け市場で規模拡大へ
一般家庭向けの大規模改修需要が伸び悩む中、ホーム・デポは中長期的な成長戦略としてビジネスモデルの大転換を図っている。従来のBtoC中心の方針を見直し、利幅が大きく、住宅供給不足により今後の市場拡大が見込まれる建設業者向けのBtoB販売を強化するというものだ。
その一環として、同社は24年6月、建築資材販売大手のSRSディストリビューション(SRS Distribution:以下、SRS)を約182億5000万ドル(約2兆7010億円)で買収。続く25年6月には、SRSを通じて同業のGMS(Gypsum Management and Supply)を約43億ドル(約6364億円)で傘下に収めた。
この2件の大型M&Aにより、ホーム・デポは全米で合計1200カ所超の配送拠点、8000台以上の配送トラックを保有する一大物流網を構築。約500億ドル(約7兆4000億円)と見込まれるプロ向け建材市場で、販売量の最大化と物流コストの抑制をねらう。
また、ホーム・デポおよび傘下のSRS、GMSは、ウェブ上の注文受付から配送手配までを自動で処理するシステムを導入している。こうしたデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進により、従来の人海戦術による業務処理から脱却。人件費を抑制しながら、高収益な法人案件を効率よく獲得できる体制を整えている。
こうした動きに対し、同業大手のロウズ(Lowe’s)も25年8月、建築資材の販売業者、ファウンデーション・ビルディング・マテリアルズ(Foundation Building Materials)を88億ドル(約1兆3000億円)で買収し、法人向け建材事業の強化をしている。同時に、連邦政府は地域ごとに異なる建築基準や用途地域(ゾーニング)規制を標準化するなど、住宅取引に伴う諸費用を引き下げる住宅緊急事態宣言の発出を検討している。この政策が実現すれば、ホーム・デポやロウズのBtoB部門への追い風となるだろう。
ホーム・デポなどホームセンター大手は本業の消費者向け小売を強化しつつも、BtoBに軸足を移すことで財務強化を推進している。BtoB事業で蓄積された自動化・効率化のノウハウは、BtoC事業に応用できるだけに、今後の展開が注目される。