米ファストフードチェーンの多くが2024年初夏に期間限定で開始した5ドル(約720円)前後のお得メニュー提供から抜け出せていない。物価上昇率が高止まりする中、主要顧客の中間層や低所得層で内食回帰が進んでいるからだ。加えて、25年1月に発足したトランプ政権の高関税政策により、インフレによる外食離れがさらに進行すると予想されることも大きく影響している。ファストフードチェーンのお得メニューの恒常化は、スーパーマーケットチェーンにとっては引き続き食品売上を伸ばすチャンスとなっている。

「24年6月まで」が「25年夏まで」に
米ファストフードチェーン大手のマクドナルド(McDonald’s)は、24年5月に1カ月間の予定で提供を開始した5ドルの「マックバリューセット」のキャンペーン期間を、終了予定日の直前に「(24年)8月まで延長する」と発表した。そしてその後も「マックバリューセット」メニューの提供がなし崩し的に続き、25年3月に「25年夏まで引き続き販売していく」と発表した。
競合のバーガーキング(Burger King)やウェンディーズ(Wendy’s)なども同様の期間限定メニューの提供を開始し、各社でたちまち人気商品となったからだ。とくに低所得層の顧客が高額メニューを敬遠し「お得メニュー」の販売なしに来店が見込めず、売上が立ちにくくなったこともキャンペーン継続を後押しした。その結果、バリューメニューの提供は各社でなし崩し的に続いている。
しかし、主要顧客層の外食消費が息切れする中で安易に値上げをすることは売上減少につながりかねない。そればかりか、「お得メニュー」を継続する競合を利する可能性があり、各社は頭を悩ませている。
実際に、23年1月から25年3月までの名目上の売上は増加が続いているものの、インフレ調整後の米外食産業の売上推移はほぼ横ばい状態が続いている。加えて、安価なカナダ産牛肉、ポテトフライ向けじゃがいも、フライ用のキャノーラ油など、原材料の多くを輸入に依存する米ファストフードチェーンでは、トランプ大統領による関税の上乗せ(「トランプ関税」)がカナダにもおよぶ見方が強まっている。
「トランプ関税」によるメニュー値上げが実施されると、売上が打撃を受けるのは不可避だ。客離れを防ぐため、マクドナルドの「25年夏までマックバリューセットを提供」の方針はさらに延長される可能性がある。「お得メニュー」の提供期間を延長し続けているライバル各社も同様であろう。
内食がさらに伸びると予想できるワケ
米国農務省(USDA)経済調査局によれば、内食(food-at-home)の物価上昇率は24年通年で1.2%に収まっていたのに対し、外食(food-away-from-home)は同期間に4.1%となった。
消費者の経済的な苦境が続く中、内食が家計への負担を軽くすることに議論の余地はない。そうした環境下、競合が「お得メニュー」を販売し続ける限り、ファストフードチェーンの選択肢は限られてくる。“お得”なメニューを提供し続けるしかないのだ。
一方、25年通年の食事にかかる平均価格の年率上昇率(予想)が、内食3.3%、外食3.4%になることが見込まれる(下図)。
しかし、過去10年間の累積の価格上昇を考慮すれば、外食の値上がりは群を抜いており、内食は家計に優しい。ここに、米食品スーパーの商機がある。
米調査企業コアサイト・リサーチ(Coresight Research)によれば、25年の米生鮮食品の売上高は、対前年比3.1%増の1兆6000億ドル(約230兆円)に達すると予想される。これは、24年の対前年比成長率が1.1%に過ぎなかったことを考えると、よい兆候だ。
売上増大の主な要因は、インフレによる名目上の売上が増大するためだが、外食から内食への乗り換えによる影響も寄与するだろう。
こうした中、食品スーパーのトレーダージョーズ(Trader Joe’s)やハードディスカウントストア、アルディ(Aldi)が新規出店を加速させるなど、一部の食品スーパー、ディスカウントストアは積極的に顧客を増やそうとしている。
一方で、内食へのシフトが進行しているにもかかわらず、来店客の節約志向は強まっており、25年の客単価の伸び率は1%に留まると、コアサイト・リサーチは見ている。これは、客を増やしたい、あるいは引き留めたい食品スーパー側における値下げ競争が激化していることを示唆している。
食品スーパーチェーンがディスカウントに依存する現象は、ファストフードチェーンが競合に来店者を取られないために「お得メニュー」をやめられないことと類似している。そうした中、消費者の家計のニーズに細かく寄り添い、来店頻度と買い物額を増やしてもらえる工夫を怠らないチェーンが、収益面で「勝ち組」となりそうだ。