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現地レポート!ポルトガルの「フードホール」が世界を席巻し始めた理由

日本でも新たな食の業態として注目を集めている「フードホール」。その定義はいまだ曖昧だが、外食チェーンやファストフード店が主体である「フードコート」の“アップスケール版”として、洗練された空間でクオリティの高い食事が楽しめる場所、といった見方をされることが多い。そのパイオニア的存在としてはイタリアの「イータリー」がよく挙げられるが、実は欧州ではこのほかにもフードホールが各都市で増殖している。なかでも、米国や中東での出店を果たすなど、にわかに勢いを増しているフードホールがある。2014年にポルトガルの首都リスボンに1号店をオープンした「タイムアウトマーケット」だ。

 運営元はタウンガイド誌を発行する出版社

リスボン市内にあるタイムアウトマーケット

 ポルトガルの首都リスボン。大西洋に面するこの港町から、大航海時代にはヴァスコ・ダ・ガマを始め、多くの遠征隊が旅立った。今日では、その風光明媚な景色を求めて世界中から多くの観光客が訪れている。

 そんなリスボンで今、地元民からも観光客からも人気を集めている場所がある。市内中心部からほど近く、近郊列車のターミナル駅の目の前にある「タイムアウト・マーケット・リスボン(Timeout Market Lisbon)」だ。

 古くからある市場に併設するかたちで2014年にオープンしたフードホールで、50以上の飲食テナントに加え、雑貨店やライブレストランなど合計で60店舗以上が出店。営業時間は月曜~水曜・日曜が午前10時から午前0時まで、木曜~土曜は午前10時から午前2時まで。遅めの朝食から寝る前の“一杯”まで、あらゆる食シーンをカバーする。

ホール内の様子。ピーク時間帯は移動もままならないほどの混雑具合だ

 特筆すべきは、テナントとして出店しているのがいずれも地元で人気の飲食店である点。シーフード、ステーキ、中華、和食(寿司)、スープ、スイーツなどあらゆるジャンルで話題の専門店が集結している。

 実は、タイムアウトマーケットを運営しているのは出版社だ。英ロンドンに本拠を置き、日本を含む世界各国で「タイムアウト(Time Out)」という名のタウンガイド誌の発行などを手掛けるタイムアウト・グループが運営元である。日本に置き換えてわかりやすく言えば、「東京Walker」(KADOKAWA)や「るるぶ」(JTBパブリッシング)が雑誌ブランドを掲げてフードホールを開発した、といった具合だ。話題の飲食店を多く誘致できたのも、各店舗と深いコネクションを持つタウンガイド誌ならではの芸当だろう。

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実際に食べて感じた、フードホール成功の秘訣

ピーク時は観光客と地元民で大盛況

 

料理はどんどん出来上がっていく。混雑時でも待ち時間は10分~15分程度

 さて、筆者が訪れたのは平日の午後9時頃。ポルトガルでは午後8時くらいから夕食を取るのが一般的(実際、市中のレストランのディナータイムはほとんど午後8時スタート)なので、まさにピークタイムである。観光客のほうがやや目立つものの、会社帰りと思しき地元民も多く、通路の移動もままならないほど多くの人でごった返していた。

 あまりの盛況ぶりに最初はおののいてしまうかもしれないが、利用方法はいたって簡単。好きな店で料理や飲み物を注文すると呼び出し用のページャー(小型の呼び出し端末)が渡され、料理ができあがったら取りに行くだけだ(飲み物は注文時に渡される)。

 さらに、ポルトガルの国民的ビールブランド「Super Dock」のカウンターでは数種類の生ビールが楽しめるほか、ワインバーではポルトガル産の数十種類のワインをグラスやボトルでオーダーすることが可能。いずれの店でも、自分の好みの味を伝えるとスタッフがおすすめを出してくれる。とくにワインバーでは、グラスで注文する場合でもテイスティングをさせてくれるなど、サービスの質が非常に高いことに驚かされた。

ワインの売場。お客の好みに合わせてポルトガル産のワインを提案してくれる

  店や料理によって価格は大きく異なるので一概には言えないが、市中の飲食店と比べると価格はやや割高な印象だ。筆者の場合は張り切りすぎてしまい、複数の店舗から2人で前菜を2品、メーン料理を2品、ビールやワインをグラスで2杯ずつ頼んでおよそ80ユーロ(約9600円)。実は一品一品のボリュームが多く、明らかに頼みすぎだった。周囲の人々の注文の様子を見たところ、客単価は飲み物を含めてだいたい30ユーロ(約3600円)くらいと予想される。 

筆者が注文した料理の一部。こちらはウズラのロースト。添えてあるポテトと卵の黄身を混ぜ合わせたようなもの(名前は不明)も絶品だった
イカとマッシュルームのクリーム煮。シンプルだがソースの味わいは複雑で、高級店で出てくるようなレベルものものだった
ウズラとアスパラのリゾット。出汁が効いていて、まるで鍋物の締めのような旨さがあった

 いずれにしても、観光客の視点で見ると、タイムアウトマーケットはとにかく使い勝手が非常に良い。街を歩き回って店を探したり、電話で予約したりする必要がないのは、時間が限られている観光客にとって好都合だ。フードホール内のどの店に行っても一定以上のレベルの味が楽しめるので、下手な観光客相手の店で高い割には味気ない料理を食べるよりは、はるかにコスパが良いと感じる。

ニューヨーク、ボストンでも開業 中東への進出計画も

観光客と地元民の双方に”刺さる”空間づくりがタイムアウトマーケットの成功要因だ

 リスボンで成功を収めたことから、タイムアウトマーケットは世界各国での展開を加速している。すでにアメリカのマイアミ、ニューヨーク、ボストンで開業しているほか、19年中にシカゴとモントリオール(カナダ)、20年にドバイ(アラブ首長国連邦)、21年にロンドン(英国)、22年にプラハ(チェコ)での出店も計画されている(いずれもタイムアウトマーケットのウェブサイトの情報より)。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。

 最も大きな成功要因は、地元客も観光客も楽しめる空間づくりに成功している点だろう。観光スポットでありながら、地元民の日常的な食事場所としての機能も併せ持つことは決して簡単なことではない。その絶妙なバランスを保てているのは、「人気店のおいしい料理を誰もが気軽に楽しめる」というフードホールに求められる役割を最大限に全うしているからにほかならない。

 そして、リスボンのタイムアウトマーケットを実際に訪れて感じるのは、テナント編集力の高さと、そこに集まる人々の熱気である。館(やかた)をつくって「フードホール」を謳うことは簡単だが、魅力ある店と料理、そしてそれを求め、楽しむ人々の熱気がそこになければ、フードホールとは言えない。

 タイムアウトマーケットの日本進出は今のところ報じられていない。しかし、欧米や中東で成功を収めた後に日本に上陸することがあれば、まだ黎明期にある日本のフードホール市場に激震が走ることになるのは間違いないだろう。