AFPは3月30日、ドイツのホームセンター企業ホルンバッハ(Hornbach)が放映したCMがアジア人に対する人種差別だとして非難の声が上がっていると報じた。そのホルンバッハとはどんな企業なのだろうか?
ホルンバッハによるCMを筆者も視聴した。庭仕事をしている中高年の白人男性達が汗と泥にまみれた衣類(下着も!)をコンポスターのような見た目の箱に脱ぎ捨てていく。衣類はそのままハイテク工場でパッキングされると、舞台はどこかアジアとおぼしき工業都市へ。その自動販売機で衣類を買い求めた若いアジア女性がパッケージを開封して匂いを嗅ぎ、恍惚の表情とともに「春の香り」というキャッチコピーが流れるものだ。
自然に触れる機会がないと感じている人に向けて、ガーデニングの楽しさを提案したい内容なのだろう。面白いと思う人もいるのかもしれないが、わざわざアジア女性を出す必然性はないというのが率直な感想だ。
DIY大国ドイツのなかでも勝ち組のホームセンター
さてこのホルンバッハ、一体どんな企業なのだろう。
ドイツはその消費者の多くがDIYとホームインプルーブメント(自宅の改修)を楽しむ、DIY先進国である。DIY市場規模は約6兆円(1ユーロ=125円)。日本のホームセンター市場規模が約3兆8000億円なのでドイツは人口が日本より3割少ないのに、DIY売上は1.5倍以上もある。文字通り、DIY大国だ。
その中で、ホルンバッハはドイツホームセンター業界でトップ5に入る有力企業だ。手元のデータが少々古いのだが、グローバル・ホームインプルーブメント・ネットワークによると、2016年のホルンバッハの売上高は約4420億円で、150店舗以上を欧州9カ国で展開する多国籍企業である。
diyinternationalが先日報じたニュースによると、ドイツ国内ホームセンターのトップ10社の売上は3%近く伸びているがなかでも最大の勝ち組はこのホルンバッハで、前年と比べて5.1%伸びたという。
そのホルンバッハの店づくりは、木材や建築資材、部材といったハードラインが充実しているのが特徴。筆者が取材したベルリン市内の「HORNBACH Berlin Marzahn」店の資材売場は広大で、店内を自家用車に乗って、欲しい商品の前で停車し、直接積み込んで、出口で精算する方式だった。
インテリアや住宅設備機器も充実していて、何売場がどこにあるかわかるように、壁面などに商品を貼り付けている。例えばバスタブや洗面器などが目線の高い場所に見えるのだから、圧巻だし、何よりもわかりやすい。さすがはDIY大国を代表するホームセンターなのである。
このホルンバッハ、実はユニークなCMで定評がある。私が当時編集長を勤めていた『ダイヤモンド・ホームセンター誌』2017年1月号で取り上げたことがあるのだが、「土いじりの楽しさを思い出そう」をテーマとする動画を作成。初老の男性が素っ裸で芝生の上をそれはそれは楽しそうに滑るような内容だった。この他にも真っ黒なゴスファッションゆえ新しい街や学校になじめない娘に対する父親の理解の気持ちを、ホームセンターらしく表現した動画は、オンライン上で何百万回も再生されている。いずれも、ホームセンターに落としている点が秀逸であった。
国内の小売業でも動画を活用する企業はどんどん増えてきている。際どい表現で攻めることもCMには重要だが、レピュテーションリスク(評判リスク)をしっかり管理する体制を整えることが先決であろう。