米主要小売の在庫増加が止まらない。米小売企業各社の四半期決算(2022年2~4月)が発表される中、在庫の増加率が前四半期と比べて7~13ポイント上昇している点について、決算説明会ではアナリストからの質問が相次いだ。米小売が在庫を増やす背景は何か。
取材協力=高島勝秀(三井物産戦略研究所)
欠品による機会損失は在庫増加による費用増よりも痛手?
総合業態を展開する小売主要4社の直近四半期決算を見ると、在庫金額は3四半期前と比較して2~7.5倍となった(図表)。一般的に、過剰な在庫は業績に悪影響を及ぼすといわれている。これに対し米ウォルマート(Walmart)は、「(ただし同社に限らず、米小売業の慣例として)秋の新学期や年末商戦に向けた商品在庫の拡充であり、堅調な個人消費を見込んだ上での対応だ」と説明している。
同様に米ターゲット(Target)も、欠品による販売の機会損失は、在庫増加に伴う費用増よりも痛手であることを明かしている。さらには、コロナ禍から継続するサプライチェーンの混乱に加え、昨今のウクライナ情勢や上海ロックダウンの影響で、商品調達がこれまで以上に困難になるという懸念の高まりが、在庫の積み増しというかたちで表れているともいえそうだ。
大手主要小売企業では、より多くの在庫を保管する目的で、港湾に隣接するスペースの追加や、拠点間の輸送距離を短縮させるために物流センターの増設を進めている。
海外流通の動向に詳しい三井物産戦略研究所の高島勝秀氏は「これは、コロナ禍以前の『在庫を必要最小限に留める』施策から、コロナ禍を経て『安定在庫を多めに保持する』という、戦略の転換といえる」と指摘する。
8年ぶりの港湾労使交渉も在庫増に影響か
さらに、米国内で2014年以来となる西海岸の港湾労使交渉が、小売企業の在庫増加に拍車をかけていることに注目したい。
港湾労使交渉は、海運業界の雇用主を代表する太平洋海事協会(PMA)と、米西海岸29港で働く約2万2000人が加入する国際港湾倉庫労働者組合(ILWU)のあいだで、2022年5月から行われている。
今回の労使交渉は賃金改定と施設自動化が主な争点となっており、妥結は容易でないといわれている。前回2014年に行われた交渉は妥結に10カ月を要し、そのあいだに港湾作業の遅延が発生した。
現在起こっている在庫の積み上げは、物流混乱の可能性がある状況下、小売企業側が先取りして商品調達をするなどの安全措置を講じてきたとも捉えられる。事実、今回の労使交渉は、前回締結した労働協約が失効する7月1日までの妥結にはならず、その対応は功を奏したといえる。
昨今の米国の経済状況を踏まえて、米政府、および物流・小売の各業界団体では、ストライキなどの物流遅延を誘発する行為の回避をPMAとILWUの双方に要請している。「先行き不透明な状況下、すでに発生しているサプライチェーンの混乱に拍車がかかることも想定される中、小売企業は倉庫オペレーションや、倉庫と店舗を結ぶミドルマイル配送などの、自社が担う物流の強靭化を続けることが予想される」(高島氏)。