アリババが運営する盒馬鮮生(以下、フーマー)はネットスーパー、スーパー、イートイン、倉庫の機能を持ち、中国におけるニューリテールのビジネスモデルとなった。あらためて、フーマーのニューリテール戦略、さらにフーマー以外の注目企業のニューリテール戦略の取り組み事例を紹介する。
フーマーが実現したニューリテールとは
2016年にアリババグループが「ニューリテール(新小売)」という概念を提唱した。ニューリテールは、オンラインとオフラインを融合させた(OMO:Online Merges with Offline)の概念をベースにして、顧客情報やデータをプラットフォームで統合して、消費者がオンラインとオフラインを問わずシームレスに利用体験できるようにする戦略で、「顧客体験」を重視している。フーマーでは、顧客はオフラインの店舗で購買することはもちろん、そのオフラインの店舗で購入·注文した商品を30分以内に配送してもらうことができる。
また店舗によってはイートインも併設されており、購入したばかりの食材をその場で調理してもらえる。最近では、アリババグループのECモールである天猫(T-mall)の一部の越境商品をフーマー内でも購入できるほか、クリーニングや掃除サービスまで購入し予約できるようになった。もちろん決済は同じアリババ系列のアリペイで行える。オンラインとオフラインの「境」を消費者に意識させることなく、購買体験を提供しているのである。
李寧のリブランディングを支えたDX改革
フーマー以外にニューリテール戦略で躍進した企業として紹介したいのが李寧だ。同社は、1990年に設立された中国におけるスポーツシューズのリーディングカンパニー。昔から中国国民に親しまれており広く認知されているブランドである。近年中国では、モダンさと中国伝統文化の要素を取り入れる「国潮」(国風潮流の略)というトレンドが若者の間で流行しているが、この中に李寧も含まれている。
2008年のオリンピック後、李寧は新規事業や海外市場に進出したが、良い成果は得られなかった。販売店に圧力をかけた結果、販売店の利益率低下を招いた。さらに在庫の滞留により、販売店は李寧から大量の製品を仕入れることができなくなり、李寧の売上は激減した。また在庫の滞留だけでなく、オフラインショップでの画一的な展示方法や入店した顧客全員に同じセールスを行うことによって顧客体験も悪化し、入店率や店頭でのコンバージョン率が低迷していた。
そこで李寧は対策として、在庫回転率の改善から取り組んだ。サプライチェーンのすべてをデジタル化し、リアルタイムで販売状況や在庫のデータを管理。これまで人が行っていた調達などの作業を自動化し、最大100店舗の補充判断を最短2時間で行えるようにした。その結果、2019年上半期には平均在庫回転日数は11日減少して74日となり、在庫構成に占める新製品(販売後6ヶ月以内)の割合が増加した。
また、消費者が購入する商品の共通点を分析することで消費者のニーズをより深く理解し、商品カテゴリーごとの将来的なトレンド予測の精度を高め、商品の競争力を高めることに成功した。
さらにリアル店舗の周辺エリアでは、消費者がシェア充電器や広告、自動販売機などの端末と触れ合うことで、最寄りのお店のクーポンなどのプロモーション情報を受け取ることができるようにし、来店率を改善。商品データベースや顔認証などのテクノロジーを活用して、パーソナライズされた商品の推奨などユーザーの消費行動に対する理解と予測を継続的に向上させ、再購入率をさらに高めることに成功している。
オンラインとオフラインを跨いだ在庫の統一管理や配送体制はもちろん、パーソナライズによる接客や精度を高めた商品レコメンド、決済に至るまで、一気通貫で改革を行うことで、中国のニューリテール戦略はさらに進化していきそうだ。
日系ブランドコンサルとして、上海に拠点を構え、ブランド戦略立案とクリエイティブ制作を提供する。多数のリサーチ案件を通じて消費者、マーケット動向を注意深く観察し、中国市場に合わせたブランドカルチャライズ®を数多く手掛ける。上海、東京、香港に拠点あり。