我が国の食肉の安全と家庭、外食での旺盛な消費者を支えるのが、保管・輸送などを含めた流通システムであり、大手食肉卸各社はその中で重要な役割を担っている。
青果・鮮魚・精肉……生鮮食品の流通経路はどれも似通っていると思われがちだが実際のところどうか。本稿では、食肉における流通構造の特徴や食肉卸が果たす役割、食肉流通が抱える課題について考えてみたい。
市場取引率は1ケタ台…市場外取引が主流の食肉
青果や鮮魚は一般的に、卸売市場を経由しての流通が多いと言われる。最近ではウエートが落ちてきてはいるものの、市場経由の比率は青果で53.6%、水産物で46.5%となっている。一方で、食肉の市場経由率は7.8%にすぎない(データはいずれも農林水産省発行の『卸売市場データ集』により)
市場外取引を含め、食肉の流通・加工や輸入を担うのが食肉卸だ。経済産業省の「経済構造実態調査(2021年)」によると、食肉卸の市場規模は約5兆8000億円で、企業数は約3300社とされる。一口に食肉卸といっても、国内の一貫型流通加工を強みとする卸、海外品の目利きに長けた輸入商社など、得意分野はさまざまだ。
食肉卸の代表的な企業がスターゼン(東京都)である。同社の設立は1948年、全国畜産協同組合を株式会社化したのが始まりだ。単純な卸売としての機能だけではなく、食肉のサプライチェーンを一気通貫でカバーする同社。生産・調達に関しては、生産者とのパートナーシップ契約に基づく連携を強化するとともに、みずから和牛の繁殖・肥育牧場の運営に乗り出している。
食肉処理加工に関しては、国内(北海道・東北・九州地方)で7工場を稼働している。工場はと畜場と加工処理製造場を併設、外気に触れることなく一貫した加工処理を実現し、高い鮮度と衛生管理を実現する。
食肉処理だけでなく、ハム・ソーセージなどの加工品の製造も手がける。自社ブランドとして「ローマイヤ」を展開するほか、日本マクドナルドにハンバーガーのパティを供給していることでも有名だ。
伸び続ける食肉需要…将来的には減退が懸念?
牛・豚・鶏ともに、BSE問題による牛肉の一時的な需要減少などを除けば、消費量は一貫して増加している。重量ベースの自給率は牛肉が3分の1、豚肉が2分の1、鶏肉で3分の2となっており、国内産業の低迷(養鶏以外)と消費量の増加から輸入に頼る割合が増えている。
ただ、現在まで伸び続けてきた国内流通量も今後は少子高齢化でゆるやかに減少していくと見込まれる。一方で供給源である畜産業は、もともと基盤が弱いうえに飼料・燃料の高騰に悩まされ、従事者も減少傾向にある。
一方、海外に目を向けてみると、米国ではJBS USA、タイソン・フーズ(Tyson Foods)といった「パッカー」と呼ばれる食肉流通業が規模拡大を続けている。最大手のJBS USAの売上高は275億ドル(3.7兆円)に達しており、もはや日本企業には彼らの背中は見えない。
もちろん、規模拡大だけが選択肢ではない。「WAGYU」をはじめ、日本の食肉は味や品質のほか、安全性での高さで世界的に評価されている。強みを生かしてブランド化を進めれば、インバウンド需要や輸出拡大も期待できる。海外販売強化にむけては、加工工場の輸出認定や総合商社との連携など地道な努力も欠かせない。
とはいえ、足元である調達・生産基盤の強化も喫緊の課題だ。トピックスとしては和牛における受精卵事業に着目したい。軌道に乗れば、和牛農家の負担軽減・牛肉の安定供給につながることだろう。さまざまな課題を解決しサプライチェーンを支え続ける、食肉卸に与えられた使命は大きい。