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コロナが明けても安心できない外食大手の経営環境と深刻な課題

アフターコロナの外食大手の業績が順調な回復を見せている。しかしその一方で、業界は新たな課題に直面している。2023年度の外食大手の決算を振り返りながら、現在、外食産業が直面している経営環境の変化や今後の成長に向けて求められる施策について考えてみよう。

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順調に回復する大手外食チェーン

 図表①は2023年12月~2024年3月に決算期末を迎えた、売上高500億円以上の主要上場企業の決算を抽出したものだ。2023年度決算は全社増収増益となっており、前期赤字であった企業も含めて全社が営業黒字となっている。消費環境としては、2024年3月で24カ月連続実質賃金がマイナスという状況にあり、消費者の懐具合は厳しくなることが懸念されていたが、売上はおおむね前年度比1割以上増収を確保しており、まずはひと安心といったところであろう。

 日本フードサービス協会の外食産業市場動向調査を見ても、市場全体として回復基調にある様子がうかがえる。図表②は業態別の売上がコロナ前の2019年度の同月と比較して、どのくらい回復しているかを示したものだ。これによれば、ファストフード、ファミリーレストラン、喫茶はコロナ前を上回る水準まで回復しており、ディナーレストランについてもほぼ近い水準に回復している。

 コロナ前からの落ち込みが激しいのは、居酒屋、パブといった飲み屋業態であり、この需要はどうも元通りにはなりそうもない。コロナ期を経て、大きく夜の外食の動向は変わってしまったようで、特に2次会以降といった遅い時間帯の需要がかなり小さくなっているということらしい。この数字だけを見ると、飲み屋業態は存亡の危機か?というようにも見えるのだが、実際にはそこまでの状態ではないようだ。

 図表③は業態別の2024年3月時点の売上高と店舗数を2019年の同期と比較したデータで、コロナ期を経て各業態ともに売上高の増減率が、ほぼ店舗数の増減率を上回る水準にあることが示されている。売上がコロナ前までに回復していない居酒屋、パブ、ディナーレストランにしても、コロナ禍を経てすでに店舗数が減っているため、競争環境としては何とかコロナ前とほぼ同水準にあるという見方もできる。今後、需要環境が急速に悪化しなければ、激しい淘汰が起きるといった環境ではないとみていいだろう。

原材料高と運営費の高騰が収益を圧迫

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 コロナ禍による災害的な需要減からは解放された業界ではあるが、一難去ってまた一難、新たな課題に見舞われている。①原材料、光熱費、物流費など運営コストの高騰、②人手不足と人件費の高騰、③実質賃金マイナスの継続による消費マインドの低下懸念、そして中長期的課題ではあるが、④人口減少高齢化による国内市場の縮小、といった課題に同時並行的に対応していくことが求められており、これまでにも増して経営のかじ取りは難しくなっている。

 外食大手の今期計画における取り組みを見ても、そうした状況に対する問題意識がうかがえる。外食大手の決算説明における今期取り組み事項として、共通して登場するキーワードをいくつかピックアップしてみた。「デジタル化」「自動化」「省人化」「海外進出」「M&A(買収・合併)」「人材投資」などといったといった項目が並ぶのであるが、まさに今直面する環境変化への対応ということになっている。

 コロナ後に急速に上昇した原材料、運営コストの高騰に対して、多くの企業では価格転嫁により収益の確保を試みてはいるのだが、値上げが客足に影響することを恐れ、様子見しながらの対応とならざるを得ず、結果的には収益減少要因となっている。

 決算説明においてコスト増の影響を数字で明らかにしている企業もあり、たとえば大手では、すかいらーく▲92億円、日本マクドナルド▲38億円、ロイヤルホールディングス(以下、ホールディングス=HD)▲24億円、壱番屋▲17億円の原価上昇による減益要因となったと開示している。こうした影響は業界全体として収益に大きなマイナス影響を与えており、この点では各社共に今後の価格転嫁の巧拙が、業績にかなり影響を与えることが考えられる。

深刻な人手不足が促す技術革新

 原材料、運営コストの高騰以上に深刻な状況にあるのが、人手不足と人件費の高騰という問題であろう。全産業に共通の話なのではあるが、労働集約的産業であり、これまでは非正規雇用の労働力を安価で調達することに依存してきた外食業界にとっては、極めて頭の痛い問題ということになる。

 単なるコストの問題ではなく、店舗オペレーションが人手の確保を前提に構築されているため、費用の問題以前に、人がいなければ店を開けることすらできないという根源的な話である。人口が減少しているのだから、従業員の定着率を上げていくこと、最終的にはDX(デジタル・トランスフォーメーション)化、ロボティクスの導入などによって、省人化、無人化によって対処するほかはなく、ここに関しては外食企業の大半が何らかの取り組みを行っている。

 最近、チェーン外食に行くと、注文はタブレット、もしくは自分のスマートフォンから、配膳はロボットで、会計はセルフレジでというのも違和感がなくなってきた。大手でなくても、ほとんどのチェーン店で何らかの省人化システムが導入されており、今後さらに多くの企業が多様な仕組みを導入していくことになる。

 こうした仕組みの開発においては、IT系ベンチャー企業による技術革新の活躍が大いに期待される。外食業界はこれまで「安い人力」に依存したビジネスモデルが基本であったが、従業員を大事にしつつも、DX、ロボティクスに頼るしかない。ただ、こうした切羽詰まった状況が、技術革新への投資を後押しとなることが期待できる、という見方もあるだろう。

円安が海外事業の強化を加速

 原材料やエネルギーの高騰に関しては、円安が価格上昇の主要因ともなっており、為替リスク分散という意味でも、海外進出を強化する企業は増えている。

 決算期が8月のため半期決算ベースだが、サイゼリヤ(埼玉県/松谷秀治社長)は売上高の1/3が海外となっている。2024年8月期第2四半期の営業利益はそのほとんどがアジアで稼いだものであり、原価高騰に苦しみながらも価格据え置きで頑張っている国内の営業利益はやっと収支がトントンになったばかりである。同じく9月期決算のFOOD&LIFE COMPANIES(大阪府/水留浩一社長)も海外部門が売上高、利益共に国内スシローの半分に迫るほど貢献している。

 価格転嫁の悩みもあまりなく、円安による為替メリットも享受可能な海外事業は、課題の多い国内で苦しむ外食大手の大きな支えになっている。今回、決算期の外食企業においても、海外進出強化への取り組みを計画する企業は多い。すかいらーくHD、ロイヤルHD、吉野家HD、壱番屋、トリドールHD、王将フードサービス、モスフードサービス、ゼンショーHD、コロワイドなど、名だたる外食チェーンが海外強化への意欲を明らかにしている。

 そもそも国内で一定のシェアを確立しているチェーンにおいては、国内での飽和に備え、海外市場開拓は成長戦略を描くうえで必要なストーリーであり、外食を取り巻く環境の変化が、否応なしにその背中を押すことになりそうだ。

独立開業を支援する新たな動き

 外食チェーンの環境変化を踏まえた方向性を見てきたが、最後に、ちょっと毛色の変わった戦略だが、個人的に関心を持っている施策を、2つ紹介しておきたい。

 1つ目はロイヤルHD(福岡県/阿部正孝社長)が双日(東京都/藤本昌義社長)とSRE HD(東京都/西山和良社長)と3社でスタートした飲食店開業支援プラットフォームである。ロイヤルHDは自らのノウハウを提供して、開業、もしくは開業間もない中小飲食店を支援する。業界の活性化を支援し、新しい外食ニーズを把握するということなのだが、最終的にはアライアンス(連携)によって、グループの新たな業態開発につなげていこうというオープンイノベーション的な方向性だと解釈する。

 ある程度完成した業態のM&Aというのが、業界一般的な行動パターンであったが、加えてベンチャースピリットにあふれる新規参入者集団のチャレンジ精神を取り込みつつ、先物買いで自社の多様性を補完していくという方向性は、これからのトレンドになると期待する。

 そしてもう一つはファミレス大手の一角、ジョイフル(大分県/穴見くるみ社長)による既存店舗の社員独立型フランチャイズ(FC)店への移行という取り組みである。既存店を経験豊かな社員が、FC加盟店となって独立して運営するという仕組みであり、複数店経営も想定している。経営者として独立し、さらに事業拡大も追求できるというものだ。希望するベテラン社員に新たな目標を持ってもらうことで、モチベーションにもつながり、本部と共に共存共栄しようという発想であろう。

 現在の人手不足、人件費高騰の中、意欲と実力ある社員をパートナーとして遇するという方向性を示すことは、優秀な人材をグループ内に確保する効果があるはずだ。これまでも壱番屋(店名:COCO壱番屋)、王将フードサービス(餃子の王将)、鳥貴族など、こうした社員独立型FCを活用する企業は存在していたが、今後はFCを現場のモチベーション向上のためのキャリア形成のツールとする企業が増えていくだろう。

 ただ、注意すべきは、この手法を単なるチェーン本部の労務リスクの分散として実施すれば、必ずやFC加盟店との利害対立を引き起こす、ということである。本部と加盟店が共存共栄していくという基本精神を逸脱すれば、後に大きな禍根を残すことになる。過去のFC本部と加盟店の争議事例で学んでおく必要がある。

人の意欲を高める施策が必要に

 今後の外食業界は、飽和から縮小に向かう市場環境の下で、従業員を大事にしつつ、新たな市場開拓を続けていかなければ、成長することは難しい。そこで必要になるのは人の集団としてのモチベーションをいかに保てるかということになるのだろう。

 本来、外食産業は参入障壁も低いため、多数のチャレンジャーが参入しながら、激しい競争と淘汰を経て成長していく、というアニマルスピリットが求められる業界である。外食創業者のベンチャー精神、独立して自分の店を持ちたいというスタッフの意欲が企業の競争力につながってきた。

 かつてはスタッフを物理的な労働力としてみるチェーンストア理論が、大手チェーンの成長の基盤となってきたことは事実だが、この理論は完成形ではない。実際に組織を構成するのは独立した個人であって、個々の自己実現を描けない企業に持続性はないのである。開業しようとする人材、独立の夢を持った人材とのパートナーシップを構築できるかが、これからの外食企業の成長の鍵となる。