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コロナが小売業の上位寡占化を加速 これからも大型再編不可避の理由とは?

市場占有率大

長期化するコロナ禍業績は業態で明暗くっきり

 新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大から1年以上が経過した。2020年初めから始まった感染拡大はいまだ収束する気配すらなく、すべての小売業が現在進行形で対応に迫られている。

 業績への影響も甚大だ。本稿執筆中の21年4月中旬現在、コロナの影響がフルで加味された小売企業の21年2月期通期決算が発表され始めている。

 主要企業を見ていくと、イオン(千葉県)の21年2月期通期業績(以下、すべて連結)は、営業収益は前期並みだったものの、本業の儲ける力を示す営業利益は対前期比30.1%減と大幅減益となり、最終損益は710億円と過去最大の赤字となった。中核とする総合スーパー(GMS)事業、ショッピングモール事業を、コロナの影響が直撃した格好だ。

 セブン&アイ・ホールディングス(東京都:以下、セブン&アイ)も大打撃を受け、通期業績では営業収益が同13.2%減、営業利益が同13.7%減。中核のセブン-イレブン・ジャパン(東京都)が減収・営業減益と振るわなかったのが業績悪化の主因だ。

 GMSやショッピングモール、百貨店などの大型業態、そしてこれまで成長を続けてきたコンビニエンスストア(CVS)などが不振にあえぐ一方、巣ごもり需要をとらえた食品スーパー(SM)の業績は好調に推移している。21年4月に発表されたライフコーポレーション(大阪府:以下、ライフ)の通期決算は、営業収益が同6.2%増、営業利益は同97.3%増と記録的な好業績となった。本稿執筆時点では未発表の大手SM企業も多いが、各社とも好決算となることはほぼ間違いない。

 近年急速に存在感を増しているドラッグストア(DgS)企業の業績も好調に推移している。4月に発表されたウエルシアホールディングス(東京都)の21年2月期決算では、売上高が同9.4%増、営業利益が同13.7%増と増収・営業増益を果たした。感染予防関連商品や日用品、そして食品の販売好調により、SMと同様にDgS各社の業績は軒並み好調と観測されており、快進撃をさらに勢いづけることになりそうだ。本特集のインタビューに応じたマツモトキヨシホールディングス(千葉県)の松本清雄社長も「DgS市場はまだまだ拡大する」との見解を示している。

 このように、流通業界はコロナ禍によって業態ごとに業績の明暗がくっきりと分かれているのが現状だ。

M&A相次いだ2020年 さらなる再編はあるか

 コロナ禍は長期化の様相を呈しており、足元では感染拡大の第4波といっていい状況となっている。GMSやCVSなど低迷中の業態は、いまだ抜本的な業績改善策を示せずにおり、特需に沸いたS MやDgS、ホームセンター(HC)も次年度からは反動減が懸念される。そうしたなかで浮上してくるのが、さらなる再編の可能性だ。

 実際に、コロナ禍に見舞われた20年から21年にかけて、流通業界では数々のM&A(合併・買収)、事業再編が見られた。

 国内CVS事業が苦戦したセブン&アイは、20年8月に米子会社を通じて、石油精製会社マラソン・ペトロリアム(MarathonPetroleum)が運営するガソリンスタンド併設型CVS「スピードウェイ(Speedway)」を買収することを発表した。買収額は2兆円にもおよび、多くの業界関係者の注目を集めた。一方ローソンは、現在約3300店舗を展開する中国事業をさらに拡大すべく、21年度以降、出店を加速させる計画を発表している。

 国内CVS市場は3チェーンでシェアの9割超を占める“超”寡占化市場。国内マーケットが飽和に向かうなかで、海外に成長の場を求めたとみられる。

 SMでは、イオンとセブン&アイがSM事業の再編を完了させた。マーケットシェアの数値に表れるのは次年度となる見通しだが、この再編により上位集中が進むのは間違いなさそうだ。また、北海道および北東北で店舗展開するアークス(北海道)もローカルチェーンの買収に動いており、19年9月の伊藤チェーン(宮城県)買収に続いて、21年4月に栃木地盤のローカルSMであるオータニを完全子会社化。着実にシェアを高めている。

 HC業界でも大型M&Aが見られ、ニトリホールディングス(東京都:以下、ニトリHD)がDCMホールディングス(東京都)との争奪戦を制するかたちで、21年1月に島忠(埼玉県)を子会社化。20年11月にはアークランドサカモト(新潟県)はLIXILビバ(埼玉県:現社名ビバホーム)を完全子会社化している。

 DgSでは、かねて協議されてきたマツモトキヨシホールディングス(千葉県)とココカラファイン(神奈川県)の経営統合がついに成就し、21年10月に新会社マツキヨココカラ&カンパニーが誕生する。これによりDgS業界では1兆円規模の企業が3社並び立つことになる。熾烈なシェア争いの中ではさらなるM&Aという選択肢も十分にありえる。

マツモトキヨシホールディングスとココカラファインの経営統合がついに成就し、21年10月に新会社マツキヨココカラ&カンパニーが誕生する

異業種M&Aが活発化!ボーダーレス競争が加速?

 これらコロナ下で行われた再編で特筆したいのは、異業態によるM&Aが多かったという点だ。

 前出のニトリHDによる島忠買収はまさに代表例で、これによりニトリHDはHC初参入となる。ニトリHDといえば、21年2月期決算で34期連続の増収増益を達成するなど、小売業全体で見ても屈指の収益性を誇る。有力異業種プレーヤーの参戦が、HCの寡占化を加速させるきっかけとなる可能性はゼロではない。

 一方、中堅DgSチェーンであるクスリのアオキホールディングス(石川県)は地場SMを次々と買収しており、20年6月にはナルックス(石川県)、同10月にはフクヤ(京都府)、今年5月にはサン・フラワー・マリヤマ(石川県)を傘下に収め、さらに6月にはスーパーまるも(茨城県)のSM事業も承継する予定だ。

 これまでのローカルSMのM&Aは、アークスをはじめリージョナルチェーンが受け皿になることが多かったが、今後はDgS企業もその役割を果たしていくことになるのか。生鮮強化型DgSはもはや珍しい存在ではなくなりつつある。「フード&ドラッグ」によるSM買収の動向が注視される。

 そのほかでは、EC勢によるSM企業への資本参加も見られた。楽天グループ(東京都)は21年3月、子会社を通じて、以前からネットスーパーなどで協業関係にあった西友(東京都)の株式20%をウォルマート(Walmart)から取得した。西友株の過半数(65%)は米投資会社のKKRが握るものの、EC企業のリアル参戦は業界の注目を集め、今後のシナジー創出が期待される。

 このように、20年から21年にかけては異業種を対象としたM&Aが多くみられた。こうしたM&Aが増えていくとなると、業態別のマーケットシェアという枠組みだけではいま起きている競争の全体像をとらえられなくなるかもしれない。そのためにも今後は異業種の寡占化動向もチェックする必要が出てきそうだ。

東証区分変更は再編の引き金となるか

 この先にも再編トリガーになるかもしれないトピックスがある。それが、東京証券取引所(東証)による「市場区分変更」問題である。

 東証は22年4月に市場区分を変更する。これにより、市場第一部を筆頭とする現行5市場は、「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の3つに再編される。再編後、現行の東証一部に代わる位置づけとなるプライム市場に残留するためには、時価総額1000億円以上かつ売上高100億円以上、もしくは直近2期の利益合計が25億円以上、流通株式比率35%以上など、一部の企業にとっては高いハードルともなりうる、数々の要件が設定されている。

 流通に詳しいあるアナリストは、「現状、東証一部には約2000社が上場しているが、これらをクリアしているのは半分にも満たない。プライム市場から“降格”となれば、地元でのブランド力や融資の受けやすさに加え、採用活動にも影響しかねない」と指摘する。

 21年4月にライフが流通株式比率上昇を目的に、自己株式400万株を消却することを発表するなど、大手はすでにプライム市場移行を念頭に置いた策を打ち始めている。とくに中堅以下のチェーンは、自力での“プライム残留”が難しいとなれば合従連衡も視野に入ってくるかもしれない。

 そのほかにも、SDGs(持続的な開発目標)推進、デジタル・トランスフォーメーション(DX)、EC対応など、中長期で成長をめざしていくうえでは投資は避けられない。そうした投資を行っていくためには、ある程度の企業規模が必要であり、M&Aという選択肢は常について回るはずだ。

 先行き不透明ななか、あちこちに再編の火種が燻る流通業界。21年も大型M&Aが見られるか──。大再編に備え、各業態の寡占化動向を確認しておこう。

 

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