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ライフ1カ月で株価44%高騰……「食品スーパー復権」で浮かび上がるこれからの課題

ライフコーポレーション、リテールパートナーズ、大黒天物産、JMホールディングス、イズミ。時価総額上位の小売企業のうち、6月末から7月30日までの株価上昇率上位10社のうち5社を食品関連のスーパー等が並んだ(イズミは総合スーパー、食品スーパーに加えショッピングセンターの開発・運営も行うが)。新型コロナウイルス感染拡大で「ステイホーム」が常態化するなか、小売企業のなかで当初注目を集めたのはドラッグストア、ついでホームセンターだったと思う。実は食品スーパー関連の株価もしっかりしていたが、大きく見直しが進んだのはこの7月だった。その要因とこれからの食品スーパーについて考察してみたい。

ライフ株価高騰の理由は?

 国内食品スーパー最大手であるライフコーポレーション。同社の株価は、6月末から7月30日までの間、実に+44%上昇し、主要小売企業ではトップの上昇率だった。

 ライフコーポレーションといえば、アマゾンとの提携によりプライムナウを通じた食品宅配でも注目されており、その配送エリアは5月、6月に段階的に東京23区全域まで拡大された。こうしたアマゾンとの連携進展に、アマゾンと同社が買収したホールフーズ・マーケットの姿を重ねる投資家も少なくないだろう。ただし、本稿冒頭で述べたとおり、食品スーパー等の株価上昇はライフコーポレーションに限られたわけではない。株価見直しのきっかけは業績にある。

  7月10日に発表された21年3-5月期決算では、営業収益が前年同期比+11%増、経常利益が同+154%増と急伸した。株価も、この発表を手掛かりに上昇に弾みがついた。業績の牽引役は既存店売上高だ。20年2月以降6月まで連続して前年同月比プラスで推移した。

2020年1月 -1.7%
2020年2月 +8.6%
2020年3月 +6.9%
2020年4月 +15.0%
2020年5月 +8.9%
2020年6月 +2.5% 

 「ステイホーム」「リモートワーク」の定着で家事の時間ができたこと、食材選びをリーズナブルな価格で店舗で楽しみたいというニーズが強まったことが背景にあるのだろう。同社は「不要不急の外出自粛、テレワーク推進、在宅学習等の新しい生活スタイルにより、急激な巣ごもり・内食需要を喚起し、足もとの売上規模は大きく拡大する状況」(決算短信)と分析している。そして売上の増加がしっかり利益に結びついたことを決算で確認できたことが、株式市場に強いシグナルになったと考えられる。

業績見通しはまだ低い?

 株式市場が現在のライフコーポレーションを評価する理由をもう少し見ておこう。実は、今回同社は業績見通しを上方修正しているが、それが依然慎重に映るのだ。

  3-5月期の経常利益は前年同期比で+53億円の増益だった。しかし修正後の通期経常利益予想は前年同期比+24億円の増益にとどまる。つまり残りの9ヶ月を取り出すと(微増収)減益になるという見立てである。コロナウイルスの終息が不確実であること、物流費・人件費、あるいは減価償却費の増加を想定して保守的とも言える利益見通しを出したと考えられるが、19年2月期の既存店売上高は軟調に推移したことから、むしろ20年2月1期は巣ごもり・内食需要の恩恵が継続し、売上面で上乗せ余地があると考える投資家が多いと推測される。

ライフ以外の食品スーパーも軒並み好調、恩恵いつまで?

 冒頭に挙げた他社の業績もライフコーポレーションに準ずるトレンドだ。
- リテールパートナーズの3-5月期は営業収益が前年同期比+10%増、経常利益は同+170%増。
- 大黒天物産の3-5月期は売上高が前年同期比+22%増、経常利益は同+298%増。
- JMホールディングスの2-4月期は売上高が前年同期比+20%増、経常利益は同+99%増。

  なお、イズミは3-5月期減収減益になったが、通期見通しを開示し減収ながら増益になるとされている。

  ではライフコーポレーションなどの食品スーパーの好調はいつまで続くのか。追い風はいつまでか。

  新型コロナウイルスのワクチンおよび治療薬が確立され十分な量がゆきわたるにはまだ相当の時間がかかるため、来春あたりまでは現在同様ステイホーム、リモートワークが継続すると思われる。雇用・所得不安も醸成されそうで、生活防衛の点で自炊がさらに広がるのではないだろうか。当面は食品スーパーにとって総じて悪くない環境が続くと考えたい。

 問題はその後だ。

  リモートワークは不可逆的に定着すると私は考えるが、今のような完全な巣篭もりはどこかで終止符を打つだろう。来年の春先になると、今年の売上が高いハードルに変わる。この時に、既存店の売上高を底上げする戦略を出せる企業が勝ち残ることになる。

  医薬品・化粧品から食品まで扱うドラッグストアに比べて、食品スーパーは商材の範囲が広くない。総菜、インストアベーカリーなどを含め、売場鮮度を維持することができるかが決め手になるのではないか。通期業績予想の上方修正に合わせて、来期の布石が示される展開になることを食品スーパー各社に期待したい。

 

プロフィール

椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師