新型コロナウイルスにより小売業界内で業態格差が大きくなった。株価を上げた企業にはコーナン商事、コメリ、DCMホールディングスなど大手ホームセンターが名を連ねる。そこで今回はホームセンター企業が株価を上げた背景と、アフターコロナ、ウィズコロナでの展望を考えてみたい。
株価が堅調なコーナン商事、コメリ、DCMホールディングス
百貨店の不振、老舗アパレル企業の倒産…… コロナショックに襲われた企業の話題が続いているが、スーパーマーケットやドラッグストアと同様に株価が上昇している業態がホームセンターだ。
主要なホームセンター企業の2月21日から5月22日までの3ヶ月間の株価騰落率を、5月22日の株式時価総額順に並べると次の通りとなる。
時価総額(億円) | 3ヶ月株価騰落率(%) | |
---|---|---|
DCMホールディングス | 1161 | 6 |
コメリ | 1371 | 15 |
ジョイフル本田 | 1310 | 2 |
島忠 | 1163 | -9 |
LIXILビバ | 1010 | -3 |
コーナン商事 | 982 | 17 |
アークランドサカモト | 455 | -8 |
ナフコ | 369 | -11 |
東証株価指数 | -12 |
このようにホームセンター株は総じて堅調と言える。特にコーナン商事、コメリの株価上昇の大きさは注目される。
株価の原動力は既存店売上高の増加
このパフォーマンスの原動力は既存店売上高の増加だ。先ほどのリストを過去3ヶ月の株価パフォーマンスの順に並び替え、直近の既存店売上高の増減率を比較してみたい。なお、各社の速報データをそのまま転用しており、締日の違いや、事業再編などの影響は開示そのままに転記していることを一応留意願いたい。また、2020年5月までの12ヶ月で既存店売上高がプラスだった月数を合わせて表記してみた。
3ヶ月株価騰落率(%) | 既存店売上高 対前年同月比(%) | 過去12ヶ月のうち既存店売上高が増加した月数 | |||
---|---|---|---|---|---|
2月 | 3月 | 4月 | |||
コーナン商事 | 17 | 12.4 | 9 | 12.6 | 9 |
コメリ | 15 | 6.9 | 4 | 8.4 | 6 |
DCMホールディングス | 6 | 6.5 | 4.2 | 5.9 | 6 |
ジョイフル本田 | 2 | 2.2 | 8.8 | -10.5 | 5 |
LIXILビバ | -3 | 8.3 | -9.2 | 9.1 | 5 |
アークランドサカモト | -8 | 1.9 | 10.5 | 13.6 | 6 |
島忠 | -9 | 11.4 | 2.6 | -4.6 | 6 |
ナフコ | -11 | 2.4 | -2.7 | 8.9 | 4 |
ご覧の通り、株価騰落率と直近3ヶ月の既存店売上高の動向が関連している。騰落上位の3社はいずれも毎月既存店売上高がプラスで推移している上、過去12ヶ月の既存店売上高も他の企業に比べて良好だ(なお、アークランドサカモトは、アークランドサービスのかつやの既存店が減少したことがホームセンターの既存店売上高増を相殺したのであろう)。
既存店売上高の増加は言うまでもなく業績にプラスだ。ホームセンター業界では出店による事業拡大よりも商圏維持に力を入れているように見える企業が多いだけに、既存店の売上増は純利益や純現金収支に直結する。したがって株高にストレートにつながるのである。
コロナショックはなぜホームセンターに追い風なのか?
ちなみに消費税増税後1月までの既存店売上高は総じてマイナスで推移してきた。風向きが変わったのは2月以降であり、新型コロナウイルスの影響が既存店売上高を押し上げたと見て間違いないだろう。
ではなぜコロナショックがホームセンターの既存店の売上を引き上げたのか。3つの仮説を挙げてみたい。
1. 生活必需品(マスク、消毒液、トイレットペーパー等)をリーズナブルな価格で入手する場
2. ステイホームで高まったDIY用品などを入手する場
3. 比較的混雑を避けて買い物ができる場
今後の課題は既存店売上高の中身
風向きが追い風に変わったホームセンターの事業環境であるが、
つまり、問題は今後客数が伸び悩み始めた時、客単価アップでこれを補えるのかである。
もし消費者がホームセンターをディスカウンターとしての機能とステイホームに彩りを添える機能を兼ね備える場所だと再定義するようになれば、アフターコロナにおいても一定の集客と底堅い客単価によって既存店売上高をプラス維持する可能性は大いにあるのではないだろうか。
ベランダーのプランターと土をそろそろ新調しようかと考えながら、今月の原稿を終えることにしたい。
プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、