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独自決済を導入する前に、「nanaco」と「ワオン」の相互乗り入れをすべき、必然の理由

12月頭となり、東京も冷え込んできた。ほんの少し前に、金木犀の香りが夏の終わりと秋の到来を告げていると感じていたのだが、小売企業の中間決算発表シーズンと決算説明会でバタバタしているうちに、気が付くと、すでにイチョウ並木が色づいている。じきに黄金色のじゅうたんが敷き詰められるのだろうと想像しつつ、今日も小売業界に少々思いを馳せるのであった。

決済手段に求められる大原則は「汎用性」である。利用できる範囲が極めて狭い決済手段を消費者に強いることは顧客満足にはつながらない(Photo: Yagi-Studio)

セブンペイ騒動は、対岸の火事ではない

 前回の投稿から少々間が空いてしまった。前回はコンビニの売上動向(客数の増減)と気温の前年差がテーマであったが、セブンイレブン・ジャパンと「セブンペイ(7pay)」騒動についても述べた。今となっては旧聞に属する話となってしまい、“7pay”には懐かしい響きすらあるが、若干の補足をしておきたい。すなわち、7pay騒動がセブンイレブン・ジャパンの7月の売上に与えた影響である。

 7payの登録数は73日までに約150万件と公表されている。一見、ロケットスタートのように見えるが、そもそもセブンイレブンの国内店舗数は2965店舗(6月末)あり、1店舗当りで見ると平均72(150万件÷20,965)に過ぎず、かつ、実質3日間で募集停止になっている。セブンイレブンの1日当りの平均来店客数は約1,000人前後であることを踏まえると、7月全体(31日間合計)1店当り平均購買客数に対する7pay客数は1%に満たない(最大でも約0.7%程度)と推計される。こうした簡単な試算を踏まえると、セブンイレブンの売上苦戦(7月の既存店:前年同月比3.4%減、全店:同1.2%減)の要因として、7pay問題は(影響ゼロとは言えないものの)主要因ではないと言える。そして、コンビニ業界全体も含めて、売上苦戦は記録的な冷夏の影響が大きかったであろうことはグラフとともに示した。

 しかしながら、「セブンペイ騒動」の事例が『世間知らずの素人さんが、慣れないことに見よう見まねで手を出して、大失態をやらかした』歴史に残る見本であることに変わりはない。その根本原因は、騒動の原因となったセキュリティや技術的な理解不足とは別なところにある。小売企業の方々には“良い子の皆さんはマネしないようにね”と声を大にして伝えたいが、決してセブン&アイ・ホールディングス(以下7&I)だけの失態ではない。以下、日本を代表する流通グループである7&Iの事例を(批判的に)振り返り、他山の石として共有していきたいと思う。

マーケティングのパラダイムシフトを
小売経営者は理解していない

 結論から言えば、根底にあるのは「ID-POSの普及を背景としたマーケティングのパラダイムシフト」と、それに対する多くの小売企業経営者の理解不足である、と筆者は考えている。具体的には、「POSによる単品管理」⇒「ID-POSによる単品”単人”管理」である。「単品”単人”管理」を横文字で表現すれば、「CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)となろう。

 そして、顧客データ(購買履歴)の蓄積と固定客化に際しては「オープンに集客、クローズドにおもてなし」が鉄則となる。すなわち、集客の間口は広く(=普及度が高く、アクセスが容易で利用しやすいメディアの活用)、顧客の囲い込み策では、上位顧客に限定して集中的に費用投下するということである。それらは具体的には、割引クーポン配布やポイントカードのポイント政策として実行される。

 その際、起点となるのは、ポイントカード(スマホアプリ含む)となる。理由は「ポイントは購買データを取得するための“エサ”」であるためだ(令和の時代において、ポイントを単なる販促手段と勘違いしている小売関係者は少ないと信じたいが、どうだろう)。そして、来店するお客さんに幅広く網掛けする(幅広くデータを取得)ためには、間口の広さが必須である。お店で買い物するお客さんの数は多い順に「現金払い→ポイントカード保有客→電子マネー払い→その他クレジット」となることが一般的であると見られることから、まず、現金払いのお客さんをポイント会員にとりこんで、データ取得の間口を広げるのが鉄則となる。プリペイド型電子マネーやクレジットカード機能は、あくまで現金ポイントカードの付加機能と位置づけられるべきである。

7&iは当初から優先課題を誤っていた

短期間で姿を消したしまったセブンペイ。その失敗の本質は、実は、セキュリティなどの問題よりも一歩手前の段階にあったと筆者は考える

 ここで、7&Iの井阪隆一社長の過去の発言を振り返ると「決済を中核にすえたCRM」旨の内容を述べている(2019.2期中間決算説明会)。これは、上記で述べた通り、後ろ(=客数の少ない分類)から入ろうとしていることになり、(始める前から)困難が予想できたと言えよう。同社が最優先で取り組むべきだったのは、「nanaco(ナナコ)」と「セブンアプリ」を含めたポイントカード(購買履歴データの取得手段)の整理・再構築であり、決済手段の追加ではなかったはずである。

 ちなみに、ポイントカードのポイントの機能(利用方法)の1つは、1点=1円として、端数処理できることだ。現金払いの際、1円単位をポイント処理する(支払う)ことで、財布の中で1円玉がじゃらじゃらするのを避けることができる。大手コンビニ3社の中で、唯一、セブンイレブンだけが当該処理ができない(ファミリーマートとローソンでは各種ポイントカードで端数処理ができる)。セブンイレブンで現金で買い物をすると、財布の中に1円玉がそれなりに混じるのだが、まずは、こうした最低限の不便解消を優先してはいかがだろうか。

 そして、もう1点、重要なことは、決済手段に求められる大原則が「汎用性」であることだ。現在の日本において、現金の最大の利点は(まず100%受け入れられる)汎用性であろう。逆に言えば、利用できる範囲が極めて狭い決済手段を消費者に強いることが、果たして顧客満足につながるのであろうか。

 セブンイレブンとマックスバリュで買い物しようとした場合、乱暴に言えば、現金か交通系電子マネー(例:SuicaPASMO)となる。なぜならば、「nanaco」と「WAON(ワオン)」は互換性がないためだ。

「ワオン」と「nanaco」を相互開放することにより得られること

 実は、昨今の大手流通グループにおけるデジタル化・キャシュレス対応をめぐる問題点の本質は『顧客囲い込み手段のポイントカードと、汎用性が求められる決済手段とをごちゃごちゃに考えていて、整理できてない』ことだと筆者は考えている。7&Iだけでなく、イオンにおいても、ポイントカードの「ワオンポイント」、電子マネーの「ワオン」、そしてクレジットカードの「イオンクレジット」があるものの、相互の連動性に乏しく、現実問題として支離滅裂な状況と言っても過言ではないと思われる。

 言い換えれば、流通大手の経営陣は、キャッシュレスをはじめとした表面的な事象に目が囚われていて、コトの本質=「マーケティングのパラダイムシフト」と「汎用性を担保した決済手段の提供」を理解・整理できてないことが最大の問題だということであろう。

 とりあえず、日本を代表する大手流通グループ2社の取り組むべきことは「nanaco」と「ワオン」の相互開放ではなかろうか。当該電子マネー保有者にとって、大幅に汎用性が広がる(=利便性が高まる)はずである。また、両社にとっても、他のグループ店舗で自社カードが利用された場合、相手陣営から利用手数料が入ってくることにもなる。「nanaco」と「ワオン」は、ともに他の交通系電子マネーと同じ非接触ICカード技術方式「FeliCa(フェリカ)をベースにしており、いつでも相互開放可能のはずである。経営トップの理解と経営判断次第ではなかろうか。

 イチョウ並木を散策しながら、そんなことを思う今日この頃である。