ヤフーによるZOZO買収、さらにはLINEとの経営統合、そして楽天の通信参入というように、Eコマース(EC)事業者による大型M&A(合併買収)や事業再構築が矢継ぎ早に行われている。リアル小売事業者への影響は果たしていかなるものか、そしてこの動きに対して、どう対応すべきなのだろうか?
EC事業で急速に進む事業再構築
国内EC事業者による事業再構築が進んでいる。
「楽天経済圏」を構築し、強い顧客基盤を持つ楽天においては、目下モバイル事業だ。同社は通信ネットワークを他社に依存するのではなく、自前で運営する移動体通信事業者への脱皮を試みている。残念ながら世間で注目を集めているのは通信ネットワークの構築ペースが後ろ倒しになっていることであるが、筆者はむしろ楽天が不退転の決意でモバイル事業の自前化に取り組んでいることに注目している。楽天エコシステムというECと金融をクロスユースさせるビジネスモデルの将来に、自前のモバイルが不可欠だという楽天の認識が強く示唆されていると考えている。
一方、楽天以上にダイナミックな動きを示すのが孫正義氏率いるソフトバンク陣営だ。ECを担ってきたヤフー(現Zホールディングス、事業子会社としてヤフーを新設)は基幹事業であった広告とオークションに、ショッピングとクレジットカードをのせてきたが、最近ではスマホ決済のPayPayの拡充、PayPayモール・PayPayフリマの開始、アスクルの社長交代、ZOZOの連結子会社化、そしてLINEとの統合など足早に事業基盤の拡充を進めている。
小売事業者にとって、短期的には脅威なのか?
こうしたEC事業者の展開は、立地を押さえ、商品を押さえ、規模のメリットを発揮しているはずのリアルの小売企業にどこまで脅威となるのだろうか。
楽天について言えば、モバイル事業のもたつきはリアル小売への直接の影響はない。次にソフトバンクグループの動きで言えば、楽天における楽天カードに相当する決済手段をPayPayという形で浸透させPayPayエコシステムを作り、さらにLINEとの統合を実現してその採算も改善させる、つまり対楽天での戦線整備という見方ができる。確かに2社統合によってECに集客効果が出ることは間違いないが、本格的な効果を見るにはまだ早く、リアルの小売店舗の売上に影響が出ることはすぐにはないとも言えるだろう。
したがって、リアルの小売事業者にはこれらの動きを短期的に重大な脅威と捉える向きが多くないかもしれない。
EC事業者の中期的な目論見を推察する
しかし中長期的にみれば、こうした動きがリアルの小売業へ確実に影響を及ぼすことに異論は少ないと思われる。私なりに整理すると、EC事業者の中期的な目論見は次の通りではないだろうか。
① 品揃え・デリバリー・決済の領域で、リアルの小売事業者に対して少なくとも劣性ではなくなる。
②モバイルインターネットと金融決済基盤を活用し、消費者個人および消費者グループの嗜好・購買履歴を蓄積し、この点でリアル小売業者に対して優性に立つ。
③消費者個人に欠かせないポータブル・コンシェルジュとなり、広告から決済までの過程を丸抱えしトータルで収益を出す。自社モバイルユーザーには一歩進んだユーザー・エクスペリエンス(UX)を提供する。
①については、例えば楽天が自社の物流網整備を続けていること、
②については、個人情報に関する法規制や個人の認識、ハード・
③は、モバイル端末を介して常に消費者に寄り添いながら、広告・
小売事業者が今取り組むべきこととは
以上を踏まえ、
- 自社出店およびM&Aによる規模確保、サプライヤーとの関係強化、収益率の改善
- PBの深堀り
- 自社アプリ・ポイントカード等の稼働率アップ
- 自社金融事業(例えばクレジットカード事業)の深堀と情報活用
ということになるだろう。
しかし、上で述べたように、
なお、
プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、