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2018年度上場スーパーマーケット決算分析 再編対象となる企業はココだ!

気象庁は7月29日に「関東甲信越地方が梅雨明けしたと見られる」と発表し、東京でもようやく夏本番となった。7月のほとんどが梅雨で終わり、昨年の梅雨明け(関東甲信越地方6月29日)から約1ヵ月遅れである。しかし、一転、猛暑模様の高気温となり、道産子の筆者は早くも夏バテ気味ながら、今日も食品スーパー(SM)に少々思いを馳せるのであった。

Photo by RomoloTavani

上場SMの2018年度決算を分析する

 4月の当連載にて、決算分析の手法の1つを紹介した。2018年度(20192月期・3月期)実績を概観・総括するには、5月に発表される3月決算企業の開示を待つ必要があったため、当時の原稿では2017年度(20182月期・3月期)実績を用いた。本稿では、2018年度実績を用いて上場SM企業の状況をアップデートしたい。

 決算分析にはいくつか手法があるが、多くの企業をざっくりと概観する見方として、筆者が用いるのは、企業業績を企業規模の拡大と投資効率改善の視点から、増収率(=規模拡大)と総資産経常利益率(ROA)の改善幅(=効率改善度)とで4ポジションに分類するものだ。効率改善と規模拡大を両立させているか、という成長の健全性を示している。拡大路線を歩み効率を悪化させている企業群、負け組候補となりつつある規模縮小・効率悪化企業群、そしてオペレーション改善や商品開発に注力し、粛々と効率改善を果たす企業群に分類できる。

図表1 増収率とROA改善幅

 具体的には、【Ⅰ】「拡大再投資」(増収+ROA改善)【Ⅱ】「先行投資負担」(増収+ROA 低下)【Ⅲ】「リストラ体質改善」(減収+ROA改善)【Ⅳ】「縮小均衡(縮小&収益率低下)」(減収+ROA低下)である(図表1参照)。

 【Ⅰ】「拡大再投資」は企業規模拡大と投資効率改善を両立させていることを示し、投資回収期入りのポジションと位置付けられる。【Ⅱ】「先行投資負担」は費用先行型の局面で拡大フェーズの初期段階に位置づけられる。【Ⅲ】「リストラ体質改善」は不採算店舗の閉鎖をはじめとしたダウンサイジングによって収益性を改善している状況を示す。【Ⅳ】「縮小均衡」は業容縮小や資産圧縮に見合った収益改善が果たせていない状況を示し、抜本的な構造改革や財務政策、同業他社からの支援などが求められるポジションに位置づけられ、実際、【Ⅳ】に位置した企業は業界再編の対象となるケースが多い。

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衝撃!2018年度のSMを4ポジションに分けるとこうなる

減収+ROA低下企業は、再編関連銘柄に!?

図表2 上場SM企業の2018年度の増収率とROA改善幅                                              注1:2019年2月・3月期実績 注2:出所:決算短信より筆者作成      *5月決算・9月決算は除外

 上記をふまえて、上場SM各社の2018年度実績を見ると、図表2の通りである。グラフを見る限り、各社とも4つのポジションに分散しており、各社が抱える課題や取り組み状況は一様ではないことが伺える。ベルクやハローズ、ヤオコー、ライフコーポレーションなどをはじめとして、単年度で見るとROA低下だが、継続的な新規出店によって一定の増収率をキープしているSM企業が少なくなく、こうしたSM企業は着実に成長戦略を推進していると推察される。

 一方で、減収あるいは微増収のまま、ROAが大きく低下しているSM企業群も散見される。単年度の実績のみで見るのは乱暴であることを断った上でのコメントであるが、前述の通り、このポジションに位置したSM企業は業界再編に関係することが多い。

 図表2の当該ポジションに位置するSM企業においては、アークスとリテールパートナーズがバローホールディングスとともに資本業務提携を締結し、3社連合(新日本SM同盟)となっている(20191)。また、マックスバリュ(MV)東北・西日本も前年度に引き続き、当該ポジションに位置しているが、言うまでもなく、イオンの地域再編(全国6エリア)SM事業改革の中核はMV各社である(201810月発表)

 前回分析からの繰り返しになるが、あえて同様の文章で締めたい。すなわち、『図表2は決して“予言の書”ではない。しかし、「縮小均衡」ポジションに陥ったSM企業の経営者が相当の危機感を有し、思い切った戦略転換や抜本的な構造改革、あるいは大同団結に打って出る可能性が高いかもしれないことは容易に想像できる。

 決算発表に際し、単年度業績の好不調が注目されるのは当然である。一方で、それ以上に各SM企業が(実績を踏まえて)どのような戦略や施策を打ち出してくるのかが重要で、それは好業績SMのみならず、業績苦戦SMであっても同様である』と。

 さて、2019年夏季賞与は前年同期比マイナスとなり(経団連6月調査)、かつ残業時間の減少も続いており、消費者の手取り収入は弱含みで推移していると見られる。消費者の生活防衛意識の高まりが推測される状況下、2019年度下期は、201910月の消費税増税を背景とした駆け込み需要と反動減が待ち構えている。消費環境およびSM企業の業績動向の不透明感は一段と増して行こう。来年春に2019年度決算(20202月期・3月期)が出揃ったとき、図表2はどんな変化を見せているだろうか。そして、「令和」時代において、SM業界はどんな展開になるのであろうか。