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焦点:インスタに高級ブランドが本腰、顧客開拓へ大量資金投下

ウィーンのルイ・ヴィトン店舗前
6月7日、グッチ、ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオールなど、値の張る高級ブランドが、ソーシャルメディアを通じて、若い顧客層を開拓しようと手段に巨額を投じている。写真は2018年、ウィーンのルイ・ヴィトン店舗前(2019年 ロイター/Lisi Niesner)

Sarah White and Pascale Denis

[パリ 7日 ロイター] – グッチ、ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオールなど、値の張る高級ブランドが、ダンスを中心にしたファッションショーからアドバイザーチームに至るあらゆる手段に巨額を投じている。

その狙いはソーシャルメディアを通じて、若い顧客層を開拓することだ。

艶やかなフルカラーのページ広告を出すには数万ドルはかかる雑誌広告とは違い、参入障壁がない、ファッショニスタに人気のインスタグラムなどのサイトは、たとえ無名ブランドでも、気の利いた、あるいは派手なキャンペーンを打てば注目を集めることができる。

だが、LVMHやケリングなど、資金潤沢な高級ブランドグループがソーシャルメディア向け予算を拡大させるにつれて、大量のマネー投入が状況を一変させつつある。

かつては規模の大小を問わずブランドが対等に競い合える場だとみなされていたソーシャルプラットホームにおいても、ライバルの存在をかき消すだけの財力がこれらのグループにはあるからだ。

ブロガーやインフルエンサーの活用が主流になったことで、400万人規模のフォロワーを抱える彼らがスポンサー付きの投稿をする金額が、1本当たり2万ユーロ(約220万円)を軽く超える水準にまで高騰している、とマーケティング専門家は指摘する。

ほんの5年前、中小ブランドに比べ、ソーシャル上での積極さに欠けていた代表的高級ブランドだが、いまや競合他社を一足飛びに追い抜こうとしている。

急成長するグッチを擁するケリングは7日、2018年メディア予算の半分をデジタル広告に投じたことを明らかにした。3年前の20%から大幅増だ。同社は昨年、ソーシャルメディア上で最も高いパブリシティ効果を得た、とデータ追跡企業トライブ・ダイナミクスは指摘する。

「広告、そして願望を生み出す手法を巡り、われわれの考え方は大きく変化している」。ケリングのデジタル広告部門を率いるグレゴリー・ブッテ氏は記者団に語った。

「あらゆるタイプのソーシャル・プラットホームが出揃ったいま、さまざまなタイプの動画や画像が必要となっている。ユーチューブ向けコンテンツ制作は、テレビの場合とは違う」とブッテ氏は語った。

ケリングは、宣伝予算の総額を明らかにしていない。

同じくパリに本拠を構えるLVMHも2018年、マーケティング予算を過去7年で最も大きく増額。その総額は56億ユーロと、グループ収入の12%に相当する。これは同予算を公表している大半のブランドを上回る額であり、唯一これを上回ったのは、ネット上での主要トレンドセッターでもある未公開企業のシャネルだけだ。

LVMHの売上高をけん引するルイ・ヴィトンでも、マーケティング費用の半分をデジタルメディアに配分している。同ブランドのマイケル・バーク最高経営責任者(CEO)が今週行われた非公開のブリーフィングで明らかにした、とシティのアナリストが語った。

LVMHはコメントしなかった。

ルイ・ヴィトンや同じLVMHグループのクリスチャン・ディオール、マーク・ジェイコブス、ジバンシィは、トライブ・ダイナミクスが昨年選んだ「トップ10」ブランドに名を連ねており、これにはケリング傘下のサンローラン、バレンシアガもランクインした。

トライブ・ダイナミクスは、スポンサー料を受けていないコンテンツも含め、ソーシャルメディアにおける話題性がどれだけの価値を生んでいるかを数量化してこのランキングを算出している。

<新しいものを受け入れる>

3年前、ルイ・ヴィトンの7分の1の規模しかないイタリアのヴァレンティノが、他ブランドに先駆けて、インスタグラムの活用を始め、ソーシャルメディアで最も効果を挙げたブランドを評価するエンゲージメント・ラボのランキングに初めてランクインした。

ヴァレンティノのやり方はシンプルで、ファンが作成したコンテンツと自社制作したプロの写真をミックスしつつ、オンラインでのコメントに対応するというものだった。今日では当たり前のアプローチだが、当時はこれによって、カタールの投資企業メイフーラが保有する同ブランドの売上高は急増した。

その後、インスタグラムでのヴァレンティノのフォロワーは倍増して124万人に達したが、売上高の伸びは減速。一方、ルイ・ヴィトンのフォロワーはほぼ3倍となる321万人に達し、売上高は引き続き力強いペースで伸びている。

マーケティング投資は、中国市場などでの需要を受けて好調な高級ブランドと、一矢報いようと苦闘するブランドの差を生み出す要因の1つにすぎない。製品のデザインや、独創的な店舗戦略も、それに一役買っているからだ。

また、ソーシャルメディアにおけるセンスの有無によっても差がつくため、予算の大小がすべてというわけでもない。

グッチは2016年、「グッチゴースト」と共同でコレクションのデザインを進めた。「グッチゴースト」は、ニューヨーク中に奇妙なグッチのロゴをペイントし、その画像をネットに投稿したストリートアーティストだ。

この共同作業は、グッチがソーシャルメディア上で信用を高めることに貢献した、とトライブ・ダイナミクスの共同創業者コナー・ベグリー氏は指摘する。

「グッチはつながりを大切にした。普通なら、ブランド側が弁護士を送り込んで(ロゴ盗用の)罪を問うところだ」とベグリー氏は言う。「このことで他のクリエイターにもメッセージが伝わった。『おやおや、自分もグッチについて何か投稿したら、一緒に仕事ができるかもしれない』と思わせたのだ」

<大規模グループによる大型投資>

デジタル投資が増大する中で、中規模の高級ブランドは、露出を維持することがますます困難になっている。

「窮地に立っているのは平均的な中規模のブランドだ。小規模でデジタルに徹するイノベーティブなブランドと、資金力の大きい大規模グループの板挟みになっている」。そう語るのは、ファッション産業に関するデジタルデータを集計するローンチメトリックスのマイケル・ジェイスCEOだ。

売上げ回復を狙ったソーシャルメディア投資の増加という転換点を迎えているブランドの1つが、イタリアの靴メーカー、トッズだ。この戦略はアナリストに歓迎されているが、利益率を圧迫する可能性が高いという見方もある。

トッズ株の「リデュース(売り)」を推奨するHSBCのアナリストは今週、同社について、LVMHとケリングがオンラインマーケティングに資金を注ぎ込む中で「強い競争圧力に直面」しており、形勢が不利になりつつある、と指摘した。

ローンチメトリックスの報告によれば、ソーシャルメディアで活躍するインフルエンサーのうち、昨年10万ドル(約1100万円)以上稼いだ人は10%強だという。前年の3.7%から大きく拡大したが、 最も人気のあるブロガーに自社ブランドについて投稿してもらうことは、オンラインマーケティング費用の一部にすぎない。

「大手グループは、ファッションショーや展示会、店舗の開店イベントなど、『体験』にさらに投資しなければならないと理解している」。とブランド戦略についてアドバイスを提供しているリュクスコープのウチェ・ペザードCEOは語る。

「コストがかかるのはこの部分で、テクノロジーではない。これが過去5─8年で変化したことだ」

(翻訳:エァクレーレン)