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データで見る流通
消費税増税と物価高で変わる消費者心理

文=藤原 裕之

社団法人 日本リサーチ総合研究所 主任研究員

 

 個人消費のもたつきが続いている。2014年4月の消費税増税後の反動減は想定内との声も多かったが、いまだに回復の兆しが見えてこない。物価変動を除いた実質消費支出は9カ月連続で前年を下回った(家計調査)。消費の弱さは消費者心理にも反映されている。日本リサーチ総合研究所が発表している「消費者心理調査」によると、今後1年間の暮らし向きへの不安感を表す「生活不安度指数」は、1997年4月の増税時よりも不安度が高まっているのがわかる(図表1)。

 

 

 なぜ消費の回復が遅れているのか。まずは、増税と物価高に直面した消費者の心理状態について理解する必要がある。増税や物価高は実質的な購買力の低下(実質所得の低下)を意味する。しかし通常、消費者がそれを認知し、消費行動の修正に至るまでには一定の時間を要する。これは一般に「貨幣錯覚」と呼ばれる。筆者自身、増税後はレジで表示される税込み価格を見て違和感を覚えることも少なくなかった。貨幣錯覚によって消費行動の修正が遅れると、ある日、財布の中身がいつもより減っていることに気づき、慌てて支出を減らすような事態になる。勤労者世帯の場合、給与支給前がそれにあたるだろう。

 

 この点を家計調査から見たのが図表2である。勤労者世帯の支出変化を月の前半と後半に分けた場合、増税後は前半より後半の減少幅が大きい。とくに増税直後はその傾向が顕著であり、4月の後半は前年の同時期と比べて一日約700円も支出を減らしている。7月以降、こうした傾向は目立たなくなっているが、この間、財布の中身の減り具合を確かめ、思った以上に増税と物価高の影響が大きいと感じた消費者は多かったと思われる。

 

 

 増税と物価高はとくに地方の家計に大きな影響を与えている。地方は賃金上昇の波及が遅れていることもあり、増税と物価高による実質所得の減少が大きい。消費者マインドも増税以降は、北海道、東北、九州など地方での悪化が目立つ。ガソリンや灯油などのエネルギー負担の大きい地方の家計にとって、増税後はじめて経験する冬場に対する不安感がうかがえる。

 

 こうした状況に対し、小売業者は今後どう対応すべきであろうか。低価格商品の投入で節約志向の消費者に応えるべきであろうか。人手不足が顕在化した今、かつてのようなコストを下げて利益を確保する方法は限界に達しつつある。価格訴求型の販売戦略を展開できるプレイヤーはM&A(合併・買収)などを通じて平均コストを下げられる一部の大手企業に限られる。

 

 しかし、見方を変えれば、こうした環境変化は多くの小売企業にとって、従来のデフレを前提としたビジネスモデルから脱するチャンスでもある。消費者は増税と物価高で節約志向を強めているが、同時に品質に対する意識も高まっている。「いつも行くA店の商品に倍近いお金を支払うなら、より質の高い食材を揃えているB店に行ってみよう」と感じる消費者も増えつつあるのである。こうした消費者に対し、どれだけ付加価値の高い商品やサービスを提供できるか。小売企業としての本来あるべき姿が問われている。

 

 

(「チェーンストアエイジ」2015年2/15号)