建設資材の専門商社大手の渡辺パイプ(東京都)は、大手ハウスメーカーから中小工務店、一人親方まで、幅広く建設業にかかわる職人から支持されている。2024年3月期の売上高は4100億円を突破した。渡辺圭祐社長に、同社の成長戦略と今後の展望について聞いた。
成長を支える3つの強み
──まず、御社の事業概要を教えてください。
渡辺 現状では2つの事業を展開している。1つが水と住まいに関する事業で、もう1つはグリーン事業だ。水と住まいの事業ではいわゆる建設資材の流通を手掛け、グリーン事業は農業用ハウスの資材販売とハウス一式の販売・施工をしている。2024年3月期のグループ全体の売上は4162億円。そのうち水と住まいの事業の売上が3912億円で、94%を占める。
創業は1953年で、パイプ、バルブなどの管材の二次問屋としてスタートした。もともと建設資材の業界は完全な縦割りで、管材、建材、電材のそれぞれでルートが異なり、商流は、メーカーから一次問屋、二次問屋を経て工務店に行くという多重構造だった。その後、千葉県や北海道などに営業所を開設し、展開エリアを拡大して、取引量が増えた。その結果、メーカーと直接取引ができるようになった。現在は3000社を超えるメーカーと直接取引をしている。当社ではそれを「ダイレクト」と呼ぶ。
また、00年に入って、00年代後半以降はいろいろな業界の垣根が取り払われて、住設、建材、電材なども扱うようになった。そのため、施工店のお客さまが、当社を通して「ワンストップ」であらゆる資材が買えるようになった。
──全国各地に営業所を構えているのも御社の特徴の1つですね。
渡辺 多くの営業所の展開による「ネットワーク」も当社の強みだ。今は全国に約580の営業所があり、お客さまの現場に資材を迅速に配達できる。たとえば、東京のお客さまが大阪で仕事があっても、東京で決めた価格で大阪の営業所から商品を配送できるので、お客さまにとって利便性が高い。
加えて、現在は約4000台の自社配送車を持ち、自社でお客さまの現場や店舗に資材を届けられるのも当社の武器となっている。お客さまは自前の在庫が不要で、当社の営業所を倉庫代わりに使うことができる。
このように、「ダイレクト」「ワンストップ」「ネットワーク」の3つが当社の大きな強みだ。
──管材の卸としてスタートし、後に住設や建材を商品ラインアップに加えたのはどのような経緯ですか。
渡辺 管材で創業したので、もともと、トイレ、フロ、キッチン、洗面化粧台の水回りの住設の取扱量が多く、水道工事店に販売していた。その後、得意先の求めに応じて、リフォームに必要なフローリングなどの建材、サッシ、カーポートなどのエクステリア、電材なども扱うようになった。商材を広げられたのは、水道工事店に1日に何便も配送する厳しい商売に鍛えられたからで、一度に大量の建材を運ぶ工務店向けの商売は入りやすかった。
部門別に売上構成比を見ると、トップは水道工事店向けの水工で42.8%を占め、第2位の住設は28.8%だ。メーンの管材の売上の伸びは緩やかになってきているが、住設をはじめとする他部門の伸びが大きい。周辺まで商材を広げたことが成長につながった。
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新規顧客が毎年1万社以上増加
──23年度の住設事業の売上高は対前期比9.2%増で、住設・建材系の専門商社では御社の伸び率が突出しています。好調の要因は何ですか。
渡辺 営業所を毎年20店舗ずつくらい増やして、新店でも既存店でも新規顧客を増やしているからだ。顧客は毎年1万社以上増えて、昨年は1万3000社増えた。入れ替わりながら、個人事業主から大企業まで、毎年コンスタントに新規顧客を増やしている。
──新規顧客の開拓のポイントは何ですか。
渡辺 各エリアでのお客さまからの紹介がいちばん多い。商材の幅広さ、迅速な対応、1日何便も配送する融通が利く自社物流などが評価され、これらのメリットがお客さまからの紹介につながっている。過去のトラブルの有無、保険加入なども含めて与信審査をした上で、小口顧客のお客さまも積極的に開拓している。
──営業所の出店は、どのような考え方で進めていますか。
渡辺 昔は商圏人口30万人のエリアに出店していたが、今は10万人でも成り立つと考えている。商材が幅広くなって対象顧客が増えたので、出店余地はまだある。市場が縮小しても、エリア内に水道工事店、電気工事店、工務店などがあれば、拠点は維持できる。
──物流における働き方改革が求められるなかで、自社配送車4000台は大きな財産になります。
渡辺 もともと倉庫には配送専従社員がいた。物流の「2024年問題」の対策もあるが、最近は大都市圏では広域配送が増えたので、物流子会社を設立して、この10年間は営業と配送の分離を進めている。首都圏や大阪に物流センターを開設し、営業所からの配送とセンターからの配送を組み合わせ、物流の効率化を図る。今後も物流拠点の開発に努めていく。
今のところは、自社商品を運んでいるが、今後は他社の物流を手掛けるビジネスも考えている。建設資材は、基本的に重量物、長尺物、異形物が多いので、配車のシステムを研究し、これを外販することも検討中だ。
建設業者向けECサイトを開設
──顧客同士をマッチングするユニークなサービス「セディア・コネクト」は、いつ始めましたか。
渡辺 21年4月からスタートした。現在の登録社数は1万超で、元請けと施工店をマッチングする。会費は無料で、今は1日数件程度マッチングしている。ベンチャー企業でも同じようなサービスはしているが、当社は、与信審査をしている既存客同士をつなぎ、マッチングした工事で事故があったら補償もしているので、安心して利用してもらえる。ただ、まだ登録社が13万社中の1万社と少なく、十分対応できないエリアもあるので、もっと登録社数を増やしたい。
──この4月からは、新たにECサイト「シザいもん」を立ち上げました。なぜEC事業を始めしたか。
渡辺 「シザいもん」はプロユーザー向けの副資材、工具、ユニフォームなどに特化し、約30万点の商材を揃える。商材によっては13時までの注文で、当日や翌日に配送できる。既存客向けとは完全にすみ分けし、決済はすべてクレジットだ。これから大きく育てていきたい。
──さまざまな新規事業を手掛けるなか、職人向けの小売店舗を運営するという考えはありますか。
渡辺 M&A(合併・買収)のチャンスがあれば、プロショップも運営するかもしれないが、今の営業所や物流、ネットワークをうまく生かして、より多くの施工店を押さえるのが重要だ。一方、毎年新入社員を250人ほど採用して、営業マンを介して物販するのが当社のビジネスの特徴だが、営業所の出店も無限にはできない。今後の市場動向に危惧もあり、人を介さない物販は今後の課題の1つだ。
ほかにも、新規事業として、コールセンターを運営し、ハウスメーカーのOB顧客の住宅に関する相談に対応し、ハウスメーカーや建築業者向けに設備設計サービスを提供している。物販以外でも収益が取れる事業を模索し、今後も積極的に新規事業にチャレンジしていく。
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