“因縁の地”にオーケーがついに進出
「皆さん何か勘違いされているのではないか。関西も人口は減っているし高齢化も進んでいる。なぜそんなに入ってくるのか」──。
10月初旬、東京都内で開かれたライフコーポレーション(大阪府:以下、ライフ)の中間決算説明会。質疑応答の場で、関西の市場環境について問われた同社の岩崎高治社長は、やや語気を強めてこう答えた。しかし岩崎社長が抱く「なぜ」とは裏腹に、関西には近年、エリア外の有力チェーンが相次いで上陸し、店舗網を拡大させている。
なかでも、“最後発”での進出にして台風の目となっているのがオーケー(神奈川県/二宮涼太郎社長)である。
同社にとって関西は因縁の場所だ。2021年9月に関西スーパーマーケット(兵庫県/中西淳社長)に買収を提案したものの、同社は関西地盤の流通大手エイチ・ツー・オー リテイリング(大阪府/荒木直也社長:以下、H2O)との経営統合を発表。
オーケーは両社による統合手続き差し止めの仮処分を求めたが、21年12月に最高裁判所は同社の許可抗告の棄却を決定、関西スーパー争奪戦はH2Oの勝利という結果で幕を閉じた。
敗れたオーケー側は、「今回の件を通じて、関西の多くのお客さまから出店してほしいというメッセージをいただいた」(当時の二宮社長)として、関西への進出を引き続き模索すると表明。関西地場の別の食品スーパー(SM)をM&A(合併・買収)するのでは、という噂も一時は流れた。
しかし22年10月、オーケーは大阪府東大阪市が保有する約3636㎡の土地を落札したと発表。同地に「関西エリアにおける旗艦店」を出店し、自力で関西に進出することを明らかにした。
オーケー流を貫き淡々とシェア獲得か
それからおよそ2年。ついに11月26日、オーケーの関西1号店「オーケー高井田店」がオープンした。売場面積は約770坪、駐車台数192台の大型店で、5階にはオーケーの「関西事務所」も併設した。
売場の全貌については54ページからのレポートを参照されたいが、全体的には拍子抜けするほど、関東での店づくりの手法を踏襲している。
青果から始まるワンウェイコントロールのレイアウト、オーケーのコンセプトである「高品質・Everyday Low Price」を地で行く商品政策(MD)、値札の横に差し込まれた「オネスト(正直)カード」……。総菜や加工食品などでは一部で高井田店限定商品や地場メーカーの商品も取り入れてはいるが、売場の全景は“ひたすらにオーケー”である。
二宮社長も「関西ならではの販売施策は導入していない。加工食品や日配品のナショナルブランド(NB)は競合店の価格にしっかり対応し、生鮮は品質に対して割安な商品を強く訴求する。いずれも関東と同様の取り組みだ」と説明する。
高井田店以降の出店については、25年1月をめどに兵庫県西宮市に「西宮北口店」(仮称)、その後兵庫県尼崎市、神戸市などへの出店も明らかになっている。店舗サイズは300坪弱から高井田店クラスの大型店まで、これも関東同様に物件に合わせて柔軟に対応する構えだ。
二宮社長は具体的な出店数については言及しなかったものの、「ドミナント戦略を進める以上、10店舗や20店舗の規模には収まらない」と明言。そのうえで「出店の案件についてはどんどん決まっている」と自信を見せた。
悲願の関西進出に力むことなく、オーケーのスタイルで“淡々”とシェアをとっていく──。高井田店の売場と二宮社長の発言からは、そんな意思も透けて見えた。
「関西強化」の企業続々、オーケーの成否はいかに
オーケーばかりに目が行きがちだが、関西に新たな成長の礎を求める企業は数多く存在する。たとえば、オーケーと同様に首都圏で圧倒的な集客力を示して事業を拡大してきたロピア(神奈川県/髙木勇輔代表)。
同社は今や北海道から九州・沖縄、さらには台湾にまで店舗を有する全国チェーンで、関西(大阪府・京都府・兵庫県・奈良県)には11月末時点で計20店舗を展開し、関東に次ぐ規模の店舗網を構築している。
また、東海・北陸地方を地盤とするバローホールディングス(岐阜県/小池孝幸社長)は「関西圏での売上高500億円超」を中期経営計画の目標の1つに掲げ、市場開拓を加速。M&Aのほか、傘下のSM企業バロー(同/森克幸社長)が大阪府を中心に積極的な出店を続けている。
同様に関西での出店を強化するエリア外の企業としては、トライアルホールディングス(福岡県/亀田晃一社長)、大黒天物産(岡山県/大賀昌彦社長)、コスモス薬品(福岡県/横山英昭社長)、クスリのアオキホールディングス(石川県/青木宏憲社長)など枚挙にいとまがない。
さらにオーケー進出の陰に隠れがちだが、直近で新たに関西進出を果たした企業も複数ある。
中部地方でディスカウントSMをメーンに展開するカネスエ(愛知県/牛田彰代表)は、11月28日に滋賀県大津市に関西1号店を出店。JMホールディングス(茨城県/境正博社長)傘下で「肉のハナマサ」を運営する花正(東京都/富澤夏樹社長)も、大阪府のローカルSM「スーパー玉出」の一部店舗を譲受し、10月に大阪市内で店舗を開業している。
こうした流れでのオーケーの開業は、関西市場のこれからの混沌を決定づける“ダメ押し”の出来事になったともいえるだろう。本特集で現地調査を行ったKTMプラニングRの海蔵寺りかこ氏は「オーケーが成功を収めれば、関西へのさらなる新規参入を呼び起こすことになるだろう」と指摘する。
ただ、オーケーが関西でも一気にシェアを伸ばせるかという点については、業界関係者の見方はさまざまだ。
小売業界に詳しい某経営コンサルタントは、「関西はハイ&ローを徹底するチェーンが多く、消費者も“その日だけのお得感”を求める傾向が強い」と指摘。「オーケーの『毎日同じ価格で安い』というEDLP(エブリデー・ロープライス)がどう受け入れられるかは、現時点ではわからない」とみる。
一方、とあるメーカーの営業担当は関西でもオーケー旋風が吹き荒れると予測する。「ハイ&ローかEDLPかという形態はさておき、NBを中心に多くの商品で、結局オーケーがマーケットの最安値に落ち着くはず。節約志向が高まるなか、それは強い来店動機を創出する」と断言する。
「すみ分け」のカギをいかに見つけるか
では、オーケーが関西でも隆盛を極めるとして、同社との競合が避けられない既存勢力は、どのような打ち手を講じるのか。本特集では6社のケーススタディを紹介しているが、共通するのはオーケーとの「すみ分け」を徹底する姿勢だ。
ライフの岩崎社長は冒頭の会見で、こうも語っている。「(他社との)差をはっきりさせること。それによって同質化競争に陥らないということが必要になる」。実際にライフは、価格訴求型から付加価値型まで幅広いラインのPBと、売れ筋のNBを組み合わせ、あらゆる食シーンとニーズに対応。
とくに自然派PB「BIO-RAL(ビオラル)」の売上は順調に伸びており、単独での出店も果たすなど、お客からの支持は高い。こうした戦略は、各カテゴリーでアイテムを絞り込んでEDLPを実現するオーケーとの“差異”を明確にしている。
ライフと並び関西で強固な事業基盤を有する万代(大阪府/阿部秀行社長)は、近年注力してきた生鮮強化の取り組みをさらに加速。並行して曜日別の多様な販促企画によって、ハイ&ローならではの“お得感”を強く打ち出し、集客につなげている。
このように、自社の強みをあらためて明確にしたうえで、独自のポジショニングをいかに確立するかが、混沌を勝ち抜くための重要なカギになる。言い換えれば、そのカギを見つけられないまま競争力を失っていけば、新たなプレーヤーの参戦が続くなかで退場を迫られかねない。
オーケーの進出は、関西の市場と勢力図にどのような変化を促すことになるのか。本特集では、オーケーVS.既存勢力という単純な対立構図だけでなく、各社の成長戦略を「店」を基点に分析することで、市場の今後を展望してみた。
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