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どうなる「ツルハ」と「クスリのアオキ」 イオンの出資先で問われるガバナンスと再編の予兆

ツルハホールディングス(以下、ツルハ)とクスリのアオキホールディングス(以下、クスリのアオキ)に対して、アクティビストとして知られる香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント」(以下、オアシス)から株主提案が出されています。いずれも5月決算で、前者は8月10日、後者は8月17日に株主総会が予定されています。筆者はこの動きを大いに注目して見守っています。以下にポイントをまとめたうえ、株式市場からの見方、そして今後の争点について書いていきたいと思います。

 「ツルハ」と「クスリのアオキ」の共通点

 株主提案の内容に触れる前に、この2社の共通点を整理します。

 以上、この7点に集約できます。

アクティビストはどんな提案を行っているのか?

 次に、アクティビストからの株主提案内容を読み解いていきます。株主提案のポイントは、「経営陣における創業家色を希薄化する」ことにあると思います。

 ツルハに対しては

 などが提案されています。取締役会長は現状鶴羽樹氏、代表取締役社長は鶴羽順氏の体制ですので、この提案は取締役会の運営を独立社外取締役のもとに置き、意思決定の幅を広げさせよう、業界再編に対する関与を強めさせようという意図を感じます。

 ちなみに、会社側の提案が株主総会で承認されると、取締役会は11名で構成され、従来と比べて独立社外取締役を2名増員する形になります。

 クスリのアオキに対しては、

 などが提案されています。クスリのアオキは現在、取締役最高顧問が青木保外志氏、代表取締役社長が青木宏憲氏、副社長が青木孝憲氏という青木一族体制にあります。この提案は独立社外取締役に権限を持たせ取締役の指名に関して一定の牽制機能をもたせようという意図を感じます。

アクティビストの狙い

オアシス・マネジメントHPより(https://ja.oasiscm.com/)

 会社側とアクティビスト側の応酬がまだ続いている模様ですので決着の行方は判断しかねますが、大枠で言えば株主提案は「もっとも」な内容です。

 ただし、この2社の業績と株価評価は業界内で顕著に劣後しているとは言えないため、体制改革の切迫度に対する認識は株主によって異なると考えられます。また株主提案の取締役候補の適否について議論の余地がありそうです。

 しかし、もともと外国人持株比率が高いため、株主提案が承認される可能性を無視できません。

 オアシスは、仮に株主提案が承認されれば、創業家色を薄める経営体制の刷新を一気に進め、マツキヨココカラ&カンパニーの事例で確認されているスケールメリットの早期実現に向けて経営に圧力をかける算段だと思います。この場合、イオンとの現行の資本業務提携が維持されるのかわかりませんが、これが維持されるのであればイオンを軸にした再編につながり、アクティビストが保有する株式をイオンが引き取る(対価が現金かはわかりませんが)展開が開けます。逆に、これが解消されれば業界再編に向けた選択肢が広がることでしょう

  他方、仮に今回株主提案が承認されなくても、両社の経営は今回の問題提起を重く受け止め、結果としてアクティビストの望む路線に踏み出さざるを得なくなると思います。創業家とのしがらみが少ない外国人株主が多いことは重石です。近未来に社外取締役が主導権を握る可能性が残る以上、創業家が主体的に先手を打つ形で再編をしかけ、再編後も一定の影響力を維持しようと目論むことに不思議はありません。

気になるイオンの対応は?
リリースでの表明をどう読めばよいか

 

 そこで気になるのがイオンの対応です。

  8月1日、イオンはツルハの事案について、会社側(ツルハのこと)提案を支持するリリースを行いました。これによれば(一部抜粋すると)

と述べられています。

 イオンがわざわざこのようなリリースを出す必要があるのか分かりかねます。あえていえば、持分法適用会社化ないし連結子会社化の検討を開始するニュアンスを行間で伝え、会社(ツルハ)提案の多数派工作を側面支援しているとみるのが自然でしょう

  とはいえ、イオンがツルハの株主持分を単純に引き上げるだけでは、「再編の重要性」を「認識している」という上記の説明に対して不十分だと考えます。イオンは同社の株主に対する説明責任を果たすためにも、ウエルシアホールディングスを絡めた抜本的な再編を通じて経営効率を高めるという青写真を用意すべきだと思います。イオンは、長年の最重要課題であったGMS(総合スーパー)・SM(食品スーパー)・DS(ディスカウントストア)の採算改善に一定の目処をつけ財務体力も向上していますので、親子上場の整理に関する指針を示す時期が来たのだと思います。
 マツキヨココカラ&カンパニーが統合効果を着実に生んで収益力を引き上げている姿を目の当たりにして、ドラッグストア各社は業界再編の必要性、業界再編における主導権の必要性を強く意識しているはずです。さらに、業界再編の主導役を期待されるイオン側も低採算事業の改善を進めグループ再編を開始する余裕が生まれています。イオン出資のツルハ・クスリのアオキ2社に対するアクティビストの要求はよく練られた絶妙のタイミングで出てきたと思います。この2社の株主総会に大いに注目すべきでしょう。
 再編が期待されるホームセンター業界も、この事案の推移を固唾を飲んで見守っているのではないでしょうか

 

プロフィール

椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師