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韓国、Kファッションに日本企業が打ちのめされる日 Dholic、MUSINSAの脅威とは

私は、ことあるごとに日本のアパレル産業が国際競争力を持ち得ないことを指摘してきた。Shein(シーイン)をはじめ、アジアの新興勢力がMZ(ミレニアルとZ)世代をがっちり握る現状のなか、「この10年を戦い抜く中長期戦略を、対アジアアパレルに定めなければ破滅の日が来る」と繰り返し指摘してきた。その中で、デジタル武装した中国もさることながら、サムスンをつくり、映画「パラサイト 半地下の家族」 で米アカデミー賞をアジアで初めて受賞、BTSは米国ビルボードでトップをとるなど、韓国のエンタメパワーは日に日に増しており、一人あたりGNPや、本日の報道によれば最低賃金さえも韓国は日本を追い抜いた。もはや我々は韓国から学ぶ時代が来たのだ。今回は、韓国ファッション(Kファッション)がどのような戦略を描いているかについてまとめたい。

コロナ明けで一見好調のアパレル、その実態は

 進化する韓国ファッションをしり目に、日本のアパレル各社はコロナ明けのリベンジ消費とインバウンド需要で吹いた神風と、バブル時代に近づいている株高によって、“一時的な”好機に浮かれている。

 ただし、すべての企業がよいわけではない。コロナ禍で我が世の春を謳歌した一方、自らのビジネスモデルを大変革するチャンスを逃したカタログ通販は、壊滅的なダメージを受けている。しかし、遅かれ早かれ同じことが、これから日本のアパレルに押し寄せようとしている。

 稚拙なマーケティング、膨れ上がった販管費、ROI(投資対効果)が見えないデジタル活用など、経営能力の巧拙が今後大きな違いとなって表れてくるだろう。すでにマッシュスタイルホールディングス、バロックジャパンリミテッド、バーニーズジャパンなど、続々と外国企業によって買収が進んでいる。

 こうしたなか私は、一足先に韓国のアパレル企業の分析をはじめている。韓国から財閥出身のキム教授(Prof. Kanghwa Kim)を招聘し「日本企業の弱点と改革案」を韓国人に提案していただくという刺激的な企画を行った。圧倒される、キム教授のプレゼンテーションを聞いて目を覚ましていただきたい。https://www.youtube.com/watch?v=QhVbHMvcOn4

韓国企業の戦略 K-Pop と融合させた、驚異のKファッション

 私は、キム教授の紹介で、“メディア”としては初めてDholic(ディーホリック)社にはいった。Dholicとはプチプラでありながら最新トレンドの服が買える。韓国発のファッションECサイトで、最近は日本にも数十店舗のリアル店舗を構え韓流OMO戦略を繰り広げている。最高経営責任者の權成勳氏と会って、広範囲に日本と韓国のアパレル業界について、そして、韓国企業の今後の戦略について議論をした。

右から、筆者、權成勳グループCEO、金教授、廬日本法人責任者代理  
Dholic社エントランス

 それでは、その韓国の戦略とは何か、そして日本企業への提言などをご紹介しよう。

  苛烈な競争が生み出した天才プロデューサ、J.Y.Park(パク・ジニョン)は皆がしっている、今、アジアでもっとも神に近いといわれている人物だ。このプロデューサが生み出したのがK-Pop韓国は、政治・産業一体となってドリームチームをつくり、アパレル領域に進出することを考えている。

 余談ながら、私もこのチームに入れていただくことになりそうだ。コンサルタントは常に黒子ゆえ、新聞紙上を飾るニュースの裏に自らが関与していると、承認欲求が強い私は、メディアのあやまった報道にいらついて仕方ない。

大企業を打ち負かす「MUSINSA」インキュベーション

MUSINSA

 今、韓国では大企業からイノベーションは生まれない。ドロドロした出世競争に明け暮れているようだ。これに対して、韓国は、MUSINSA(ムシンサ) という日本で言うZOZO TOWNのようなインキュベーションプラットフォームを使い、ネットからリアル店舗へ、という逆コース戦略をとっている。https://global.musinsa.com/jp/

 そこでは、個人や数人の少人数チームにKファッションのエッセンスを注入する。そして、このMUSINSAが生産からマーケティングまですべてに投資し、ビッグアパレルに育ててゆく。すでに、韓国内のユニクロの売上シェアを抜くことも見えてきたという。

 キム教授は日本人について、個性を出さず「空気を読んで落ち着くところに落とす」日本独特の文化が、日本からイノベーションを奪っていると指摘する。一方で、日本のマーケティング書籍を200冊もよみ、私の論考も過去からすべてスクラップして韓国語に直して韓国内に配布しているという(著作権的にはアウトだが…)。

 日本人のセミナーも、時間があるたびに観ているようだ。しかし、その内容はあまりに稚拙で、なんの参考にもならないと断じる。

 金教授はいう。彼らのセミナーを聞くと、宝くじに当たった人が「宝くじに当たる方法」と宣っているようなもので、再現性も反証性もない、つまり、科学ではない。それを盲目的に信じ、横文字マーケティング用語を乱発し分かった気になっているのが日本人だという。実際、デジタルを使わずマーケティングもできない人間が、なぜ「デジタルを使えばマーケティングができるようになるのか」と、厳しい指摘が続く。

 最後に、日本人への警鐘としてこう語った。「あまりにデジタルに頼り過ぎだ。もっともアパレルビジネスに大事なこと、つまり、商品や事業に魂を込めているのか?と言いたい。大企業になると、決まった仕事を消化することが仕事だと勘違いしている。だから、デジタルのようなものに飛びつき、PLMのようなあやまったものを導入するのだ」と。キム教授が言う通り、PLMはもはや総償却しなければならないほどコスト増の要因となっている。

世界で勝っている企業はファストファッション

 日本人の多くは、SDGsを盲目的に信じ、ファストファッションは貴重な資源を奪うものだとして、ネガティブな意見を持っているが、金教授は「違う」という。

 実際、中韓のシーイン、Kポップなどでは次から次へと新しいものが生まれ、そのライフサイクルが極めて短くなっている。あえて、短命なものをどんどんだしてゆくわけだ。その一方で「日本のなんちゃってD2C80%は失敗しているというデータがある」とキム教授は指摘する。その通りで、日本でD2Cを正しく実行しているケースを聞いたことがない。

 ファストファッションとはビジネスモデルの1つである。それゆえ、私も、そのビジネスモデルのどこが悪いのかわからない。特に、シーズンごとに好きなものを買うのが、まさにファッションではないか、と思っており、その点はキム教授と全く同じ意見である。

  Kポップのドリームチーム × D2Cが韓国の戦略であり、日本企業が勝てない理由であるということだ。

 一方日本の頂点は、昔のワールドのSPARKS構想だった。今の日本企業はすべてが中途半端でアジアの後塵を拝し、やがて買収の嵐にさらされることになるだろうとキム教授は警鐘を鳴らす。脇の甘い日本企業は、買収防衛とIRをしっかりしてゆかねばならない。

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世界企業MUJIに対する評価は?

 キム教授は「ユニクロ」を高く評価しており、彼があまりにユニクロ、ユニクロというので、私は「無印良品」「MUJI」について尋ねてみた。「中国ではホテル事業もやっている。MUJIはアジアを、日本を代表する強力なブランドではないか」といったところ、「アジア人はそう観ていない。MUJIはまさに日本そのもので保守的、料理で例えれば塩と醤油だけ。その印象が強すぎる。だから、米国では破綻もしているではないか。今後、少なくとも韓国では下降線をくだってゆくだろう」ということだ。これは、ショックだった(ちなみに無印良品の店舗数は228末時点で、中国大陸325店舗に対し、韓国は40店舗。58店舗の台湾よりも少ない)。

 キム教授の話をまとめよう。 

 これからのアパレルの地図は、大手の多くはユニクロ、またはユニクロのような脱ファッション、つまり衣料品を機能性という切り口から勝負してくるだろう。

 さらに、プライスラインでいうとミドル(中価格帯)からローワー(低価格帯)は、「ファストファッション」×「D2C」のモデルで、先進性のある小粒なファッションが出ては消え、消えては出る新しいビジネスモデルの時代に入ってゆく。

 こんな構造になってゆくとのことだ。

 これは、一つの見方であるが、単なる一韓国人の感想ではなく、ソウル大卒業後、三星(サムスン)物産の出身、日本企業で何年も働き、韓国ファッションビジネス界にもっとも影響力を持つ人物の分析である。彼の分析を100%鵜呑みにする必要はないが、では「日本でいま、BTSやパラサイトがつくれるのか」ということを自問自答してほしい。

 しかし、あきらめるのはまだ早い。

 最後に金氏はこう言った。

 日本人は恐ろしい。そのまま沈んでゆくほどバカな国民ではない。例えば、サッカーだ。今、ワールドカップ2022で世界に強さをみせつけ、国際試合で日韓戦をしても日本が勝った記憶に新しい。しかし、韓国サッカーはその昔、日本など相手にしていなかったし日本とサッカーが結びつけられないほどだった。それが、Jリーグの発足からみるみるうちに、国家とサッカーがタッグを組み、世界で勝てるチームをつくりあげた。これは、韓国人をもっとも驚かしたものだという(実際、日韓戦A代表の通算成績は圧倒的に韓国が勝ち越しているが、Jリーグ発足以降の戦績は互角である)。

  恐ろしい

  なぜか、その言葉が頭から離れず、何度も「恐ろしい」と繰り返して家路についた。

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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