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特別レポートNRF2023総括!提示された新たな小売の姿、次なるチャレンジとは

1月15~17日の3日間、全米小売業協会による「NRF 2023:Retail’s Big Show」(以下、NRF2023)が開催された。日本より一足先にアフターコロナへと移行した米国では消費者の動きが活発化する一方で、賃金上昇率を上回る高いインフレ率を背景にリセッションリスクも否定できない状況にある。そうした厳しい環境を迎えるなか、NRF2023ではリアル店舗回帰と、その状況においてどのように利益を確保していくのか、そのためにすでに投資したテクノロジーをどのように活用するのかに焦点が当たった。同時に、新たな収益源である「リテールメディア」をどう活用するか、サステナブルを背景とする新たな消費トレンドやビジネスモデルにも注目が集まった。巻頭特集として、75カ国から3万5000人が参加したNRF2023の総括に加え、個別のセッションでとくに印象的だったものを記事にまとめた。

NRF2023は1月15~17日の間「ブレークスルー」をテーマに行われた。写真はNRF2023のキーノートセッションが行われるメーンステージ
開会あいさつはNRF会長でもある米国ウォルマートのジョン・ファーナーCEO

 「われわれ(小売業界)は顧客ニーズの変化に対応するため、素早く変化し、革新を遂げた」NRF会長で米国ウォルマート(WalmartU.S.)のジョン・ファーナーCEOは開会あいさつでこのように、パンデミック禍の困難な状況下で、変化に対応した小売業界を称えた。

 とはいえ激しいインフレに苛まれた米国では、需要の先食いが起こり、消費に変調をきたしている。米商務省が発表する2022年11月の米小売売上高は1%減(修正後)、12月は0.8%減とする予想を下回る1.1%減となった。インフレを根絶するため、米連邦準備制度(FRB)による過去に類を見ないペースでの利上げが景気を冷やし、ウクライナ戦争と中国起点のサプライチェーンの分断といった問題も不透明のままだ。そうした状況も踏まえてか、ファーナーCEOは「(小売業を取り巻く)環境は、変化と挑戦に満ちて、依然ダイナミックなままだ」と語り、小売業が荒波を乗り越え、さらなる変化を遂げるためにも、NRF2023を活用するよう促した。

 これから小売業界はどのようなテーマ、課題のもと動いていくのか? 本稿ではNRF2023から得られたいくつかのキーワードをもとに、解説していきたい。

消費変調のアフターコロナをどう生き抜くか?

 米国では昨年9月、ジョー・バイデン大統領が「問題はある」としつつも、パンデミックの終了を宣言しており、文字どおり「アフターコロナ」の世界に突入している。

 コロナ前からデジタル投資、サプライチェーンの整備を進めてきたOMO(オンラインとオフラインの融合)戦略が奇しくもパンデミックで花開いた米小売業にとって、21~22年は追加的に投資をしながらもより進化させていく、実行フェーズという意味合いが強かった。

 アフターコロナを迎え、リアルの場に人々が戻ってきたことで、オンラインの重要性はそのままに、店舗の価値が見直された。

 具体的な店舗投資という意味では、米アマゾン(Amazon.com)傘下ホールフーズマーケット(Whole foods market)のジェイソン・ブッケルCEOが、現在さまざまな開発段階にある50店の新店を時間をかけて倍増させたいと発言。最終的には年間30店ずつ新店を開設したいというビジョンも明らかにした。なお同社は現在、米国内に500店以上を展開している。

 セッションに登場した多くの小売幹部は、消費者の財布の紐が固くなるなか、いかに効率的に店舗を運営し、在庫の最適化を図るか、そして顧客中心主義に回帰し、“個”客化を進めて収益を確保するかを語った。

 「在庫の最適化」では、AIや機械学習を活用した事例や展示が目立った。セッションではメキシカンファストフードチェーンのチポーレ(Chipotle)が需要予測、在庫管理に機械学習と視覚センサーを活用した成果を披露した。

 パナソニック子会社で米サプライチェーンマネジメント(SCM)大手のブルーヨンダー(Blue Yonder)。AIによる生産、需要予測、最適化を強みに、店舗の人員計画や棚割りに至るまでのクラウドサービスを提供する。同社SPVで小売セクターリーダーのエドワード・ウォン氏は「食品小売業は店舗を運営しながらオンライングロサリーを行っている。このモデルで収益性を高めるには、需要に基づいた最適な棚割りと店内在庫、そして低コストでの補充がカギ、当社のソリューションで解決できる」と語る。

店舗規模の最適化と顧客中心主義

 店舗規模の最適化も1つのキーワードだ。空いたスペースをEC用のマイクロ・フルフィルメント・センター(MFC)に変える動きとして注目を集めたのが、米大手百貨店のメイシーズ(Macy’s)の戦略だ。

 「ギフトシーズンは好調な半面、ふだんの消費行動は保守化し、自分用の消費が停滞、消費者のクレジット残高も積み上がっている」と同社のジェフ・ジェネットCEOは警鐘を鳴らしつつも、「チャンスと見たらいつでも飛び乗る準備がある」と自信を見せる。

 この自信は、メイシーズがラストマイルまで含めたサプライチェーンの仕組みを「完全につくり直した」(ジェネットCEO)という事実に裏打ちされる。合計約9万3000㎡の売場をMFCに転用、35店舗に半自動化されたMFCを導入することで、効率的な物流ネットワークを構築した。

 顧客中心主義、“個”客化については、米高級百貨店ニーマン・マーカス(NeimanMarcus)のジェフロイ・ヴァン・ラムドンクCEOのセッションで明確に語られた。同社はコロナ禍に連邦破産法11条を申請し倒産後、リストラを経て、22年度は収益が対前期比で30%増となるなど短期間で復活。そのポイントが顧客中心主義だ。

 同社は、わずか2%の顧客が40%の売上をつくる「上顧客」を軸とするビジネスモデル。その中心顧客は、年間25回買物し、実に2万7000ドル(約351万円)のお金を落とすという。ラムドンクCEOは「LTV」(顧客生涯価値)、「エンゲージメント」「顧客との関係性構築」が重要だと説く。これを実現するのが、チャネルを跨いだ顧客体験と、お客との関係性を構築する従業員。4000人いる販売員のうち1000人が年間100万ドルを売り上げており、コミッションフィー制度を導入し、成果に報いている。

レジレスストアか、スマートカートか

 顧客の店舗での買物体験向上のために、展示会ブースで見られたソリューションが、レジレス店舗(Autonomous Store)ソリューションとスマートショッピングカートだ。

 前者はアマゾン(Amazon.com)のジャスト・ウォーク・アウト(JWO)が代表例で、すでに外部の空港店舗などに導入されているが、NRFの会場の売店としても期間中特別に運営されていた。シースルー型の店舗で、ガラス面に大きく貼られた「Shoppingwithout the checkout」のスローガンがわかりやすく特徴を表す。

 そのAmazon AWSのブースでもJWOは展示されており、そこではクレジットカードを挿入するか手のひらをかざす生体認証デバイスAmazon Oneでの入場となっていた。

 マイクロソフト(Microsoft)ブース内で展示され、多くの人で賑わっていたのがポーランドの小売業ジャプカグループ(Żabka Group)によるコンビニエンスストアタイプのレジレス店舗「ジャプカ・ナノ」だ。ジャプカはレジレス店舗を約50店舗運用する欧州トップ企業。ジャプカ・ナノは、カインズ(埼玉県/高家正行社長)の無人店舗「CAINZ MobileStore」でもおなじみの米テクノロジー企業アイファイ(AiFi)とタッグを組んだもので、マイクロソフトのアジュールで動いている。

ポーランドの小売業ジャプカグループ(Żabka Group)によるコンビニエンスストアタイプのレジレス店舗「ジャプカ・ナノ」

 ジャプカ・ナノの買物方法はAmazon Goと同様。ペイメントカードをリーダーに読み込ませて入店後、欲しい商品を選び、そのまま店舗から出れば、その後自動的にペイメントカードから支払いがなされる。

 一方スマートショッピングカートについては、コロナ前のNRFでは日本企業Retail AI(東京都/永田洋幸社長)の出展以外は見当たらなかったものだが、今回は10社ほどが出展。食品スーパーやディスカウントストアがフルセルフレジを導入後、さらなる顧客利便性向上とオペレーション効率化のためにスマートショッピングカートが有望な選択肢となっていることが明らかになった。

 そのうちの1社が、AI搭載デバイスを開発するイスラエルのスタートアップ・ショピック(Shopic)だ。デバイスを取り付けるだけで既存のショッピングカートがスマートカートに早変わりする優れもので、コンピュータービジョン搭載のためお客は商品をカートに入れるだけで商品を検知、支払いまでフリクションフリーで完了することができる。

 こうしたなかRetail AIの永田社長は「プレイヤーが増えているということは、スマートショッピングカートが時流に乗っているということ。他社はさまざまな機能をつけすぎている印象で、シンプルで堅牢なRetail AIのカートに注目が集まっている」と語る。

来るか、「没入型リテール」の時代!

 最新テックについては、セッションでも取り上げられ、展示会でも目立ったのが「WEB3.0(ウェブスリー)」だ。ウェブスリーとはブロックチェーン技術を活用した分散型インターネットのこと。Googleなど支配的な影響力を持つプラットフォーマーを介さずに、分散型、自治型でコンテンツを運営し、コミュニケーションができるもので、普及が期待されている。

 「最先端」を表現するためにハイブランドなどが参入しているだけのように思えるかもしれないが、リテールイノベーションコンサルティング企業GDRのケート・アンケティルCEOは「ユーザーフレンドリーとオペレーション効率を両立する信頼できるソリューションが出てきており、『没入型リテール』のための手法が確立しつつある」と指摘する。実際、別のセッションでは、「ウェブスリーには多くの企業が参入している。Z世代など若者世代は広告は嫌いだが、ブランドのことは好きで、彼らは知りたがっている」との解説もなされ、新たな顧客開拓やブランディングの重要な拠点として活用が広がっていることがわかる。

 なお、ウェブスリー上でのロイヤルティプログラムに注目が集まっていることも付記したい。ユーザーのポイントやステータスなどに応じて実際に所有できる「ロイヤルティ・トークン」を販売・取引できる点が大きな魅力になっているようだ。

 このほか、「デジタルツイン」「メタバース」といったテーマのセッションも行われ、展示会では「メタバースコマース」「ソーシャルショッピング」なども見られたが、いずれもスタートアップが小コマに出展する「イノベーションラボ」コーナーでの展示がメーンだった。

さらに一歩踏み込むサステナビリティ

 最後に、忘れてはならないキーワードが「サステナビリティ」だ。社会問題へのスタンスの明確化や数値的目標への言及が近年増えていたが、NRF2023ではビジネスへの落とし込みが強くなされた。その象徴が、サステナビリティと成長の両輪を獲得できる「リセール」。これをテーマとするセッションが3つ行われ、そのうちの1つ「成功するリセールモデルの実践」は立ち見が出るほどの大盛況。NRFでは異例とも言える、活発な質疑応答が行われた。リセールの市場規模は年々急拡大しており、市場調査会社グローバルデータの調査によれば、22年度の米国リセール市場は対前年比43%増の200億ドル、26年には510億ドル*まで拡大することが見込まれており、参加者の本気度が伝わってきた。

会場の聴講者からも活発な質問が行われたリセールがテーマのセッション「成功するリセールモデルの実践」の一コマ

 サステナビリティについては、さらに一歩踏み込んだ提唱がなされた。それが「“自然”を取締役会メンバーに加える」というアイデアで、2つのセッションで掲げられていた。具体的には自然保護を専門とする弁護士などをボードメンバーに加えるというものだ。

*伝統的なthrift shopの売上を合わせたトータルの中古品流通市場の予測は820億ドル。

 まだまだ書ききれないことは多いが、このようにNRF2023では、米国を中心とする世界の小売業の将来を見据えた課題とその解決のためのヒントが数多く話し合われた。最先端のテクノロジーやまったく新しい考え方、という点では確かに今回のNRFでは控えめで、不満に感じた参加者も散見された。だが、NRF自体、新技術や革新の提唱→企業への落とし込み(実践)→改善・進化→そして新たな課題を前にした新技術の提唱、この一連の流れがスパイラルのようなかたちで繰り返し行われていくものだ。その意味でNRF2023も、意義深いものであったと言える。

Pick up

NRFに出展した日本企業❶
Retail AI永田洋幸社長

大手システムメーカー以外で出展していた日本企業を紹介。トライアルグループのRetail AIはNRFに出展、スマートショッピングカート(レジカート)を展示する。

Retail AI 永田洋幸社長

 NRFへの出展はコロナ直前の20年1月以来、今回で2回目。出展の目的は①海外市場でどこまで受け入れられるかを知る、②(増えている)競合メーカーを知る、③新しいテクノロジーを知る、の3つです。

 レジカートを開発する企業が増えており、時流に乗っていることがわかります。競合企業に対して、当社では「実用性」で差別化を図ります。当社のレジカートの強みはクーポン機能とコストが低い点、シンプルで壊れにくい点にあるからです。その点を、海外のお客さまからも高く評価してもらい、興味を持ってもらっています。お客さまは万引きやスキャン漏れなどロスの問題を気にしていますが、

 当社はすでに、“スキャン漏れ防止機能”を搭載するなど、随時改善を進めています。当社のレジカートは最初から完璧な製品をめざしているわけではなく、導入したお客さまと一緒に随時改善していくことを旨としています。スマートフォンなどのソフトウエアのアップデートと同じ発想です。このようにして、日本市場だけでなく、世界で当社のレジカートを普及させていきたいと考えています。

 日本では、デジタル・トランスフォーメーション(DX)といえばまだ緒についたばかりですが、世界の小売業ではすでに大幅な投資が進んでいることをぜひ日本の小売業の方には知っていただきたい。小売業にとってテクノロジーを入れなければ先が見えない、ただテクノロジーを入れてもそれをどう使いこなすかのチャレンジが続きます。だから、どう活用するかの最新の事例を、NRFに来ていただき、体感していただきたい。英語が不得意でも、空気を感じるだけでも重要だと思います。

Pick up

NRFに出展した日本企業❷
FUJIInnovation Lab.Director野際大介

FUJI Innovation Lab.は愛知県に本社を置く電子部品実装ロボット世界トップシェアのFUJIの社内ベンチャー。小コマが集まるイノベーションラボに出展、同社の狙いは?

FUJI Innovation Lab.が展示した自動搬送ロボット、Rally

 日本の小売業界の展示会にも出展したことはなく、今回のNRFへの出展が小売業界への初出展となります。カゴ車(商品運搬用台車)を店内の目的地点まで自動搬送するRallyを展示しており、ホームセンター大手のカインズさんと実証実験をしている製品になります。商品を載せて納入されたカゴ車にタグを貼り付けるだけで、ロボットが自動でカゴ車を認識し、店内の目的地点に搬送します。真っ暗な店内でも自動搬送できるので、営業終了後も使えるわけですが、営業中も安全に自動搬送してほしいというニーズが高まっています。棚までは入らないので、自動搬送後、従業員が補充するという流れになります。