イオン(千葉県/吉田昭夫社長)グループで、児童向けのアミューズメント施設などを運営するイオンファンタジー(千葉県/藤原徳也社長)が業績好調だ。コロナ禍の煽りを受け一時期は業績が低迷したものの、2023年2月期上期の売上高は対前期比24%増の350億円と前期実績を上回っている。本稿では、業績復活の要因とイオンファンタジーのウィズコロナ戦略を取材した。
クレーンゲームのプライズが業績復調をけん引
イオンファンタジーは、「イオンモール」などのショッピングセンター(SC)内で児童向けのアミューズメント施設やインドアプレイグラウンド(遊具や運動器具を設置した屋内施設)を運営する会社だ。
同社では「モーリーファンタジー」「スキッズガーデン」「キッズーナ」「PALO」とさまざまな屋号で店舗展開しており、たとえば主力のアミューズメント施設の「モーリーファンタジー」ではクレーンゲームやメダルゲームなどの各種ゲームを親子で楽しむことができる。「スキッズガーデン」は、まだ親離れしていない子供が一人で(スタッフのサポートを受けながら)遊ぶことができるプレイグラウンドだ。
2022年10月時点の国内総店舗数は579店舗で、中国やマレーシアなど海外にも433店舗を展開する。出店場所はイオングループの総合スーパーやSCなどが中心だが、「ニトリモール」「ヨドバシカメラ」などグループ外の商業施設に出店することもある。
SCやモール内に多く出店しているため、ここ数年の業績はコロナ禍の影響を大きく受けている。2021年2月期決算では売上高が対前期比37%減の大幅減収となり、74億円の営業赤字も計上した。だが直近の2023年2月期上期決算で、売上高が同24%の増収、営業利益2億9000万円と黒字化を果たしている。
イオンファンタジーの業績復調をけん引しているのが、クレーンゲームとカプセルトイの好調だ。とくにモーリーファンタジーなどで展開するクレーンゲームは、国内の売上高の約半分を占める。その要因として、「プライズ」の人気が大きい。プライズとはクレーンゲームの専用景品のことだ。
イオンファンタジーの管理統括下 広報・IR室長の圓藤芙美氏は、「いわゆる『推し活』の流行で、アニメのキャラやYouTuberのプライズの需要が増えている。当社が展開するプライズの中には、メーカーとの連携によるオリジナル商品もある。それを目当てにクレーンゲームに夢中になるお客さまも多い」と説明する。
イオンファンタジーのバイヤーは、お客の心を掴むプライズを展開するためにアンテナを張り巡らせており、これからヒットしそうな漫画やアニメなどを常にチェックしているという。
SNSを利用した情報収集にも余念がない。イオンファンタジーのTwitterアカウントのフォロワー数は45万超と、同業他社と比べて頭一つ抜けている。この影響力を生かし、フォロワーと直にコミュニケーションを取ることで、「推し活」の生のニーズを拾い、商品開発につなげているとのことだ。
Twitterならではの“ご縁”によって商品開発が進むこともあるという。たとえば、カルビーの人気スナック「じゃがりこ」の形を模した「じゃがりこリュック」は、Twitterを通じてカルビーの担当者とコミュニケーションを取り、コラボが決定した商品だ。
粗利益率の高いカプセルトイ事業も好調
コロナ禍でイオンファンタジーが出店を強化しているのが、「TOYS SPOT PALO」というカプセルトイを豊富に揃える専門店だ。コロナ禍以前のTOYS SPOT PALOの売上高は、イオンファンタジー全体の約2%しかなかったが、現在は倍以上に増えている。コロナ禍で1つの場所に長時間滞在することが敬遠されるなか、同社が展開する他の屋号の店と比べて滞在時間が短くて済むことからTOYS SPOT PALOはお客にとって足を運びやすいようだ。
さらに圓藤氏は、「プライズと同じく、『推し活』の盛り上がりの影響が大きい。TOYS SPOT PALO は200~300台のカプセルトイマシンを設置しており、豊富な作品をカバーしている。アイドルやアニメのキャラのガチャを、“出るまで回す”というお客さまが多い」と好調の要因を述べる。
狭い売場面積でも出店できる点もコロナ禍で追い風になった。モーリーファンタジーなどは約200坪のスペースが必要になるが、TOYS SPOT PALO は20坪あれば出店可能だ。コロナ禍で20坪程度の雑貨店やアパレル店の撤退が相次いでおり、TOYS SPOT PALOが出店可能なテナントスペースを確保しやすくなっている。
TOYS SPOT PALO1店舗当たりの売上高はモーリーファンタジーの4分の1程度とのことだが、利益率はTOYS SPOT PALOのほうが高い。固定費がほかの業態と比べて低いためだ。カプセルトイマシンはメーカーが用意するため、メンテナンス代がかからない。人件費もほとんど不要だ。主な固定費は家賃や両替機の電気代のみになる。
好調のカプセルトイと主力のプライズ以外に、今後はメダルゲームの売上を伸ばしたいと圓藤氏は話す。
「コロナ禍で売上が半減してしまったメダルゲームを早期に回復させたい。コロナ禍以降はメダルゲームを撤退する傾向にあったが、直近ではお客さまが戻りつつあり、今後さらに需要が回復すると見込んでいる。それに備えて、施設内にメダルゲームを置くスペースを確保するようにしている」(圓藤氏)
最後に、圓藤氏は「当社は“100円玉ビジネス”なので、増税に影響を受けやすい。少子化の問題もある」と嘆くが、「シビアな環境だが、競争を勝ち残り残存者利益を追っていきたい」と前向きな姿勢を見せる。