メニュー

ファーストリテイリングがグローバル化で追求する情報製造小売業の究極のカタチ

ファーストリテイリングはさきごろ、2021年8月期決算を発表した。売上収益は2兆1329億9200万円(対前期比6.2%増)、営業利益は2490億1100万円(同66.7%増)、税引前利益は2658億7200万円(同73.9%増)、親会社に帰属する当期利益1698億4700万円(同88.0%増)と増収・大幅増益だった。

コロナ禍でも圧倒的強さを堅持

 国内ユニクロ事業の売上収益は8426億円(同4.4%増)、営業利益は1232億円(同17.7%増)と増収増益。既存店売上高(Eコマースを含む)は、対前期比3.6%増の増収となった。海外ユニクロ事業の売上収益は9301億円(同10.2%増)、営業利益は1112億円(同121.4%増)で、こちらも大幅な増収増益となった。

 22年8月期は、売上収益2兆2000億円(同3.1%増)、営業利益2700億円(同8.4%増)、税引前利益2700億円(同1.6%増)、親会社に帰属する当期利益1750億円(同3.0%増)を見込む。

情報製造小売業とは、DXでSPAの理想を追求すること

 コロナ禍でも圧倒的な強さと安定感をみせつけた同社は今後、世界ナンバーワンブランドのポジションを視野にさらなるグローバル化を加速させる。推進力とするのは、同社が2017年以降プロジェクトを進める「情報製造小売業」としての理想形の追求だ。そのイメージを同社は次のように説明する。

 「無駄なものをそぎ落とし、自分らしい高品質な生活を実現する」「資源を有効に使い、余計な労働を生み出さない」「企画、生産、物流、販売などのあらゆる領域の無駄をなくし、お客様が本当に欲しいと思える商品を、お客様にとって最も便利で効率的な方法でお届けする」。

 「製造小売業」の強みに、新たに「情報」を有機的に組み込むことで、同社は製造小売業としての究極の姿を目指し持続可能な企業への変態を果たす。言い換えれば、製造小売業そのものとしてのDXだ。現在、グローバルで1.4億人、国内では延べ約5700万人のアプリ・EC会員を擁する同社。この強大なリソースを活用するだけでも、単なる製造小売業とは別次元のアウトプットや商流の構築が可能になる。すでに展開しているユーザーニーズに合わせた製品づくり、AIを活用した需要予測、メーカー側からのタイムリーで的確な情報発信、需要に最適化した流通網の構築など、顧客を起点にそれに紐づくあらゆる情報を製造プロセスにリンクさせることで、ムダやロスを極限まで排除。それにより需要や嗜好など多方面でより精度の高いマッチングおよび予測を実現可能になる。

循環型企業へ変態し、持続可能な製造小売業へ

 これらと並行し、同社は循環経済に向けた変革にも挑む。購入された商品を回収し、再利用。商品を作って購入してもらうという一方通行の事業領域から脱却し、“サステナブルな情報製造小売業“として循環経済の実現にも取り組む。大量生産・大量消費時代の次を見据えれば、いいものを適正価格で販売するというのはもはや必要最低条件でしかない。いかに無駄なく、いかにニーズに合わせ、さらにいかに再利用するかが、製造小売業として重要な差別化要因となる。グローバル化を加速させる同社は、そうした環境変化や社会的ニーズを強く意識している。

 「世界中のさまざまな国の固有の歴史や文化、習慣などを深く理解し、それぞれの国の社会の発展、人々の暮らしに貢献し、その国の皆様に最も愛され支持されるブランドになる」。同時に「事業を通じ、より良い世界をつくっていく」と高らかに宣言しているのがその証左だ。

 環境や社会に不利益をもたらすような行為や行動は徹底的に排除し、その上で企業として一定の利潤も追求する。理念が崇高なだけに少しでもほころびがみつかれば、大きなしっぺ返しが来る。グローバル企業を目指す過程で相手になるのはもはやマーケットでなく、社会全体といえるのかもしれない。

持続可能な成長スキームの確立がグローバルで成功する道

 品質と価格という二律背反を覆し、1990年代に躍進した同社が挑む「グローバル化と無駄の排除」の同時進行。難易度はさらに跳ね上がるが、柳井正会長兼社長の覚悟はそのはるか上を行っている。

 「扉を閉ざして成功した企業はありません。国を閉ざして繁栄した国もありません。特に日本人、日本企業は、こういう時代だからこそもっとグローバルに打って出て、世界中の志ある個人・企業と力を合わせ、お互いに利益があり持続可能な成長の仕組みをつくることが必要です。そこには、日本人、および日本という国の将来がかかっています。難しい問題は山ほどありますが、それ以外に日本の生き残る道はありません」

 同社が“究極の普段着”とする「Life Wear」が世界の普段着になるころ、どれほど世界が変わっているのか。もはやアパレル企業の次元を超えた壮大なチャレンジの行く末から俄然、目が離せない。