無印良品を運営する良品計画(東京都/堂前宣夫社長)は、2021年8月期(2020年9月1日~2021年8月31日)の連結業績を発表した。営業収益は4536億円(対前期比13%増)、営業利益は424億円(同154.8%増)、経常利益は453億円(同163.7%増)だった。堅調な国内事業に加え、海外事業の収益改善が進み増収増益を達成。親会社株主に帰属する当期純利益は、339億円で過去最高益となった(良品計画の20年8月期は6ヶ月変則決算、そのため記載の前期比数字は、過去の連結期間を組み替えた参考値)。
食品がけん引し、売上増を達成
コロナ禍で小売各社明暗が分かれる結果となっているが、同社は無難に乗り切ったといえそうだ。2030年8月期までに売上高3兆円を掲げている同社。コロナ禍が脅威だとしても、大きくつまずいてはいられない。
セグメント別でみると、レトルトカレーやバウムなどの食品が対前期比41.8%増で大幅に増加。衣料・雑貨、生活雑貨が横ばいの中、売上増をけん引した。海外事業は、東アジア事業、西南アジア・オセアニア事業が増収増益で、芳しくない欧米事業も赤字を縮小した。
「第二創業」で目指す売上3兆円へのロードマップ
同社が7月に発表した新中計では、最終年度となる24年8月期で売上高7000億円(日本4500億円、海外2500億円)、営業利益750億円、営業利益率11%、ROA・ROEともに15%以上という数値目標を掲げている。さらにその6年後となる30年8月期末までに、店舗数2500店舗、平均坪数550坪、EC比率30%を実現し、売上高3兆円、営業利益4500億円、営業利益率15%、ROA・ROEともに15%以上をめざす。
売上高ベースでは、21年8月期比で7倍近くになる数値目標をけん引するのは、9月に就任した堂前宣夫新社長だ。これからの9年を「第二創業」と位置づける同氏は、人口減少時代に小売に求められる多様な要素にしっかりと対応することで、壮大な数字を現実化する。
キーワードは「日常生活の基本を担う」「地域への土着化」の2つだ。「日常生活の基本を担う」は言葉通り、食品・雑貨、生活雑貨など、日常生活で必要となるあらゆるものを提供することで、地域に不可欠なスポットとなることだ。今後の国内出店戦略として、食品スーパーへの隣接型が約7割を見込むことに絡め、堂前社長はそのイメージを「生活の基本の商品だけでなく、サービスという面でもあらゆるニーズに応えられるコミュニティーセンターのようもの」と表現した。小売としての機能に併せ、健康相談やクリーニング、寺子屋的な教育提供など、お年寄りから子供までが必然として集い有機的に活用することで地域に不可欠な場とする。
それをより強固にするのが、「地域への土着化」だ。同社はすでに全国の各自治体との連携協定を着々と締結。あくまで自治体を主役に、同社が「巻き込まれる形で」地域活性化を側面サポートする体制を整備している。具体的には、熊本市では地下水都市の同市の水を店舗で提供を、山形県酒田市では同社社員による移動販売を、千葉県鴨川市では古民家のリノベーションなどを行い、小売としての役割を超えて地域に根を張り、活性化を促進することで新しい可能性を創出している。
地域の課題に踏み込むことで生活を包括サポート
今年5月にオープンした無印良品港南台バーズ店(横浜市)は、同社が目指す小売りの今後のモデルケースといえるだろう。閉店した高島屋港南台店に跡地に誕生した同店は、関東エリアでは初となる大型の食品売場を備え、百貨店閉店で手薄になった地域の食を支える。食品売場にはキッチンカウンターが併設され、レシピを紹介したり、入荷状況の報告などが行われる。さらに生産者による情報発信も定期的に実施される。
1階には「感じの良い暮らしをサポート」する「MUJI SUPPORT」も設置。部屋の模様替えや服選びなど、日常生活に関するやりたいことの相談に乗り、アドバイザーが親身にアドバイスする。さらに、子会社の「MUJI HOUSE」を通じ、近隣の老朽化した団地のリノベーションや部屋のプランニングを行うなどで、地域のリノベーションも計画。進む高齢化に対応し移動販売や出張販売も視野に入れ、文字通り地域に根ざしてその生活を支える。
生活必需品を販売するだけでなく、その先にある生活にまでかかわることで、顧客とのより深い関係を構築。同時に地域の資源や資産ともリンクすることで、地域の魅力も高めるーー。「2030年に3兆円」はとてつもなく高いハードルのようにも見えるが、地域と密接にリンクしながらの拡大戦略はやみくもに数字だけを追うアプローチとは一線を画しており、十分な現実味を感じさせる。
採用・育成を強化し、各店舗の自立を促す
もちろん、その実現にはあらゆる面でより高い水準が求められる。同社はまず、最優先課題として「採用・育成の強化」をあげている。「地域に密着して地域を活性化する、そういう会社になろうということは、ひとりひとりが自立的に自発的に正しいと思うことをちゃんと見極めて行動してしっかりと価値を出せる会社にならなければならない。人材・組織のプロ化が必要だ」と堂前社長は、社員個々さらに各店舗の自立の必要性を力説した。
西友のプライベートブランド(PB)からスタートし、破竹の快進撃で成長をみせ2000年前後には赤字転落。その後、松井忠三社長のもとでV字回復を遂げ「ブランドのないブランド」として確固たる地位を築き上げた同社。ここまで消費者へインパクトを与え続けて前進を続けてきたが、新社長のもと「第二創業」で目指すのは「社会へのインパクト」。モノを売るだけの小売から、その先の消費者の生活まで包括的にケアし、より良い暮らしをサポートする。
テクノロジーを最大限に活用し極限まで効率化する「無人店舗」を小売をひとつの究極形とするなら、その対極といえる「公益人本主義」で、同社は3兆円という大目標を真摯に追求していく。