社会貢献型ショッピングサイト「KURADASHI」。余剰在庫となった食品をメーカー等から仕入れ、ECを通じて消費者に販売し、同時に売上の一部を社会貢献団体に寄付する新たな流通スキームを確立。SDGs(持続可能な開発目標)の追い風も受け取引企業数・会員数を伸ばしている。
そのKURADASHIが、ECからリアルへの販路拡大を模索しているという。ECが好調な中、リアルでの販売を検討する背景とは?運営会社のクラダシ(東京都)社長の関藤竜也氏に尋ねた。
食品の余剰在庫問題に新たな選択肢「1.5次流通」
約600万トン――日本国内における一年間の食糧廃棄量で、国民全員がお茶碗一杯分のごはんを毎日棄てている量に相当するフードロスが毎年生じている。
この600万トンのうち、家庭から発生するフードロスはおよそ45%。残る55%が事業系のフードロスだ。
事業系のフードロスが生じる大きな要因は2つある。1つは、製造日から賞味期限までの期間を3等分して納品・販売期限を設ける、いわゆる「3分の1ルール」。賞味期限まで十分な期間があるにもかかわらず、3分の1を経過したものはそもそも取引の対象とされず余剰在庫となってしまう。
もう1つは、流通過程で発生するパッケージなどの汚れやキズ、規格外の食品は販売しないという、日本ならではの厳しい流通管理だ。
「日本の商習慣の中では、サプライチェーンの各過程で余剰在庫が生じてしまうのは避けられません。それを高いコストをかけて廃棄するか、激安スーパーなどのディスカウンターに卸すかしか、これまでは選択肢がありませんでした。そして多くのメーカーは、ブランド価値保護のため前者を選択せざるをえない現状があります」
食品メーカーをはじめ、サプライチェーンを形成する各社共通の悩みである食の在庫問題。そこに、新たな選択肢をもたらしたのがECサイトの「KURADASHI」だ。
各社から余剰在庫の食品を協賛価格で買い取り、最大97%オフで消費者に販売する。その売上の一部を社会貢献団体に寄付することで「在庫の解消」と「社会貢献」を両立する新たな流通スキームを確立した。2014年の創業以来、積み上げてきた社会貢献団体への支援総額は実に約6600万円にのぼる(2021年7月末現在)。
「メーカーだけでなく、消費者にとってもKURADASHIで買い物をすることがフードロス削減に貢献でき、さらに医療支援、海外支援、動物保護など、自分が選択した社会貢献団体への支援にもつながります。このように社会、環境、経済の三つの利益を両立した『三方よし』を実現するのがKURADASHIの『1.5次流通』のビジネスモデルです」
会員数は対前年比267%増!コロナ禍で注目が高まる
KURADASHIに対する注目をさらに集めたのが、20年からの新型コロナウイルスだ。21年7月時点の累計会員数は約24万人と、前年同月の9万4000人と比べ実に267%も増加した。
巣ごもり需要の高まりを受け、食品EC市場が拡大したことで消費者の認知度が高まったことが、需要サイドの要因だ。しかし、「それよりも供給サイドの要因のほうが大きいですね」と関藤氏は急拡大のキーファクターを明かす。
「全国の飲食店が経営自粛を余儀なくされたことで、食のサプライチェーンが寸断されました。飲食店に卸していた野菜、肉、酒類などの食品が一気に行き場を失ったのです」
一例として、東京オリンピック・パラリンピックの開催によるインバウンド需要を見越して多くの和牛が飼育されていた。生育期間が決まっている牛は1年、2年とストックしておくことができないため、どこにも卸せなければ泣く泣く殺処分せざるをえないという凄惨な実態がある。収穫した白菜やキャベツを農家が自らトラクターで潰しているニュースの映像も記憶に新しい。
「そこで、廃棄せざるをえない食品の受け皿として、KURADASHIに声をかけていただくことが増えたのです」
会員数の増加とともに、この一年で取引商品数も対前年比150%と急増した。 KURADASHIが、コロナ禍によって大打撃を受けたサプライチェーンの救世主となった格好だ。
リアルでの販売網を展開する理由は?
14年の創業以来、フードロスを解消する社会貢献型ショッピングサイトを確立し、順調な成長を果たしているクラダシ。関藤氏がいま見据えているのが、意外にもリアルでの販売網の展開だ。
21年9月に東京ソラマチで開催されたSDGsイベント期間中に設置されたポップアップショップ「ecoselect POPUP SHOP~ゴミとサンゴとわたしたち~」。その一角で、クラダシが販売する缶詰やお菓子などの食品や化粧品が並んだ。
「ショップを企画・運営するドリームパートナーズ社の、海の環境保護を訴えるメッセージに賛同し、商品を置かせていただきました。フードロス問題への認知を広げるため、パネル展示も行いました」
主軸のEC事業が好調なようにみえるが、このタイミングでリアルでの販路を模索する背景にはどんな事業課題があるのだろうか。そのことを問うと、「いえ、事業課題という点ではどうしてもリアル販売をやらなければならない理由はありません」と関藤氏は答える。
「当社の事業課題だけを考えるのであれば、ECの会員数を増やすことに注力したほうがいい。でも、事業課題ではなく社会課題としてとらえると、フードロス問題を一人でも多くの人に知ってもらわなければなりません。そのためにはKURADASHIを知らない層、サイトを訪れない層にもリーチするための手段を考える必要があるのです」
SDGsの目標の一つ「12 つかう責任つくる責任」のターゲット12.3は、次のように定められている。
<2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる。>
そのターゲットの達成を考えると、今のEC事業だけでは間に合わない。より多くの人にフードロス問題を知ってもらうチャネルが必要だ――それが、関藤氏の言う「社会課題」なのだ。
「フードロスの問題を訴求するためのチャネルは、多いに越したことはありません。そのチャネルのひとつがリアル、ということですね。今回の東京ソラマチでのイベント出店でも、お客様の反応など様々なフィードバックが得られ、テストマーケティングとしてもいい機会になりました」
IPOも視野に「1.5次流通」をさらに進化
ECからリアルへと販路を展開する中で、「消費者との接点を持つ小売業の皆さまともWin-Winの協業を構築していきたい」と関藤氏は意気込む。
「たとえば、食品スーパーも同様に余剰在庫の問題を抱えています。しかし、賞味期限が近付いた商品を安売りで販売すると、そのスーパーのブランドを毀損しかねません。そこで、クラダシが余剰在庫を引き受け、『社会貢献団体への寄付』のスキームを通して販売することで、社会貢献の形で在庫を解消し、風評リスクを避けるお手伝いができると考えています」
さらに、食品業界にとどまらず、百貨店や不動産など様々な業務提携の可能性を模索している。2021年10月22日からは、「丸井錦糸町店」の店頭で「食品ロス削減月間」に合わせた「KURADASHIフェア」を開催する。
「SDGsの機運が高まる中で、何に取り組むべきか悩んでいる企業は少なくありません。そこに対して、クラダシがフードロスの削減や未来のエシカル消費につながる形で、企業のサステナビリティへの取り組みを支援できる余地はあると考えています」
2019年には食品リサイクル推進法が制定され、食品・小売業界全体にとってますます看過できなくなったフードロス問題。社会的な関心も高まる中、クラダシは2020年にIPOを目指すことを公言し、この先を自社の「第二創成期」と位置づける。社員数もこの1年でほぼ倍増するなど組織体制も大幅に強化した。
主軸であるEC事業でさらなる成長が期待されるクラダシ。加えて、今後はリアルのマーケットでどのように「1.5次流通」の形を進化させていくのか。そこにも注目だ。