コンビニチェーンの“鉄の結束”が綻び始めている。ローソン(東京都)、ファミリーマート(同)に続き、セブン-イレブン・ジャパン(東京都:以下、セブン-イレブン)も2020年5月に全店で値引き販売を実施。21年8月末の日本経済新聞の報道によると、従来は事前申請が必要だったところを店の判断で自由に値引きをできるシステムを取り入れたという。コンビニの父、現セブン-イレブン名誉顧問の鈴木敏文氏が権力の座にあったならば絶対に認めないはずであったであろう値引き販売を、セブン-イレブンはなぜ認めることにしたのだろうか。
商品が「多いくらいが丁度いい」理由
「値引き販売」と「仕入れ」はセットで考えなければならない。仕入れる量が多ければ、値引き販売が多くなるはずであり、逆に仕入れ量が少なければ、当然、値引きも少なくなる。しかしコンビニの父、鈴木敏文氏は「どうしても消費者は商品が少ないと売れ残っているとみてしまう」とし、店舗に対しては値引きを恐れない積極的な販売を推奨した。
鈴木氏はかつて、「逆に(商品が)多いと(消費者は)安心して買っていく」という発言も残している。
良くも悪くも、コンビニの運営は消費者との心理戦である。棚にたくさんの商品があれば安心感が生まれ、お客は躊躇なく商品を手にする。しかし、棚に商品が残っていないと、「仕入れを絞っているのではないか」「古くて売れ残ったものを売っているのではないか」といった疑念が頭をよぎる。だから、「多いくらいが丁度いい」という理屈になる。
店舗の運営・経営を監督するスーパーバイザーが機能しているエリア、店舗では、こうした体制により、大きな売上をあげることができるだろう。しかし未熟なスーパーバイザーが管理しているエリアでは、品切れが頻発し、消費者は「ここはいつ来ても品切れしている」と感じ、去ってしまう。近くに競合のコンビニがなければ、そのようなお客もまた来店するかもしれないが、競合店が激しい地域で品揃えが当てにできないとなれば、お客の足は遠のいてしまう。
そうした状況を避けるために、鈴木氏は前出のような発言をしたのだろうと推察できる。だが今回の対応は、公正取引委員会が「事実上、セブン-イレブン側が値引きを制限している」と判断し、自由に値引き販売をできるように求めたとみられている。
値引き販売を躊躇させる苦い経験
その一方で、あるフランチャイズオーナーは「そう簡単に役所の思うようにいくとは思えない」と話す。セブンは公取委の意向に従いつつも、値引きの「害悪」を加盟店に口が酸っぱくなるまで伝えていることに変わりはない。
思い出されるのは、苦い過去の経験だ。米国のフランチャイズ店では、商品が売れ残るとすぐに値引き販売をしてしまう。値引き販売をすると商品は廃棄にならず、フランチャイズオーナーの実入りも増える。ただ、これにより、「売れ残ったら同じようにまた値下げして売ればいいんだ」という考え方が広がっていく。その結果、米コンビニチェーンは泥沼の価格競争に突入し、疲弊していくことになった。
そんな轍を踏まないように、コンビニ経営では「値引き販売は害悪である」という教訓が貫かれている。多くの加盟店オーナーも、「値引き販売しても信頼を落とすだけで、ストアロイヤリティの向上につながらない。むしろ、ストアロイヤリティを落とすだけだ」ということを理解しているはずだ。
値引き販売の是非をめぐっては賛否が分かれるところだろう。商売を営む人にとって「儲け」は必要ではあるが、それが過剰になるのもよしとされない。適正な範囲で儲けてこそ、継続する商売といえるのではないだろうか。