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コロナ禍なのに好調なアパレル「ミズイロインド」、異色のブランド戦略

コロナ禍の影響を大きく受けるアパレル業界の中で、「mizuiro ind(ミズイロインド)」などのレディースブランドを中心に展開するマザーズインダストリー(大阪府/笹野信明CEO)が好調だ。2020年11月にリニューアルしたアプリは会員数が3万人を突破した。サイズはほとんどがフリーのワンサイズ。カラーも2~4色に限定するなどユニークな商品展開を行っている。特に40代から50代女性の根強い支持を集める、そのブランド戦略とは。

年齢ターゲットを決めない「ノーエイジ」がコンセプト

ミズイロインド2021年秋冬のイメージビジュアル

 旗艦ブランドの「mizuiro ind(ミズイロインド)」を筆頭に、「MidiUmi(ミディウミ)」「MIDIUMISOLID(ミディウミソリッド)」といったオリジナルブランドを展開するマザーズインダストリー。「MARcourt(マーコート)など自社で運営するショップは北海道から九州まで50店舗以上を構える。

 2020年9月には公式ECサイト「MARcourt ONLINE STORE」、11月にはアプリ「Mpasscase(エムパスケース)」を全面リニューアル。アイテム数を大幅に増やすことでアプリ会員数は3万人を突破した。長引くコロナ禍にあって、ECとアプリの好調が同社の経営を支えている。

 レディースブランドを中心に、ワンピースやシャツなどシンプルで新しいジャパニーズトラッドを感じさせるアイテムが並ぶ。価格帯もワンピースで1万円代と比較的手ごろだ。

 17年前のブランド創設当初から、“エイジレス”、“シーンレス”、“シーズンレス”、“ジェンダーレス”をテーマにものづくりを進めてきたこの考え方は今でこそ広がりつつあるが、いち早くその発想をブランドの核に置いてぶれずに歩んできた。その姿勢が少しずつ共感を呼び、ファンを増やしていったことが、非常時においても好調が続く一因かもしれない。

 動きやすいゆったりとしたシルエットは着る人を選ばず、40代、50代を中心に根強いファンが多い。中には一つのアイテムを何着も購入するコアなファンもいるという。

 「アプリ会員の年齢層でもっとも多いのが40代。次いで50代、30代となっているようです」そう話すのは、創業者で代表取締役の笹野信明氏。各ブランドのディレクションとマーチャンダイジングの陣頭指揮を執る。

 4050代という年齢層から支持を集める背景には、どんなマーケティング戦略があるのだろうか。

 「そもそも、創業時から『ノーエイジ』をコンセプトにしてきており、特定の年代をターゲットに設定しているわけではありません。ふたを開けてみたら4050代の方が多いという状況です」(同)

ワンサイズ展開、カラーもあえて限定

ミズイロインド 神戸店の店内

 もうひとつ、ミズイロインドのユニークな特徴は、アイテムのサイズとカラーにある。パンツなど一部を除いて、ほとんどがワンサイズのみの展開だ。

 デザインごとのカラー展開もブラックやネイビー、グレーといったベーシックな24色に限定されている。サイズ・カラーともに絞られているのだ。

 在庫管理をしやすくするためか、それともECでのコンバージョン率を高めるためにサイズやカラーをあえて少なくしているのだろうか……

 「たまたまECにフィットした側面はあると思いますが、決して狙ってそうしたわけではありません。私たちが作りたい服は『年齢、サイズ、シーンを問わない服』。そこは創業以来一貫しています。それを追求した結果、サイズやカラー展開が少ないのです。またサステナブルの観点からも、在庫を抑えたいと考えています」(同)

 もともと別のアパレルメーカーでマーチャンダイジングを担っていた笹野氏。「若い頃から年齢でファッションを語ったり服を作ることに違和感をおぼえていました」と言う。

 「『年齢ターゲットなんて意味あるんですか?』みたいな口をきいては、先輩から『お前はマーケティングのことがわかっているのか!』と怒られていました(笑)」(同)

 2003年、同僚だったデザイナーの川原みな子氏を誘い、マザーズインダストリーを創業。翌2004年に川原氏のデザインによる「mizuiro ind」を立ち上げた。

顧客との強いエンゲージメントがコロナ禍での強さの秘訣

ミズイロインド 神戸店外観

 笹野氏が、データやマーケティングよりも一貫して大切にしていることがある。それは「関わるすべての人が満足できるかどうか」だ。

 「デザイナーの川原は、服のデザインを考える際に『スタッフとお客さまが店頭で笑顔になっている瞬間を思い浮かべている』と話しています。これが流行っているから、ではなく、常にお客さまのことを考えてものづくりをしています」(同)

 その笹野氏と川原氏の思いが「ファッションで人を笑顔にする」という同社のフィロソフィーとなり、社員に共有されている。言葉にするときわめてシンプルだが、その思いがマーチャンダイジングから販売まで、すべての社員の行動原理となっている。

 そのフィロソフィーが社内に浸透していることが、奇しくもこのコロナ禍で再確認できたと笹野氏は言う。「店舗で買い物をすることにまだストレスを感じるお客さまもいるのでは、と思い、一部のお客さまにオンラインでの販売を提案してみたことがありました。すると、逆に馴染みのショップスタッフの状況をご心配くださり、わざわざ店舗まで来てくださったのです」

 スタッフの思いは日々の接客に表れ、顧客との間に強いエンゲージメントが生まれる。そのエンゲージメントの強さが、コロナ禍という危機的な状況下にあっても、すぐに客足が回復し、好調を維持できている要因なのだろう。

 さらに、対顧客(BtoC)だけでなく、同ブランドを扱う全国100あまりの卸し先店舗との関係づくりにも、笹野氏の経営哲学が表れている。時には卸先のセレクトショップの近くに直営店を出店することもあるが、「取引先のショップとは、決して同じエリアで競合するのではなく、ブランドを多くの人に知ってもらえるよう協力し合える『共存共栄』の関係を築けるよう努めています。結果として、同じエリアに出店してもお互いに売上が上がり、結果的に『ドミナント効果』が得られています」(同)

「自分がやりたいと思うかどうか」に忠実に

 他のアパレルメーカー同様、マザーズインダストリーも、20204月、5月の売上は緊急事態宣言を受け大きく落ち込んだ。ところが「マーチャンダイジング部門の素早い動きで影響を最小化できました」と笹野氏は語る。

 「当社では普段からサステナブルな取り組みとして“在庫ゼロ計画”を掲げ、余剰な在庫を抱えないマインドが全社に浸透しています。緊急事態宣言の時もマーチャンダイジング部門が週単位で品番別の売上シミュレーションの精度を向上させ、その新しいシミュレーションに沿って適切に納品を行うことができたのです」(同)

 社員一丸となって在庫リスクを最小限に食い止めたことで、自粛期間のピンチを乗り切り、7月からは業績が再び黒字に転じた。そして9月にはECサイト、11月にはアプリの全面リニューアルという「攻め」の一手を打ち、リアル店舗の売上の落ち込みをカバーした。

笹野信明代表取締役

 笹野氏は繰り返し、「マーケティング戦略だけではなく、常に『自分がやりたいと思うかどうか』に従って意思決定してきました」と強調する。「ショップの出店を決めるのも、商圏分析はもちろんですが、それだけではなく感性やマインドが大切。その地域や商業施設の方の『ぜひ出店してほしい』という思いを受け、心が動いたら出店を決めています」

 実店舗については、このコロナ禍にあって、神戸・三宮に西の旗艦店となるミズイロインド 神戸店のプロジェクトを進めていた。昭和初期から残るレトロビルのリノベーション計画の一環だ。ビルオーナーの思いを汲み、笹野氏が決断したミズイロインドの新ショップは、20218月18日に無事グランドオープンを迎えた。古い意匠を残しながら最新ファッションと融合した空間は、地元の建築ファンからも注目を集めているという。