メード・イン・ジャパンのファッションを揃えるTOKYO BASE(東京都/谷正人CEO)は、大都市圏の中でも、首都圏・京阪神・名古屋の3エリアに絞って、リアル店舗を出店するという独自路線を貫く。その一方、香港や上海、北京など中国圏の大都市で出店を加速。さらに、ニューヨークやパリなど欧米のファッション中心地への進出を狙うなど、コロナ禍にもかかわらず、「日本発を世界へ」とのミッションのもと、グローバルへの事業展開を意欲的に進めている。
人口が減らず、所得水準や感度も高い大都市圏に絞り込む
「メード・イン・ジャパン」のファッションに特化、ほかの大手セレクトショップとは一線を画す品揃えで、流通業界に旋風を巻き起こしているTOKYO BASE(東京ベース)。チャネル政策においても、独自の戦略を貫いている。
国内のリアル店舗(連結)は2022年1月末で、セレクト業態の「STUDIOUS(ステュディオス)」が29店舗、モードラインの「UNITED TOKYO(ユナイテッド・トーキョー)」が12店舗、カジュアルラインの「PUBLIC TOKYO(パブリック・トーキョー)」が10店舗となる見込み。そのほか、新業態であるアスレジャー3店舗、大人向けセレクトショップ2店舗も、戦線に加わる予定だ。
リアル店舗の国内出店は大都市圏、しかも、首都圏、京阪神、名古屋の3エリアに絞り込んでいる。札幌や福岡などには出店しないのかと尋ねると、同社取締役CFO管理本部長の中水英紀氏は、次のように説明する。
「日本は少子高齢化が続いていますが、3エリアは当面、人口減が起こらないし、若年層も多い。それに、所得水準も、ファッション感度も高い、当社がターゲットとしているお客さまが集まっています。したがって販売効率が高いわけです」
コロナ禍のあおりを受けて、営業時間短縮の要請が増え、家賃も高い大都市圏では、大手セレクトショップの店舗閉鎖が相次いでいる。ところが、そうした流れに逆行して、同社は出店攻勢を止めようとしない。2022年1月期には、なんと国内11店舗の新規出店を計画しているのだ。
「今は出店のチャンスなんです。平時では確保が難しい好立地に空きが出て、家賃水準も下がっていますから」と、中水氏は明かす。
ECでは地方客の利用が急増
出店エリアを厳選しているだけに、坪効率をどうやって高めるかがカギになる。同社は、スタッフの営業力アップにも注力している。
例えば、販売スタッフの売上実績は、トップから最下位まで全員公開される。成績が上位のスタッフは、賞与などのインセンティブが多い一方で、成績が下位のスタッフは、ボーナスゼロも当たり前というシビアさだ。
LINEで、得意客とコミュニケーションを取ることも、制度化されているそうだ。「お客さまとマメに連絡を取っているスタッフのほうが、営業成績がいいからです」(中水氏)。また、販売の成功事例だけでなく、失敗事例まで、社内SNSで情報共有しているという。
一方で、コロナ禍の影響もあって、ECも順調に伸びている。2021年2月期の全社EC売上高は59億9600万円(前期比6.5%増)に達する。
中水氏は、「当社の主客層は20~30代なので、ECにシフトしやすかったのでしょう。とりわけ、リアル店舗を3エリアに集中しているため、地方のお客さまのご利用が急増しています。追い風を受けた格好ですね」と、笑みを見せる。
ECモールと自社サイトが主力だが、最近は自社サイトの育成にも力を入れている。全社EC売上高に占める自社サイトの割合は現在、3割弱だ。
「ECモールは、幅広い客層にリーチできるといった利点もありますが、自社サイトは、ブランドコンセプトを伝えやすいし、顧客情報をダイレクトに100%取得できるといった、メリットが大きいのです」(同)。
日本ブランドは中国の富裕層に大人気
同社のもう一つの大きな特徴が、海外での事業展開の強化だ。「日本発を世界へ」を旗印に、海外でもラインアップは100%日本製とし、独自性を打ち出す。そうした日系のセレクトショップは、「当社だけと言ってもいいでしょう」と、中水氏は胸を張る。
2021年2月末には、13店舗の海外店舗を展開。そのうち、10店舗を中国、3店舗を香港に出店している。中国本土でも、出店エリアは、北京、武漢、成都といった大都市圏限定だ。それにしても、なぜ中国圏に集中出店しているのか。
「経済成長著しく、巨大な人口を抱える中国は、すでに1億人の富裕層がいるともいわれています。中国人にとって日本は先進国であり、日本ブランドも欧米ブランドと同じように評価されます。中国の富裕層は、目が肥えていて、ファッション感度も高まっているんですね。日本ブランドは、内外価格差があって、日本よりもプライスラインがかなり高いのですが、それでも欧米ブランドより割安。しかも、中国人の体型に合っているので、人気が急上昇しているんです」(同)。
興味深いのは、中国では「ヨウジヤマモト」といった別ブランドの店舗も運営している点。同社が商品を仕入れ、同社のスタッフが販売するのはセレクト業態と同じだが、ワンブランドのみの取扱いなので、外見は“オンリーショップ”なのだ。
「中国の代理店を通すよりも、当社に現地での販売を任せたいという日本の百貨店さんやメーカーさんが、実は、相当多いんですね。当社にとっても、リスクはあるのもの、利益を総取りできるし、海外店舗運営のノウハウがたまるといったメリットも大きいんです」(同)。
中国圏の売上高は、2020年には約7億円だったのが、2021年には約30億円と急増。「香港問題といったカントリー・リスクはあるものの、今後も成長市場と見ています」と中水氏。2022年1月期にも、中国本土では深圳、北京、上海、広州など9店舗の新規出店を計画中で、中国事業はさらに大幅に拡大する見込みだ。
それだけではない。米国のニューヨークやロサンゼルス、英国のロンドン、フランスのパリ、イタリアのミラノといった欧米のファッション中心地への進出も、虎視眈々と狙っている。「欧米市場の足がかりとして、まずは2年後をメドにニューヨーク、パリへの出店を目指します」。一方で、日本ブランドが馴染みやすいアジアでも、シンガポールなどの富裕層の多い大都市圏には、進出する可能性が高いという。
売上高1000億円を掲げる同社の中期計画では、海外事業規模を400億円以上としている。メード・イン・ジャパンのファッションを武器に、グローバル市場に打って出る“若きサムライ”の活躍ぶりに、今後も目が離せない。