メニュー

ベルーナ 取締役専務執行役員 安野 雄一朗
“いまでもカタログ起点”が差別化のポイント

カタログ通販の売上を堅守しながら、新たな領域にも積極的に投資を続けるベルーナ。同業他社がECシフトを鮮明にしながらも苦戦する中、同社はM&Aでカタログ通販を強化し、他を圧倒する売上を叩き出している。その強さの秘密はどこにあるのだろうか。専務執行役員の安野雄一朗氏に話を聞いた。

頒布販売からカタログ通販へ ベルーナの始まりとは

──現在、カタログ通販業界で成長著しいベルーナですが、まずはその沿革についてお聞かせください。

安野 雄一朗(やすの・ゆういちろう)
●1976年、埼玉県生まれ。1999年、横浜国立大学経営学部会計・情報学科卒。2001年、横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程前期修了。国際証券株式会社(現三菱UFJモルガンスタンレー証券株式会社)を経て、04年カタログ通販最大手の一つ株式会社ベルーナ入社。13年 取締役兼常務執行役員、16年取締役兼専務執行役員(現任)

安野 当社は、新聞の折り込みチラシを中心とした通販業が発祥で、カタログ通販を開始したのは1983年からでした。今でこそニッセンや千趣会と比較されることがありますが、当初はカタログ通販を行っていたわけではなく、通販というより、頒布会のようなビジネスを行っていました。

 カタログ通販に乗り出したのは、チラシを活用した販売によって集まったお客さまのデータベースを活用するため、自然発生的な流れだったと聞いています。

 通販を開始した当初は、「一回注文をいただいたら定期的に届ける」という頒布販売のような内容でしたが、1980年代後半からは、現在のような一般的な通販へと切り替えていきました。

──現在はECにも力を入れているようですが、媒体ごとの売上や利用者の年齢層はどのような構成になっていますか。

安野 新聞の折り込みチラシを中心に顧客開拓をしていったこともあり、50~60代の主婦の方が中心です。特に、60代がボリュームゾーンとなっています。

 売上構成比については、カタログ通販が8割近くに上ります。紙媒体、つまりカタログからの売上が多いのが実情ですが、カタログで商品をご覧になって、ECで購入するというお客さまも増えてきているため、どちらかを明確に分けることはできません。現在のEC比率は、高めに見積もると20%程度ですが、その中にはカタログをご利用いただいているお客さまも一定数含まれています。

ECでは探せない 中高年向け商品で勝負

──個人向けのカタログ通販事業の業界が低迷する中、ベルーナとしての差別化はどういった点にあるのでしょうか。

安野 “いまでもカタログを起点にしている”点が明確な差別化だと言えます。つまり他社が一気にチャネルシフトを進めるなか、私たちがターゲットとしている客層や、そのお客さまが接しているメディアが異なっていると思います。

 最近では、60代の方も年を追うごとにPCやスマホを利用される方が増えてきている状況ですが、それでも15%程度と言われています。他の客層や取扱商品のマーケットであれば、EC比率はもっと増えてきていると思いますが、私たちの場合は、そういったターゲットとは異なる層に向けて、ネットでは探しにくい商品を提供していると考えています。

 中高年の方々が欲しい商品というのがネットではなかなか探せないため、当社のサービスをご利用いただいているのではないでしょうか。

──あえて、EC化を急がなかったからこそ、差別化できていると?

安野 ある意味ではそのとおりです。現在は、ネットを活用することでいろいろな商品を広く集めることができてしまいます。その一方で、インターネットから得られる情報が非常に豊富なため、こだわった商品を探すことがかえって難しくなってきています。そのため、一つのジャンルを深掘りする、専門型のメディアが求められるようになってきているのではないでしょうか。

 総合型だけでは、「Amazon」や「ZOZOTOWN」に勝つことが難しい一方で、MonotaROや、ジャパネットたかたなど、尖った企業の業績がいい傾向があります。特徴や専門性、深みを持っているかが、勝ち負けを左右しています。

 1995年の「Windows95」登場時から、「今後インターネットが普及したらカタログがなくなる、電子化は避けられない」と言われていました。約20年経ちますが、未だにカタログ通販で多くの注文をいただいており、そのうち8割が売上を生み、成長している状況です。

 つまり、紙や電子といった、メディアだけで売上が決まるとは言い切れないのではないでしょうか。

 たとえば、ある企業がWebにシフトする場合、転換期では良い数字が出ていたとしても、そこで大きな波に堪えきれなくなると、数年単位で見ていくとお客さまが減ってしまうこともあります。

 Webメディアを「ただの道具」として使うだけでは危険で、やはり中身が伴わないと、売上を減らす原因になってしまう恐れがあるのです。

各媒体で独立採算 構想意識の高さが強み

──現在は、幅広い客層に向けて様々なカタログを提供していますが、媒体はどのように制作されているのですか。

安野 通信販売は、お客さまの人数と、そのお客さまが買っていただける金額の掛け算で決まります。そのため、より多くのお客さまに、より多くの商品を購入していただけるように、お客さまの開拓と商品の充実に力を入れています。

 媒体の種類としては多く、メーン媒体としては20媒体、そのほかを加えると100以上制作しています。

 媒体別の売上規模は、「ベルーナ」が年間150~200億の売上で全体の約1割。「ルフラン」は120億程度で、30代をターゲットにした「ラナン」が80億円程度となっています。

 「ベルーナ」「ルフラン」といったカタログ単位でブランドを立てており、ターゲットごとに、年代、商品カテゴリーで分けて制作し、お申し込みがあったお客さまのニーズや情報に合わせて、複数のカタログをまとめてお届けしています。

 たとえば、こちらで想定していた読者層と、実際にお客さまが興味をお持ちになるカタログが完全に一致するというわけではありません。お客さまの好みで商品を買われる傾向が強いため、設定している対象年齢は、あくまで目安として提供しています。

──売れ行きが高いのは、シーズンものの商品、ロングセラー商品のどちらですか?

安野 各カタログでは、おおよそ1000点程度の掲載商品のうち、7割程度が定番商品、3割がチャレンジ商品にすることを基本ポリシーとしています。

 最近では、秋冬の「裏ファーシリーズ」がずば抜けた売れ行きでした。多いときは1商品で年間20万本売るシリーズになった、当社の商品の中でも代表選手と言える存在です。こういった商品は非常に稀で、基本的には1型あたり1000程度の売上本数がある商品が中心となっています。

 商品点数は1媒体あたり1000商品程度で、こちらは物流センターのキャパシティの問題もありますので、このくらいの水準をキープしていきます。

カタログ、リアル店舗、EC 今後はオムニチャネルの構築へ

──2012年から実店舗を出店されていますが、どのような経緯がきっかけとなったのでしょうか。

安野 もともと、お客さまや株主から、リアル店舗に対する強い要望をいただいていたことがきっかけでした。何回かチャレンジをした中で、2012年から宇都宮で開始した実店舗では、主力級のスタッフを集めて本気で店づくりを行いました。紙媒体の質感を店舗でも出すためにライティングや展示方法などもこだわり、カタログで購入いただけない客層にもリーチできるようになりました。

 リアル店舗はショッピングモールを中心に、80坪程度の敷地面積で展開しています。お客さまの年齢層は、「ベルーナ」の利用者と比較し10歳程度、実店舗の方が若い印象です。

──今年5月には、呉服専門店のさが美グループホールディングスの買収を発表されました。このねらいについてお聞かせください。

安野 呉服業界は減少傾向にあると言われていますが、激減しているのは、作法や着こなしなどが問われる正式な着物の市場です。気軽に着ていただく呉服については、まだまだ需要があると考えています。

 当社では、和雑貨なども含めて「和装事業」として総合的に展開していく予定です。いわゆる呉服だけではなく、着物を着ていない人に着物を着ていただくようにしてマーケットを広げていきたいと考えています。

──最後に、今後の展開について教えてください。

安野 新聞購読者数が年々減っているので、折り込みができる量が徐々に減ってきているのは事実です。主要顧客層についても、将来的にはネットへのシフトをしながら、伸び代のある若年層や男性を中心に、徐々に年齢層を拡大していきたいと考えています。

 カタログやチラシだけではなく、商品中心に、ネット、店舗、チラシのどこからでも買える、というようにイメージの刷新を図っていく予定です。