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人口減少時代、スーパーの定番手法は間尺に合わなくなる!いまやるべき3つの具体的投資とは

人口減大

遠くない未来、日本全域が人口減少地帯へ

 総務省が2020年8月に発表した同年1月1日時点の住民基本台帳人口(※注1)は、1億2713万8033人。内訳は、日本人住民は対前年比50万5046人減となる1億2427万1318人(同0.40%減)、外国人は同19万9516人増(同7.48%増)の286万6715人だった。

 日本人住民の人口は、09年をピークに翌10年から11年連続で減少、現行調査が始まった1968年以降では最大の減少数となっている。

 日本の人口が右肩上がりだった時代は、もう一昔以上前のこと。毎年報じられる減少のニュースを耳にしても、それほど驚きを感じない人は少なくないはずだ。

 しかし今の日本の状況は、人口減少のほんの序章にすぎず、長期的にはさらに加速する。

 国立社会保障・人口問題研究所がまとめた2017年推計(※注2)によると、29年に人口1億2000万人を下回った後も減少を続け、53年には1億人を切って9924万人、65年には8808万人になると予想されている。

 背景にあるのは少子高齢化、とりわけ高齢化の進行は顕著だ。人口が減り続けるなか、65歳以上の比率である高齢化率は年々上昇し、36年には33.3%、国民の3人に1人が高齢者となる。42年以降、65歳以上の人口自体は減少に転じても高齢化率は上がり続け、65年には38.4%に達し、国民の約2.6人に1人が65歳以上になると推計されている。

 日本で最も人口が集中する東京都でも、25年の1417万人をピークにその後は減少基調、60年には1192万人になるとの見込み(東京都調べ※注3)である。日本全域が「人口減少地帯」となるのは、そう遠くない。

“間尺”に合わなくなるSMの定番手法

 食品スーパー(SM)業態が日本に誕生してから約70年が経とうとしている。生鮮食品のほか日配品、加工食品など、食卓に並ぶ食材を提供する重要な役割を果たしているのがSMである。われわれの生活に浸透し、不可欠なインフラとして機能している。

 振り返れば、SMについてはこれまで数々の運営手法、ノウハウが開発されてきたが、多くは人口が増加していた時代に編み出されてきたものだ。つまり需要や市場が拡大することを前提にしているといってもいい。

 たとえばマーケティング分野、もしくは価格政策の「ロスリーダー戦略」。特定の商品において採算を度外視した低価格を設定して集客、大量販売する方法である。効果を狙って価格弾力性の大きいアイテムを選び、目当てに来店したお客がほかの粗利益率の高い商品を買うことで店全体の利益に結びつける。

 人口が年々、増えている時期には、市場全体の需要が拡大しているため有効で、繰り返し行うことにより、着実に大きく利益を上げることができた。近年はEDLP(エブリデー・ロープライス)に移行するケースが少しずつ増えてはいるものの、かつての成功体験から、今もハイ&ロー価格政策を主力にしている企業は多い。

 精肉、鮮魚などの生鮮食品や、弁当、揚げ物といった総菜の「インストア加工」も同様だ。売上高が伸長している時期には多くの人手を投入することもできた。一方では鮮度を最優先するため、最終消費地に近い場所にある店内で商品のカットや調理を行ってきたという面もある。

 しかし冷凍・冷蔵、加工技術、物流分野ではコールドチェーンなどの進化はめざましい。消費者の家にある冷蔵庫も変化しており、同じサイズであっても大容量化するほか、鮮度を保つためのさまざまな新機能が次々と搭載されるようになっている。

 SMでは、家庭での優れた保存環境を想定した商品開発、提案があってもよさそうに思うが、今も昔ながらのインストア加工にこだわる企業が多いのが現状である。SMの定番ともいえる、これらの手法は今も現役だ。しかし今後、人口減少が進み、さらに加速することになれば、いずれもビジネスの間尺に合わなくなり、やがて通用しなくなることは十分考えられる。

SMに起こる数々の変化

人口減少により、年々町から人は減っていき、SMの売上もそれに伴い減っていくことは避けられない(写真はイメージ、Qju Creative/istock)

 今後、高齢化の進行により人口減少がいっそう加速し、市場の縮小が予想される日本。そうなった場合、SMにはどのような変化が起こるのだろうか。

 第一に客数が減少する。国内の総人口が少なくなれば、SM各店が抱える商圏内に居住する世帯数、人口も同様に減る。この動きに伴い売上高は、従来のようには上がりにくくなる。さらに高齢化で食べる量も少なくなり、人口減以上のペースで需要は小さくなっていく。

 競争のさらなる激化も避けられない。売上高を確保しにくくなれば、各社には価格を下げ、お客を集めようとする強い誘因が働く。すでに現在、競争相手が同業態の

 SMだけでなく、食品の扱いの大きいドラッグストア(DgS)やディスカウントストアと戦うケースが増えている。人口が少なくなれば競争が今以上に熾烈さを増していくことは容易に予想できる。SMを運営するために必要な従業員の確保も難しくなる。日々、取材していると、新規出店に際し、パートタイマーやアルバイトといったスタッフを募集しても集まりにくくなっているという声をよく聞く。都市部はもちろんだが、地方においては先行的に深刻な問題になっていくだろう。

 一方、お客の目線で考えると、従業員が少なくなれば、接客のレベルが下がることはあっても上がる可能性は低い。過小な人数で運営しているSMでは、商品について詳しく知りたくても質問できない事態も起こるはずだ。

 売上高の低減を受け、動きの悪い商品を削っていけば、売れ筋中心の品揃えに近くなり差別化は難しくなる。一方、売上高が確保できないと商品回転率が下がり、売場、商品の鮮度も低下することになる。

 これらのように人口減少が進めば当然、商圏のボリュームが小さくなり、今、挙げたような問題が起こってくるようになる。

利益確保、差別化に有効なSPA

 これから本格的な人口減少時代が到来するにあたり、SMが取るべき対策にはどういったものが考えられるだろうか。

 SMとして第一は商品政策(MD)。地域、商圏のニーズに応える商品、サービスを提供することが最重要だ。今後は単に人口が減るのではなく、高齢化で年齢層・家族構成といった中身も大きく変化する。そのため健康に配慮した商品の提案も必要になる。一方、高頻度の来店をねらった生鮮食品の強化は異業態の競争においても有効である。

 そのうえで、生産性の向上は必須。自動発注や電子棚割システムなどAIやIoT(モノのインターネット)も活用した自動化、また省力化のアプローチは、人材確保のほか、利益を確保するという面でも実践すべきだ。

 利益確保、そして差別化という点では、SPA(製造小売)化も忘れてはならない。ある経営トップは「競争が激化すれば最後に勝敗を分けるのはプライベートブランド(PB)」と話していた。現在、有力DgS企業がPBに力を入れているのは「競争の最終決戦を想定しているから」という指摘もある。SMもこの視点を持つべきだろう。

 生産性向上に関連し働き方改革も進めなければならない。労働条件の改善だけでなく、長期的に働ける環境の整備は採用にあたっての大きな強みになる。

 いずれも対策としては目新しいものはないと感じる人も多いだろう。しかし以前から可能なことでも、これまで手付かずのまま放置されていた分野も多いはずだ。一例はインターネットを使った遠隔地間の意思疎通。かつて導入例は少なかったが、コロナ禍で対応が急務となり、リモート会議や商談が一気に広まった。

 どの対策も一定のコストを要する。しかしコロナ禍で内食需要が高まり、SMが潤っている時期こそ、これからやってくる人口減少時代に向けた戦略的なアクション、投資を行う好機と前向きにとらえるべきだろう。

※注1:総務省による住民基本台帳人口推計
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/daityo/jinkou_jinkoudoutai-setaisuu.html
※注2:国立社会保障・人口問題研究所がまとめた2017年推計
http://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp_zenkoku2017.asp
※注3:東京都による人口推計
https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/basicplan/pdf/1_siryo_2.pdf

 

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