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コロナ禍でも増収増益の「モスバーガー」が見据える次なる一手

モスフードサービス(東京都/中村栄輔社長)の2021年3月期(20年4月~21年3月)通期の連結決算は、売上高719億7200万円(前年度比4.3%増)、営業利益14億2200万円(同34.1%増)、純利益は9億9700万円(同173.1%増)の増収大幅増益だった。国内事業の売上高は590億9800万円(同7.2%増)、営業利益は41億2000万円(同23.4%増)だった。

コロナ禍でも増収大幅増益を達成したモスフードサービスのさらなる成長戦略とは

巣ごもり需要すくいあげ、増収増益

 コロナ禍で明暗が分かれた飲食業界。業界最大手のマクドナルドが好調をキープしたように日本発祥のハンバーガーチェーンの「モスバーガー」を展開する同社も、増収増益を達成した。

 大きな要因は、巣ごもり需要に加え、テイクアウトやデジタル化を推進することでニーズを最大限にすくい上げたことだ。

持ち帰りニーズの高まりをあらゆる角度から追求

 コロナの影響で、減収減益となった飲食店の多くは、居酒屋やカフェ業態。営業時間の制約や不要不急という理由から敬遠された格好で、緊急事態宣言の度重なる発出も加わり、大きなダメージを受けた。

 一方、宅配してもおいしさや形状変化の影響が少なく、その中でもいわゆる定番メニューを扱う飲食チェーンは底堅い人気で安定した売上をキープした。

 モスフードサービスは増収増益の要因として「国内モスバーガー事業は巣ごもり消費の需要に合わせた各種施策などにより、売上が堅調に推移いたしました」と明かしている。

 具体的には、①テイクアウトの強化、②デジタル施策の強化、③店舗の多様化推進だ。

 テイクアウトの強化は、ドライブスルー増強、宅配事業者との提携、キャッシュレス決済等による利便性の向上。

 さらにネット注文の拡充と限定メニュー、キャンペーン等による販促強化も行い、テイクアウトの付加価値を高めることで利用を促進した。

 加えて、テイクアウト時の商品の形状変化を最小化するため、タレの粘度を強め、持ち帰り後の快適さまで追求。持ち帰り用のパッケージにはスヌーピーのキャラクターを活用し、持ち帰り中の楽しさも付加し、子どもも喜ぶ工夫でファミリー層へ訴求。テイクアウト活用を側面からサポートし、単価アップにつなげた。

デジマ強化で巣ごもり需要を刺激

 マーケティングではデジタル施策を強化。自社アプリ(約380万ダウンロード)、WEB会員(約420万人)、ツイッター(約108万フォロワー)をうまく連携させ、テレビCMを効果的に投入することなどでキャンペーンや新商品、限定商品の告知を効果的に行い、需要を刺激。飽きさせない工夫で継続的な利用を促した。

 リアル店舗も編成を改善した。増収増益に貢献した郊外店舗では、採算状況等を見極めながら、閉店やリニューアルを実施。収益力の最適化に努めた。

 店舗の多様化にも積極的に取り組んだ。カフェ色の強い「モスバーガー&カフェ」、テイクアウト専門の店舗、小型店など、地域のニーズや顧客の利用動機に合わせ、新たな需要の開拓を模索し、変化への対応力を磨いた。

モスフードサービスの既存店売上高推移

 これらの施策の結果、21年3月期は既存店客数が5.3%減となったものの、同客単価は同14.8%増となり、既存店売上高は8.8%増と大幅増収を達成した。

コロナ禍で売上を伸ばした飲食チェーンの共通項は?

 コロナ禍で売上を伸ばした飲食チェーンには共通項がある。危機の一方で降ってわいたニーズの増大を的確な施策で掬い取る抜かりのなさだ。運の要素も否定できないが、その場しのぎでない経営を意識しているかが、大きな差を分けたといえる。

 逆に言えば、本来、数年先を見据えての施策が、図らずも災厄によって前倒しされ、効力を発揮したに過ぎず、いずれやる必要のある取り組みではあった。その意味では、コロナ特需に浮かれている暇はもちろんなく、むしろさらなる一手を模索することが来期以降へ向けての重要課題となる。

 店舗多様化や海外展開の推進はそうした施策の一つといえ、同社はすでにそうした所に目を向けている。

 具体的にはモスブランドを活用したお菓子類の販売や食パン、さらにアパレルにも参入し、ハンバーガーチェーン以外の柱づくりも着々と模索し始めている。

 

コロナが教えてくれた経営の神髄

一寸先は闇。コロナによって、どんなに好調でもあぐらをかけば、不測の事態で一気に転落する――。コロナはそのことをいやというほどリアルに教えてくれた。

同じ飲食業界でもコロナ禍で明暗がクッキリと分かれたが、裏を返せば、今回「暗」に沈んだ業態でも、これをチャンスに新たな切り口で前進を続ければ、一転、「明」の側に転換する可能性は十分あるということだ。

気を緩めることなく策を打ち続ける同社は、2022年3月期の売上高を前期比1.4%増の730億円、営業利益を同19.5%増の17億円、経常利益同26.1%増の18億円と見通している。