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ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営24 リアルリテールがネットリテールに勝てない明白な理由

前回、小売の歴史をストアリテール、ストリートリテール、タウンリテール、トランジットリテール、モールリテール、ネットリテールの順で解説した。
では、モールリテールなどのリアルのリテールは、ネットリテールに取って代わられるのだろうか。それとも存続していくのだろうか。本稿では「残念ながらリアルリテールはネットリテールには勝てない」理由を解説したい。

 

モールリテールの成長とネットリテールの登場

 モールリテールは、団塊世代と団塊ジュニア世代が牽引した。経済成長による所得の増加と旺盛な消費活動、大量消費の社会的な価値観、そしてモータリゼーションの発達も手伝ってショッピングセンターという多くのモールが開発された。しかし、今や団塊の世代は現役をリタイヤし団塊ジュニア世代は50歳になろうとしている。

 モールは、ストアリテールとは異なり、シネコン、ゲームセンター、フードコート、クリニック、カルチャースクール、スポーツジムなどバラエティに富んだテナント構成と適時なリニューアルによって鮮度を維持し顧客を惹き付け、モール内に同業種のテナント間競争を内包することで魅力を高めてきた。

  しかし、2008年、スマホの登場とその後のSNSの発達により、それまで存在した通信販売がECに置き換わり、Amazonや楽天のようなプラットフォーマーの登場によってECを躍進させ、メーカーや小売店も自らECに乗り出し、そのシェアを伸ばし続けている。

 そして20年春、図らずも新型コロナウイルスの襲来によって人々の行動は制限され、自粛と非接触を強制されることでネットリテールは急速な成長を遂げる。

モールリテールの焦り

 仕事柄、ショッピングセンター(SC)の社員研修を担当するが、EC議論になるとSWOT分析でネットとリアルの比較をする人が登場する。リアルの強みと弱み、ネットの強みと弱み、これを比べてどちらに優位性があるか明らかにする、という試みだ。だが、残念ながらリアルに挙げられる強みは「実物が見られる、持って帰れる、店員と会話ができる」ぐらいしかない。

 その他、コミュニケーションやコミュティを主張する人もいるが、そもそもリテールは利便性との戦いの歴史である。

 八百屋魚屋肉屋がスーパーマーケットになり、最寄り品がセルフ販売になり、店舗が24時間営業となったことを考えれば、店舗にコミュニケーションを求める局面は限りなく少ない。単価5万円の商品ならともかく、2980円の洋服にコミュニケーションを求めることがそもそも難しい。普段の生活でもコミュニケーションはLINEなどのSNSに置き換わっていないだろうか。

 

リアルは有限、ネットは無限

 ストアリテールやモールリテールなどに共通するものがある。それは他でも無い「不動産」である。土地建物と言う不動産が無ければ、リアルリテールは成立しない。実はここに最大の弱みがある。

  店舗不動産は、物件探し、交渉と契約、店舗設計と造作、在庫投資、販売員の採用、賃料や保険の負担などのコストが必要となる。不動産を探すこと、保有することには多くの人件費とコストと時間が必要であり、賃借すると賃料リスクを負う。コロナ禍で休業となり固定費の重圧に耐えられなくなったテナントも多い。

  リアルリテールに必要な不動産の特徴は有限性である。狭い国土の日本において商業用に適した場所や不動産はそう多くない。また、その適地を手に入れるためには相当の費用と時間が掛かる。今、人口減少によって地方から順に商業施設の適地が減少し店舗閉鎖が続くのは、不動産の物理的な有限性と商圏市場の有限性、この2つの有限性によって後退が進行しているのである。

 では、ネット上にECサイトを立ち上げるために何が必要か。それはURLの取得とサーバの確保だがそこに有限性はあるか。ここが不動産との違いである。

 佐世保から中継するジャパネットたかたも店舗不動産という有限性に縛られないビジネスの一つであるだろう。

SCにこだわらないSCとは!?

 このようにリアルでは、人と不動産が無ければ成立しないが、ECは、リアルな店舗を必要としない。とすれば、リテールビジネスの展開にいつまでもリアルにこだわる必要はないはずだ。こだわるがあまり前出のようにSWOT分析でリアル価値の優位性を求めようとする気持ちも分からなくもないが、その分析をもう一歩進めたいと思う。

ロケーションリテールの変化

 さて、そろそろ今号の結論に入りたい。リテールにおいて有限の不動産より無限のネットに軍配が上がることには誰しも納得するだろう。だからと言って、SC事業者にEC事業者に職替えをしろというつもりはない。不動産の有限性とネットの無限性をテーマにしているのは、あくまでリテール領域での話である。

 だからSC事業者は、「何が売れるか」「どうやって売るか」「対前年比」そればかり考えるのではなく、有限である不動産価値をいま一度見つめ直すその先に答えがあるはずだ。

 前号でも主張したが「物売りはネットに任せる」それぐらいの潔さを持って考えてみてはどうだろうか。

 要するに「SCShopping Centerの略」と決めつけている限り、ネットに勝つことはできない。この結論が、前号で指摘したパークリテール(Park Retail)につながる。是非、前回と合わせて読んでいただきたい。

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒