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3つの施策と1つの大きな懸念…コロナ直撃で創業以来最大の赤字となったリンガーハットは復活できるのか

長崎ちゃんぽんチェーン「リンガーハット」などを展開するリンガーハット(東京都/佐々野諸延社長)の2021年2月期決算は、当期純利益が87億4600万円の赤字となり、創業以来最大の赤字となった。コロナ禍の人流の変化で、これまでの首都圏やショッピングセンターなどへの集中的な出店戦略が裏目に出た格好だ。不採算店舗の大量閉店やデジタル・トランスフォーメーション(DX)推進による生産性向上などで「ポストコロナ体制」を確立し、創業60周年までの巻き返しを図る。

リンガーハットはどのように再起をめざすのか?

創業以来最大となる87億4600万円の赤字

 リンガーハットがさきごろ発表した2021年2月期決算は、売上高340億4900万円(対前期比28.0%減)、営業損失54億300万円(前期は15億5400万円の利益)、経常損失は55億6100万円(前期は14億6000万円の利益)、親会社帰属の当期損失は87億4600万円(前期は2億1000万円の損失)だった。

 新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、飲食各社の決算は明暗が分かれたが、同社はモロに打撃をこうむるかたちで、大幅な減収減益となった。ステイホームにあわせ、テイクアウトやデリバリーを強化したが、2度の緊急事態宣言による臨時休業、営業時間短縮等による減収分をリカバリーするには至らなかった。既存店の売上高は28.3%減、客数は27.8%減だった。

 事業別では長崎ちゃんぽん事業が売上高265億1700万円(28.1%減)、営業損失47億3400万円(前期は営業利益10億6200万円)。とんかつ事業は売上高73億5800万円、営業損失7億5700万円(前期は営業利益2億7200万円)だった。

 とんかつ事業である「浜かつ」は「リンガーハット」よりも落ち込みは小さく、既存店売上高対前期比は「浜かつ」21.3%減、「リンガーハット」29.8%減だった。提供メニューの違い(持ち帰りニーズとも関連)とそれに伴う出店エリア・立地の違いが影響した格好だ。とんかつはかつやを展開するアークランドサービスホールディングスの最新決算をみても、落ち込みが少ないことは明らかだ(かつやはロードサイド出店がメーンのため商業施設休業に業績が左右されなかったことも大きい)。

不採算店舗大量閉店で前期比111店舗の減少

 21年2月期の出退店に関して、同社は17店舗を新規出店する一方、不採算の128店舗を閉店し、2月末で国内692店舗、海外12店舗、合計704店舗(うちフランチャイズ207店舗)となり、前期比で111店舗の減少。うち、主力の「リンガーハット」は、新店16、閉店105だった。22年2月期は、新規の出店を1店舗に抑え、テイクアウトなどを強化。それにより当期純利益で8億円の黒字転換を見込む。

リンガーハット22年2月期の通期計画(出典:同社決算説明資料より)

 2022年の「創業60周年」を控え、創業以来の大幅な赤字となった同社。最大の要因は新型コロナウイルス感染症拡大の影響だ。出店コストを抑えられるショッピングセンターへの出店は店舗数増大を推進したものの、コロナ禍では施設の休業や密になりやすいことなどが仇となり、客足が遠ざかった。首都圏の店舗も、在宅ワークの浸透により、利用者が減少した。

復活へ向け掲げた3つの施策

 コロナ禍で激変した人流の変化による減収分のリカバリー策として同社が掲げた主な施策は、外販の強化、テイクアウト・デリバリ―の強化、出店エリアの再考だ。

 同社の外販事業の売上高はまだ全体の1割弱だが、巣ごもり需要で伸びしろは大きく、同社でも主力の長崎ちゃんぽん、皿うどん、餃子、チャーハンの冷凍食品をEC経由で販売。着実に売上を伸ばしている。品質にも自信を持っており、顧客からの評判も良好といい、今後は量販店などにも販路を拡大していく。

 コロナ禍で注力した持ち帰りもさらなるテコ入れを図る。他のファーストフードと違い、ちゃんぽんは時間が経つと冷めて麺が伸び、味が著しく落ちてしまう課題がある。このマイナス面をのびにくい麺の開発や持ち帰り容器の改良などでカバー。「テイクアウトでもおいしいちゃんぽん」として、需要を掬い上げる。

 出店エリアについては、ショッピングセンター、首都圏への出店攻勢が裏目に出たことを教訓に、ロードサイドへの出店強化へシフト。出店エリアをコロナ禍で激変した人流に最適化することで、取り逃がした顧客を追いかける形で巻き返しを図る。

DXの推進で人件費を圧縮し生産性向上も

 あわせて、大幅な店舗削減で圧縮した人件費は、DXを推進することでさらに突き詰める。具体的には、AIによるデータ解析でたな卸しや在庫確認の効率化を進め、売上予測等の精度も高めつつ、ロスを最小化。従業員の作業負荷を軽減し、よりコアな店舗作業のための時間拡張を図り、生産性の最大化を目指す。

 主流だったリアル店舗の出店計画を見直し、持ち帰り・外販を強化して飲食機会の多様化を進める――。同社の巻き返し策はざっくりいえばそういうことになる。これらは、コロナ禍で「勝ち組」となった飲食が例外なく徹底していた施策でもある。その意味では、すでに効果は約束されている鉄板施策といえるが、懸念材料もある。

復活シナリオに潜む懸念材料とは

 同社の停滞が、コロナ前の2018年8月の値上げに端を発していることだ。実は既存店売上高は2018年10月度以降、2021年3月度までの30ヶ月の間、前期比実績をクリアしたのは19年6月の1回だけなのである(同社月次の「純既存店」の数字)。

 当時、原料価格高騰などを理由に13品目の値上げを実施。これにより客数が減少した分を、低価格のランチメニューで回復をめざした。その結果、客数は増えたものの客単価が減少。飲食の勝ち組企業がうまく取り込んで客単価アップにつなげたファミリー層を取り切れず、利幅を狭めるだけに終わっている。そうした悪循環の中でコロナ禍に突入しての結果であることは重く受け止める必要がある。

 つまり、コロナで離れた顧客を追うだけではここ数年の低迷を打破することは困難ということだ。ロードサイド店へのシフトでは、どれだけファミリー層を取り込めるが重要なる。ちゃんぽんに限れば、デリバリ―でもよりスピーディーな発送体制が求められるだろう。価格設定も人件費圧縮分を転換するなど大胆な施策がなければ、劇的な回復は難しいかもしれない…。

 その意味では外販事業は商品力の高さに加え、潜在ニーズも最も高く、ポストコロナを見据えても最も可能性を秘めた領域といえるだろう。実際、同社も生産体制を増強し、同事業を新たな収益源として育てていく方針だ。

 同社はコロナ後を見据えつつ、「食事をすることに今まで以上に楽しさとか美味しさとかいうことが体感できないとなかなか店舗にまで足を運んでいただけない。まだまだ試行錯誤中だが、来店してもらえる店舗をつくってモデル化したい」と既存店舗の枠を超えたニュータイプの店舗づくりへも意欲をみなぎらせる。

 コロナが追い打ちをかけた低迷打破へのロードマップは、コロナで変質した消費者の食に対する意識の変化に適合する飲食モデルを見出す、前例も方程式もない険しいものとなりそうだ。